5:00 PM - 5:15 PM
[G3-O-8] Age and characteristics of the Pliocene plant megafossils from the Fudenzaki Formation of the Aguni-jima Island, Central Ryukyus
Keywords:Pliocene, Plant macrofossils, Aguni Flora, Ryukyu Islands, Subtropical forest
沖縄本島の北西約60kmに位置する粟国島は、海底を北東ー南西方向に広がる後期中新世ー鮮新世の地質体の北東端に位置し、これが陸上に露出したものと捉えられている(氏家, 1983)。陸上に露出する地質体の下部は、主として火砕岩からなる粟国層群で、上位を琉球石灰岩に相当する銅寺層に覆われる。粟国層群に含まれる火山岩類については海洋地殻の進化史という観点からいくつかの研究があるものの(新城ほか, 1990; Shinjo et al., 1995)、本層中部の筆ん崎層に含まれる植物化石については検討されてこなかった。本層群の植物化石は、琉球列島の多様な亜熱帯林の成立史を明らかにする上で重要なため、演者らは現地の地質調査を行うとともに化石群集の分類学的研究を進めている。講演では、化石群集(以下、粟国植物群と称する)の組成について予察的な検討結果を紹介するとともに、新たに得られたU-Pb年代からみた化石群集の年代とその意義を報告する。
<層序と年代>
粟国島南西部に露出する筆ん崎層は、下位より(1)白色の浮石質凝灰角礫岩(~30m)、(2)葉理の発達した凝灰岩(~10m)、(3)浮石質凝灰角礫岩(10m+)、(4)白色〜やや黄色の凝灰岩、(5)浮石質火山礫凝灰岩(~5m)からなり、2から保存のよい大型植物化石を、5からは生痕化石や貝化石、石灰質ナンノ化石を産出する。この度、1の凝灰角礫岩と4の凝灰岩を採集しU-Pb年代の測定を試みた結果、それぞれ3.5±0.1 Maと3.6±0.1Maの年代を得た。
<粟国植物群の特徴>
化石群集は葉理が発達したやや凝灰質の明褐色泥岩から産出した。多くは葉化石であるが、一部に種子や果実の化石を含む。極めて多様な分類群からなり、現在までに71の葉型タイプを認めた。構成要素の大部分が全縁で厚い葉組織を持ち、全縁葉率は70.4%であった。もっとも多産する要素は、フトモモ属Syzygium(アデク類似種S. cf. buxifolia)およびグミ属Elaeagnus(アキグミ類似種E. cf. umbellata)で、科としてはマメ科が少なくとも8タイプ、ブナ科とクスノキ科が7タイプと多様であった。ブナ科植物では、琉球列島に固有のオキナワウラジロガシQuercus (Cyclobalanopsis) miyagii、クスノキ科では琉球列島固有のシバニッケイCinnamomum doederleiniiや、琉球列島から九州地方に分布するヤブニッケイC. yabunikkeiに比較できる標本が含まれていた。また、産出数はわずかだが、シイ属Castanopsis sp.やアコウ類似種Ficus cf. subpisocarpaが見られた。一方、本化石群集には、現在の日本列島に分布しないアブラスギ属Keteleeriaやタイワンスギ属Taiwania、フウ属Liquidambar、サイカチ属Gleditsiaも含まれている。また、果実や葉が産したモクマオウ属Casuarina sp.の現生種は南アジアから東南アジアの要素である。
<粟国植物群の年代とその意義>
新たに得られたU-Pb年代は粟国植物群の年代がおよそ3.5Ma前後の中期鮮新世であることを示す。この年代は、本層上部の海成層から得られる石灰質ナンノ化石に基づいた生層序年代(CN12a: 3.6-2.8 Ma)とも整合的である。粟国植物群はカシやクスが優占することや、高い全縁葉率から、熱帯・亜熱帯の気候下で成立した組成といえる。琉球列島の固有種を含むことや、シイ類、アコウ類似種などの常緑広葉樹は、本群集と現在の琉球列島の植物相との高い共通性を示唆する。従来、琉球列島の亜熱帯林の成立時期は更新世だとされてきたが、本研究の予察的な検討結果は、現在につながる植生の萌芽が鮮新世中頃に遡ることを示し、鮮新世の温暖期(Pliocene climate optimum: 3.3-3.0 Ma)の直前で、現在よりもやや温暖な環境の拡大が影響した可能性が示唆される。
<参考文献>
・黒田登美雄, 1998, 安田・三好(編)「図説日本列島植生史」, 162-175.
・新城竜一ほか, 1990, 岩鉱, 85, 282-297.
・Shinjo, R. et al., 1995, Bull. Coll. Sci., Univ. Ryukyus, (60), 27-50.
・氏家 宏, 1983, 地質学論集, (22), 131-140.
<層序と年代>
粟国島南西部に露出する筆ん崎層は、下位より(1)白色の浮石質凝灰角礫岩(~30m)、(2)葉理の発達した凝灰岩(~10m)、(3)浮石質凝灰角礫岩(10m+)、(4)白色〜やや黄色の凝灰岩、(5)浮石質火山礫凝灰岩(~5m)からなり、2から保存のよい大型植物化石を、5からは生痕化石や貝化石、石灰質ナンノ化石を産出する。この度、1の凝灰角礫岩と4の凝灰岩を採集しU-Pb年代の測定を試みた結果、それぞれ3.5±0.1 Maと3.6±0.1Maの年代を得た。
<粟国植物群の特徴>
化石群集は葉理が発達したやや凝灰質の明褐色泥岩から産出した。多くは葉化石であるが、一部に種子や果実の化石を含む。極めて多様な分類群からなり、現在までに71の葉型タイプを認めた。構成要素の大部分が全縁で厚い葉組織を持ち、全縁葉率は70.4%であった。もっとも多産する要素は、フトモモ属Syzygium(アデク類似種S. cf. buxifolia)およびグミ属Elaeagnus(アキグミ類似種E. cf. umbellata)で、科としてはマメ科が少なくとも8タイプ、ブナ科とクスノキ科が7タイプと多様であった。ブナ科植物では、琉球列島に固有のオキナワウラジロガシQuercus (Cyclobalanopsis) miyagii、クスノキ科では琉球列島固有のシバニッケイCinnamomum doederleiniiや、琉球列島から九州地方に分布するヤブニッケイC. yabunikkeiに比較できる標本が含まれていた。また、産出数はわずかだが、シイ属Castanopsis sp.やアコウ類似種Ficus cf. subpisocarpaが見られた。一方、本化石群集には、現在の日本列島に分布しないアブラスギ属Keteleeriaやタイワンスギ属Taiwania、フウ属Liquidambar、サイカチ属Gleditsiaも含まれている。また、果実や葉が産したモクマオウ属Casuarina sp.の現生種は南アジアから東南アジアの要素である。
<粟国植物群の年代とその意義>
新たに得られたU-Pb年代は粟国植物群の年代がおよそ3.5Ma前後の中期鮮新世であることを示す。この年代は、本層上部の海成層から得られる石灰質ナンノ化石に基づいた生層序年代(CN12a: 3.6-2.8 Ma)とも整合的である。粟国植物群はカシやクスが優占することや、高い全縁葉率から、熱帯・亜熱帯の気候下で成立した組成といえる。琉球列島の固有種を含むことや、シイ類、アコウ類似種などの常緑広葉樹は、本群集と現在の琉球列島の植物相との高い共通性を示唆する。従来、琉球列島の亜熱帯林の成立時期は更新世だとされてきたが、本研究の予察的な検討結果は、現在につながる植生の萌芽が鮮新世中頃に遡ることを示し、鮮新世の温暖期(Pliocene climate optimum: 3.3-3.0 Ma)の直前で、現在よりもやや温暖な環境の拡大が影響した可能性が示唆される。
<参考文献>
・黒田登美雄, 1998, 安田・三好(編)「図説日本列島植生史」, 162-175.
・新城竜一ほか, 1990, 岩鉱, 85, 282-297.
・Shinjo, R. et al., 1995, Bull. Coll. Sci., Univ. Ryukyus, (60), 27-50.
・氏家 宏, 1983, 地質学論集, (22), 131-140.