130th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

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Session Oral

T15[Topic Session]Regional geology and stratigraphy: review and prospect

[2oral711-16] T15[Topic Session]Regional geology and stratigraphy: review and prospect

Mon. Sep 18, 2023 3:00 PM - 5:15 PM oral-07 (38-North Wing, Yoshida-South Campus Academic Center Bldg.)

Chiar:Daisuke Sato(AIST/GSJ), Noritaka Matsubara

3:00 PM - 3:30 PM

[T15-O-1] [Invited] 45 years of accretionary complex research based on field works

*Koji WAKITA1,2 (1. Yamaguchi University Community Future Center, 2. Geological Survey of Japan, AIST)

Keywords:field works, regional geology, accretionary complex, geological map, geological model

地球の理解を目的としている地質学において,最初に行うのは,野外調査である.本講演では付加体地質を例に,地域地質における野外調査の重要性について述べる.講演者は,地質図幅作成を中心に,約45年間付加体地域の地質図を作ってきた.地質図幅プロジェクトは,日本全国の地質図の整備を目指して,直接自然に向き合い,各地域の地質実態を明らかにすることが最大の目的である.よって,特定の研究目的は持っていない.しかし,野外で接する地層や岩石を地質図に表すためには,一定の法則や理念(考え方)が必要になる.岐阜県中央部の八幡図幅(脇田,1984)作成時には付加体という概念はなく,美濃帯の地層群は地向斜堆積物として認識され,そこに含まれる混在相は海底地すべり堆積物(オリストストローム)として描かれた.海底地すべり堆積物は,地層であるから地層累重の法則に従い,古いものから新しいものへと順番に重なる.しかし,野外調査を進め,岩石の化石年代を決定すると,”層序”が成り立たないことが判明する.同じく岐阜県内の谷汲図幅(脇田, 1991)や下呂図幅(脇田・小井土, 1994)地域では,泥ダイアピルの可能性を念頭に露頭に向かうことで,異常間隙水圧で破壊された岩塊の存在や泥岩基質の注入構造などが観察できた.泥ダイアピルメランジュに認定されたことで, この地域の混在相は堆積層ではないことが判明し,”オリストストローム”ではなく“メランジュ”と呼ばれるようになった.混在相ばかりではなく, 整然相においても研究が進展し,詳細な微化石年代層序によって,これらの岩石が,玄武岩→石灰岩→チャート→珪質泥岩→砂岩・泥岩と重なる“海洋プレート層序”で形成されていることが明らかになってきた.”海洋プレート層序“を意識して野外調査を実施すると,美濃帯の付加体は,プレート収束境界である海溝で海洋プレートから剥ぎ取られ,陸側の大陸プレートに付加し,収束境界のプレート運動によって,付加体内部で次第に変形を累積させ,複雑な形態の付加複合体が形成されていったことが良く分かる.付加体の概念が形成される以前は,チャートなど風化に強く,地表で目立つ岩石のみが抽出され,それらを繋ぐことで地質図が描かれてきたが,地層の上下関係が明瞭な海洋プレート層序を意識して地質図を作成することによって,地質構造が明瞭になり,美濃帯のみならず,秩父帯,超丹波帯,秋吉帯などで以前とは異なった詳細な地質図が描かれるようになった.このように,日本の付加体分布地域では,付加体地質学的観点(例えば,海洋プレート層序の破断変形)で地質図が描かれるようになったが,海洋プレート層序の破断変形だけでは地質構造が理解できない事例が存在することが近年明らかになった.山口県の秋吉帯には秋吉石灰岩という巨大な石灰岩体がある.この石灰岩は,小澤儀明(1923)によって大規模に逆転していることが明らかにされた.その後,逆転構造を石灰岩に限定して長年議論されてきた(藤川ほか, 2019)が,最近石灰岩の周辺に分布しチャート-砕屑岩シーケンスからなる別府ユニットや,付加体を覆う被覆層として認識されはじめた常森層(Wakita et al., 2018)も石灰岩同様に逆転していることが判明した(Davydov and Schmitz, 2019; 脇田ほか, 2021).これらを総合すると,付加体の内部構造変形のみでは,石灰岩を含む地層群の逆転構造は説明することができない.おそらく,付加体形成終了後に発生した構造運動によって変形を受けたことが推定される.このように,露頭を常に最新の知見で見直しながら野外調査を実施し地質図を作成する,そしてそれを繰り返すことで,新たな地質モデルを形成する道が開けてくる.野外調査研究の醍醐味は, まさにそこにある.
引用文献
Davydov,V. and Schmitz,M.D., (2019) "Palaeo3", 527,133-145
藤川将之・中澤 努・上野勝美(2019) 地質学雑誌, 125, 609-631.小澤儀明(1923) 地質学雑誌, 30, 227-243.
脇田浩二(1984) 八幡図幅, 地質調査所
脇田浩二(1991) 谷汲図幅, 地質調査総合センター
脇田浩二・小井土由光(1994) 下呂図幅, 地質調査総合センター
脇田浩二・辻智大・亀高正男(2021)地質学会名古屋大会講演要旨Wakita, K., Yoshida,R. & Fushimi, Y. (2018) doi:10.1016/j.helyon.2018.e01084