日本地質学会第130年学術大会

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セッションポスター発表

T2[トピック]変成岩とテクトニクス【EDI】

[2poster01-25] T2[トピック]変成岩とテクトニクス【EDI】

2023年9月18日(月) 13:30 〜 15:00 T2_ポスター会場 (吉田南総合館北棟1-2階)

[T2-P-5] (エントリー)ラマン分光法を用いた接触変成帯における石灰岩の変成温度推定

*壱岐 美乃1、壷井 基裕1 (1. 関西学院大学)

岐阜県揖斐川町春日地域は,幅3 km以上の接触変成帯として,貝月山花崗岩が周囲の岩石に接触変成作用を与えている1)。また,ドロマイトスカルンが広域的に分布する地域であり,Mgに富む鉱物が多く見られる1)。炭酸塩鉱物であるcalciteとdolomiteは固溶体を形成し,その金属カチオンの置換は化学的・熱力学的反応をよく反映することが知られている。Calcite-dolomiteソルバス温度計(log[MgCO3 mol % in calcite]=1.727×10-3T-0.223)2)は,地質学的温度計の一種であり,代表的な変成温度推定手法である。Suzuki(1975; 1977)は,電子プローブマイクロアナライザーと粉末X線回折を用いて,calcite中のMg量をcalcite-dolomiteソルバス温度計へ適用することで,貝月山花崗岩接触面から約3 kmの範囲における石灰岩の変成温度分布を詳細に報告した3,4)。さらに,Aoya(2010)は,ラマン分光法を用いて,炭質物の石墨化度を炭質物地質学的温度計へ適用することで変成温度を推定した5)。しかし,接触変成帯のcalciteとdolomiteの固溶体における系統的なラマンスペクトル分析は,ほとんど行われていない。Calciteに固溶可能なMg量は温度が上昇すると共に増加し,ラマン分光法で測定されるν4(CO32-の面内振動)は高波数側へシフト(ν4=711.9+0.19[% mol MgCO3])6)する。本研究では,岐阜県揖斐川町春日の貝月山花崗岩接触変成帯において,ラマン分光法によりcalcite中のMgを定量し,calcite-dolomiteソルバス温度計へ適用することで石灰岩の変成温度を推定した。
 採取した石灰岩(KG1,KG2,KG3,KG4,KG5,KG6)より作成した薄片について,顕微ラマン分光分析装置でcalciteのν4を30ポイント以上,dolomiteのν4を5ポイント以上それぞれ測定した。その結果,全ての試料より,calciteとdolomiteのラマンスペクトルを確認することができた。よって,周囲にMgが十分にある環境であり,calcite中のMg濃度は変成温度を反映すると考えられる。最も高波数側へシフトしたν4から変成温度をそれぞれ算出すると,各試料の変成温度は,KG1(911 ℃),KG2(908 ℃),KG3(829 ℃),KG4(775 ℃),KG5(700 ℃), KG6(700 ℃)となった。これより,熱源である花崗岩から近い位置で採取した試料ほど変成温度が高くなることが確認できた。しかし,採取地点の近い試料(KG3,KG4,KG5)同士のばらつきは大きくなった。これは,測定ポイント数を先行研究よりも約3倍に増やした結果,熱変成由来でないMg-calciteの影響が大きくなった可能性が考えられる。そこで,各試料のポイントごとに算出したcalcite中のMg量の最頻値で変成温度を再算出した。その結果,各試料の変成温度は,KG1(829 ℃),KG2(825 ℃),KG3(706 ℃),KG4(706 ℃),KG5(700 ℃),KG6(602 ℃)となった(図1)。図1に示される温度分布より,最も高波数側へシフトしたν4から変成温度を算出するよりも,最頻値で変成温度を算出した方が近い地点で採取した試料同士のばらつきが小さくなった。一部の試料(KG1,KG2)の変成温度が先行研究で報告されている変成温度(400-650℃)よりも極めて高く推定されたのは,先行研究よりも花崗岩に非常に近い地点で試料を採取したことが原因であると考えられる。また,KG3,KG4,KG5で先行研究よりも高い変成温度が推定されたのは,部分的に花崗岩が直下に貫入している可能性が考えられる。以上より,試料中の最も高波数側にシフトしたcalciteのν4から変成温度を算出するよりも,測定ポイントごとに算出した変成温度の最頻値をその変成温度とする方が有効であるといえる。
 参考文献
1) M Enami et al., 地質学雑誌 第127巻 第6号, 313-331, 2021
2) Sheppard S.M.F. et al., Contributions to Mineralogy and Petrology 26, 161-198, 1970
3) 鈴木和博, 地質学雑誌 第81巻 第8号, 487-504, 1975
4) K Suzuki, Contributions to Mineralogy and Petrology 61, 79-89, 1977
5) M Aoya et al., Journal of Metamorphic Geology 28, 895-914, 2010
6) L Borromeo et al., Journal of Raman Spectroscopy 48, 983-992, 2017