日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッションポスター発表

T2[トピック]変成岩とテクトニクス【EDI】

[2poster01-25] T2[トピック]変成岩とテクトニクス【EDI】

2023年9月18日(月) 13:30 〜 15:00 T2_ポスター会場 (吉田南総合館北棟1-2階)

[T2-P-13] 九州中部肥後変成帯に産する高度変成岩のシュードセクション解析と部分溶融

*小林 記之1 (1. 名古屋学院大学)

キーワード:肥後変成帯、部分溶融、高度変成岩、ミグマタイト、シュードセクション

部分溶融を伴った高度変成岩やミグマタイトの研究は、下部地殻での部分溶融過程及び生成されたメルトの分離・移動プロセスを理解する上で非常に重要である。九州中部肥後変成帯は、高温低圧型(high-T/P)の変成帯とされており、高温部には高度変成岩類である泥質片麻岩とともにミグマタイトが産し、その変成度は高温部で、角閃岩相からグラニュライト相に達している(e.g. Obata et al., 1994; Osanai et al., 1996)。肥後変成帯は、永川ほか (1992)の鉱物組み合わせによってAからEの5帯に変成分帯され変成度は北から南に向かい上昇しているとされており、高温部のD帯はザクロ石(Grt)+菫青石(Crd)の鉱物共生の出現、E帯では、斜方輝石(Opx)の出現および珪線石(Sil)、菫青石(Crd)の消失で特徴づけられている。この高温部では、部分的にMaki et al. (2004)やMiyazaki (2004)によって、変成分帯の再構築がなされている。肥後変成帯高温部にはミグマタイトが産しており、このミグマタイトは、その場での部分溶融により生じたこと、高温部からは全岩組成を変えるほどのK成分にとんだメルト(優白質花崗岩)が低温部へと抜け出ることにより、高温部のE帯のミグマタイトはレスタイト的に変化した可能性が指摘されている(Kobayashi et al., 2005)。さらに、部分溶融によって形成されたメルトは低温部へと抜け出る際に、熱を輸送するキャリアーとなっているとともに(Miyazaki,2004)、元素移動のキャリアーとして重要な役割を果たしていると考えられている。また、小林ほか (2010)は、全岩化学組成分析から得られた、微量元素組成を用いてモデル計算を実施し、九州中部肥後変成帯最高温部では部分溶融度が30%程度にまで達していた可能性を示唆した。
 本研究では、熱力学的解析の「シュードセクション法」を用いて、高度変成岩の解析を行い、九州中部肥後変成帯の変成分帯、変成温度圧力見積もりの推定値との比較、および部分溶融度の推定比較を実施した。シュードセクション法の解析には、Kobayashi et al. (2005)によって報告されている、肥後変成帯に産する泥質片麻岩の平均全岩化学組成を用いた。また、シュードセクション法の解析では、de Capitani & Petrakakis (2010)のTheriak-Domino softwareを用いて、NCKFMASHT系のシステムで、1.0 wt% のH2Oを仮定して計算した。その結果、D帯を特徴づけるザクロ石(Grt)+菫青石(Crd)の鉱物共生は、700-850℃、4-7 kbarの範囲に出現し、E帯を特徴づける斜方輝石(Opx)の出現および珪線石(Sil)、菫青石(Crd)の消失領域は、D帯の温度圧力領域より高温高圧側に分布し、>850℃、>5 kbarの範囲に出現することが明らかとなった。また、シュードセクション法の解析と、D帯の従来の変成温度圧力見積もり(e.g. Obata et al., 1994; Osanai et al., 1996) は調和的である。一方で、本研究のE帯のシュードセクション法の解析では、従来の地質学的温度圧力計を用いた変成温度圧力見積もりと概ね調和的であるが、若干、高温高圧条件が推定された。さらに、シュードセクション法の解析から、E帯での部分溶融メルトは>30 vol%に達することがシュードセクション法の計算により推定された。この結果は、小林ほか (2010) による、全岩化学組成のモデル計算で求められた、E帯の部分溶融度推定の30%程度とも整合的である。
【引用文献】 Obata et al. (1994), Lithos, v. 32, p. 135-147. Osanai et al. (1996), Japan. Tectonics and Metamorphism, SOUBUN Co., Ltd., p. 113-124. 永川ほか (1992),日本地質学会第99年大会見学旅行案内書, p33-49. Maki et al. (2004), Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, v.99, p. 1-18. Miyazaki (2004), Journal of Metamorphic Geology, v. 22 (9), p. 793-809. Kobayashi et al. (2005), Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, v. 100, p. 1-25. 小林ほか (2010), 日本地球惑星科学連合2010年大会, SMP055-P08 de Capitani & Petrakakis (2010), American Mineralogist 95, 1006-1016.