[T2-P-14] (entry) Petrology of metamorphic rocks of the Koshimizu body, the Hida belt
Keywords:Hida belt, migmatite, continental crust
飛騨帯は、地殻深部由来の岩石を主体とする地質帯で、泥質、石英長石質、塩基性、石灰質の変成岩とそれに貫入する深成岩類からなる。東は富山県宇奈月から西は隠岐まで分布し、飛騨山地を主要部とする。変成岩は優白質部と優黒質部が不均質に混在する複雑な構造を有しており、加納(1981)は記載岩石学的な立場からこれをミグマタイトと称した。ミグマタイトの成因として部分溶融に伴う分離が考えられる(優白質部はメルト、優黒質部は溶け残りとする)が、飛騨帯では岩石学的に検討した研究はない。鈴木ほか(1989)がザクロ石-黒雲母温度計を適用して、北西側(内帯)は〜650℃、南東部(外帯)は〜720℃の条件を見積ったが、この温度構造と無関係に、より高温条件を示唆する鉱物共生が断片的に見つかっている。この高温イベントの実態を明らかにするため、本研究では、飛騨帯北西部(内帯)に位置する高清水岩体に産するミグマタイト構造を呈する変成岩に注目し、岩石学的研究を行なった。
高清水岩体の変成岩は、石英、斜長石を主成分とし、卓越するマフィック鉱物の種類によって黒雲母岩、角閃石岩、石英長石質岩(マフィック鉱物<10%)に分類することができる。これに加えて方解石を主成分とする石灰質岩が産する。黒雲母岩、角閃石岩共にマフィック鉱物の濃淡によるミグマタイト構造が発達する。岩体の西側では粒径0.1-0.4mmで片状構造が発達し、粒径1mm程度の組織は稜線付近で観察される。
黒雲母岩の特徴的な鉱物共生として、(1)ザクロ石-菫青石、(2)珪線石-黒雲母-ザクロ石、(3)珪線石-黒雲母-十字石、(4)黒雲母±ザクロ石を確認した。共生(1)は比較的粗粒、それ以外は片状構造が特徴的である。(1)、(2)、(3)は温度低下に伴う共生変化と解釈できる。また、十字石は褐色の変質部分に細粒の半自形から自形の粒子群として見つかる。紅柱石は珪線石を内包して斑状変晶をなす。これらは庄川花こう岩の熱変成作用による産物と考えられる。優黒質部に残存するザクロ石-珪線石-スピネル共晶がザクロ石-黒雲母温度計による推定温度(650℃、鈴木ほか(1989))よりも高温のピーク条件を示唆する。
鉱物共生と優白質-優黒質のバリエーションをカバーする試料群に石英長石質岩を加えて、XRFによる全岩化学組成の分析を行なった。石英長石質岩はKに乏しく、庄川花崗岩の組成とは明らかに異なる。また、黒雲母岩の組成は一般的な泥質岩の組成よりもCaに富み、Kに乏しい。飛騨帯の他地域の変成岩組成とACF図上で比較すると、高清水岩体の黒雲母岩の組成分布は小鳥川-水無地域の黒雲母岩の組成分布と類似していることが明らかになった。これに対して、神岡-和田川地域の変成岩組成は黒雲母岩、角閃石岩ともにホルンブレンド組成を端成分とする変化を示し、上記2地域のものとは異なる。 高清水岩体の黒雲母岩の組成をACF図にプロットすると石英長石質岩とザクロ石-菫青石の組成混合線の間に分布し、SiO2(wt%)が低いものほどザクロ石と菫青石の混合組成に近く、高いものは石英長石質岩付近にプロットされる。上記の関係はSiO2/Al2O3に対して他の成分をプロットしても矛盾なく説明できる。
この岩石の多様性を説明できる解釈として、部分溶融(ミグマタイトモデル)が考えられる。すなわち、メルト成分は石英長石質岩で代表され、溶け残り成分はザクロ石+菫青石であり、黒雲母岩の組成幅はメルト成分の離脱の程度を反映している、と見る。このモデルを検証するためには、微量元素も含めて固液分離で説明できるか、また、高清水岩体のピーク温度条件が黒雲母岩におけるザクロ石+菫青石+メルトの共存条件を合致するかを検討する必要がある。
<引用文献> 加納隆 (1981). 飛騨変成帯のミグマタイト構造. 地質雑, 87(5), 315–328. 鈴木盛久, 中沢伸治, 刑部哲也 (1989). 飛騨帯の構造発達史-変成履歴と後期石炭紀〜三畳紀の変動について-. 地質学論集, 33, 1–10.
高清水岩体の変成岩は、石英、斜長石を主成分とし、卓越するマフィック鉱物の種類によって黒雲母岩、角閃石岩、石英長石質岩(マフィック鉱物<10%)に分類することができる。これに加えて方解石を主成分とする石灰質岩が産する。黒雲母岩、角閃石岩共にマフィック鉱物の濃淡によるミグマタイト構造が発達する。岩体の西側では粒径0.1-0.4mmで片状構造が発達し、粒径1mm程度の組織は稜線付近で観察される。
黒雲母岩の特徴的な鉱物共生として、(1)ザクロ石-菫青石、(2)珪線石-黒雲母-ザクロ石、(3)珪線石-黒雲母-十字石、(4)黒雲母±ザクロ石を確認した。共生(1)は比較的粗粒、それ以外は片状構造が特徴的である。(1)、(2)、(3)は温度低下に伴う共生変化と解釈できる。また、十字石は褐色の変質部分に細粒の半自形から自形の粒子群として見つかる。紅柱石は珪線石を内包して斑状変晶をなす。これらは庄川花こう岩の熱変成作用による産物と考えられる。優黒質部に残存するザクロ石-珪線石-スピネル共晶がザクロ石-黒雲母温度計による推定温度(650℃、鈴木ほか(1989))よりも高温のピーク条件を示唆する。
鉱物共生と優白質-優黒質のバリエーションをカバーする試料群に石英長石質岩を加えて、XRFによる全岩化学組成の分析を行なった。石英長石質岩はKに乏しく、庄川花崗岩の組成とは明らかに異なる。また、黒雲母岩の組成は一般的な泥質岩の組成よりもCaに富み、Kに乏しい。飛騨帯の他地域の変成岩組成とACF図上で比較すると、高清水岩体の黒雲母岩の組成分布は小鳥川-水無地域の黒雲母岩の組成分布と類似していることが明らかになった。これに対して、神岡-和田川地域の変成岩組成は黒雲母岩、角閃石岩ともにホルンブレンド組成を端成分とする変化を示し、上記2地域のものとは異なる。 高清水岩体の黒雲母岩の組成をACF図にプロットすると石英長石質岩とザクロ石-菫青石の組成混合線の間に分布し、SiO2(wt%)が低いものほどザクロ石と菫青石の混合組成に近く、高いものは石英長石質岩付近にプロットされる。上記の関係はSiO2/Al2O3に対して他の成分をプロットしても矛盾なく説明できる。
この岩石の多様性を説明できる解釈として、部分溶融(ミグマタイトモデル)が考えられる。すなわち、メルト成分は石英長石質岩で代表され、溶け残り成分はザクロ石+菫青石であり、黒雲母岩の組成幅はメルト成分の離脱の程度を反映している、と見る。このモデルを検証するためには、微量元素も含めて固液分離で説明できるか、また、高清水岩体のピーク温度条件が黒雲母岩におけるザクロ石+菫青石+メルトの共存条件を合致するかを検討する必要がある。
<引用文献> 加納隆 (1981). 飛騨変成帯のミグマタイト構造. 地質雑, 87(5), 315–328. 鈴木盛久, 中沢伸治, 刑部哲也 (1989). 飛騨帯の構造発達史-変成履歴と後期石炭紀〜三畳紀の変動について-. 地質学論集, 33, 1–10.