[T6-P-14] Characteristics of grain size of bottom surface sediments in Lake Kasumigaura (Nishiura and Kitaura): analysis using separation into lognormal distribution components
Keywords:Grain-size distribution, Grain-size components, Lake Kasumigaura, Logratio analysis
湖沼堆積物の粒径は,過去の気候変動に伴う湖沼環境の変化や洪水などのイベントを復元するための指標の一つとして古くから用いられてきた.堆積物の粒径から過去の履歴を正確に解釈するためには,その特徴を適切に代表するパラメータを求め,解析することが必要となる.粒径に関するこれまでの多くの研究では,単峰性の分布を想定した中央値や淘汰度,歪度などの統計値を代表パラメータとして用いられてきた.しかし,湖沼堆積物はしばしば複数の起源や堆積過程を経た混合物からなり,その粒度分布は多峰性の複雑な形を示す.このため,前述のような単峰性分布を想定した統計値では,湖沼堆積物に含まれる複数の起源や堆積過程それぞれを代表し説明できるとは言い難い.近年,こうした複雑な粒度分布を,複数の成分に分離して扱ういくつかの手法が提案され用いられているが,その解析方法はまだ確立されていない.そこでこの研究では,霞ヶ浦西浦(狭義の霞ヶ浦)および北浦の湖底表層堆積物を対象として,粒度分布の対数正規分布成分への分離による解析を試みた.
霞ヶ浦西浦および北浦は,茨城県南部に位置する海跡湖である.これらの湖は,湖底地形の特徴や平均水深(約4 m),最大水深(約7 m)が共通する一方で面積が異なる(それぞれ172 km2および36 km2).今回対象とした湖底表層堆積物は,2022年6月から7月に,霞ヶ浦西浦および北浦のそれぞれ湖心を中心とした16地点と14地点においてエクマンバージ採泥器を用いて採取した.採取した堆積物は,10%過酸化水素水によって有機物を除去した後,レーザー粒度分析装置(島津製作所,SALD-2300)を用いて粒度分布を測定した.得られた粒度分布は,RのmixRパッケージ(Yu, 2022)を使用したEMアルゴリズムによって複数の対数正規分布成分に分離した.分離する成分数は赤池情報量基準およびベイズ情報量基準を評価基準として用いて決定した.
西浦および北浦の湖底表層堆積物の粒度分布は,共通した平均粒径を持つ5つまたは6つの対数正規分布成分に分離された.これらの成分をさらに4つの成分群(粗粒な成分群から順にCG1–4とする)に分類し,その混合割合について解析を行った.不変動成分の推定法である変動係数法(Ohta et al., 2011)を用いたテストの結果,西浦・北浦ともに最も細粒な成分群CG4が湖内での変動が小さいと推定された.この結果を元に,CG4を規格化成分としたCG1–3の対数比解析(Aitchison, 1986)を行った結果,CG2,3はCG4と同様に湖内で比較的一様の対数比の値を示すのに対して,最も粗粒な成分群であるCG1の対数比は湖内でばらつき,湖岸から離れるに連れて値が小さくなる傾向が西浦・北浦に共通して見られた.この結果は,成分群CG1が,粗粒な砕屑物がある沿岸域から波浪などによって拡散し堆積したものであることを示唆している.一方,湖内で一様な成分群CG2–4は,湖内で生産された珪藻や,風成塵などを反映していると考えられる.また最も粗粒な成分群CG1の対数比は,西浦に比べ北浦においてより短距離で減少していた.この傾向は,西浦と北浦の吹送距離の違いによる波浪作用の強度の大小を反映している可能性がある.本研究は,複雑な粒度分布をもつ湖沼堆積物に対して,成分分離と適切な解析を行うことで,粒径によって異なる湖内での堆積過程を分けて推定できる場合があることを示唆している.また,湖底表層の堆積物だけでなく,コア試料などにおいても同様の解析を行うことで,特徴的な粒径成分を定量的に抽出し解釈できる可能性がある.
引用文献
Aitchison, J. (1986) Chapman & Hall, London, 400 pp.
Ohta, T., Arai, H. and Noda, A. (2011) Mathematical Geosciences, 43, 421–434.
Yu, Y. (2022) Journal of Open Source Software, 7(69), 4031.
霞ヶ浦西浦および北浦は,茨城県南部に位置する海跡湖である.これらの湖は,湖底地形の特徴や平均水深(約4 m),最大水深(約7 m)が共通する一方で面積が異なる(それぞれ172 km2および36 km2).今回対象とした湖底表層堆積物は,2022年6月から7月に,霞ヶ浦西浦および北浦のそれぞれ湖心を中心とした16地点と14地点においてエクマンバージ採泥器を用いて採取した.採取した堆積物は,10%過酸化水素水によって有機物を除去した後,レーザー粒度分析装置(島津製作所,SALD-2300)を用いて粒度分布を測定した.得られた粒度分布は,RのmixRパッケージ(Yu, 2022)を使用したEMアルゴリズムによって複数の対数正規分布成分に分離した.分離する成分数は赤池情報量基準およびベイズ情報量基準を評価基準として用いて決定した.
西浦および北浦の湖底表層堆積物の粒度分布は,共通した平均粒径を持つ5つまたは6つの対数正規分布成分に分離された.これらの成分をさらに4つの成分群(粗粒な成分群から順にCG1–4とする)に分類し,その混合割合について解析を行った.不変動成分の推定法である変動係数法(Ohta et al., 2011)を用いたテストの結果,西浦・北浦ともに最も細粒な成分群CG4が湖内での変動が小さいと推定された.この結果を元に,CG4を規格化成分としたCG1–3の対数比解析(Aitchison, 1986)を行った結果,CG2,3はCG4と同様に湖内で比較的一様の対数比の値を示すのに対して,最も粗粒な成分群であるCG1の対数比は湖内でばらつき,湖岸から離れるに連れて値が小さくなる傾向が西浦・北浦に共通して見られた.この結果は,成分群CG1が,粗粒な砕屑物がある沿岸域から波浪などによって拡散し堆積したものであることを示唆している.一方,湖内で一様な成分群CG2–4は,湖内で生産された珪藻や,風成塵などを反映していると考えられる.また最も粗粒な成分群CG1の対数比は,西浦に比べ北浦においてより短距離で減少していた.この傾向は,西浦と北浦の吹送距離の違いによる波浪作用の強度の大小を反映している可能性がある.本研究は,複雑な粒度分布をもつ湖沼堆積物に対して,成分分離と適切な解析を行うことで,粒径によって異なる湖内での堆積過程を分けて推定できる場合があることを示唆している.また,湖底表層の堆積物だけでなく,コア試料などにおいても同様の解析を行うことで,特徴的な粒径成分を定量的に抽出し解釈できる可能性がある.
引用文献
Aitchison, J. (1986) Chapman & Hall, London, 400 pp.
Ohta, T., Arai, H. and Noda, A. (2011) Mathematical Geosciences, 43, 421–434.
Yu, Y. (2022) Journal of Open Source Software, 7(69), 4031.