[T12-P-9] (entry) Paleo-bottom water environments in the adjacent sea of Takarajima, Tokara Islands during the past 12,000 years
Keywords:Ostracod, Tokara Islands, Younger Dryas
【はじめに】 トカラ列島は南西諸島に属する12島から構成され、トカラギャップと呼ばれる水深1000mを超える海底谷が横たわる。トカラギャップは、渡瀬線と呼ばれる陸棲動物の生物地理区境界と一致し (Komaki, 2021)、主に陸上生物の移動を妨げてきたとされる。また、トカラ列島周辺海域は、黒潮の流路が位置する(川辺, 2003)。黒潮は海洋生物の拡散を支持すると同時に障壁ともなることが知られている。
したがって、トカラ列島における生物相の変遷史を明らかにすることは、生物地理分布の形成機構を明らかにするために重要である。そこで、本研究は、理想的な生物指標・環境指標として知られる貝形虫化石の群集解析に基づき、過去1万2千年間におけるトカラ列島周辺海域の生物相の時系列変化を明らかにするとともに、その生物相がどのような環境変遷に影響を受けてきたのかを明らかにすることを目指す。
【試料と手法】 本研究は、2021年に地質調査総合センターにより実施されたGB21-1航海にて、トカラ列島南西部に位置する宝島西方の海盆域より採取された柱状堆積物(緯度:29°5.55’N, 経度:129°2.16’E, 水深:873 m)を試料として用いた。研究試料は、大口径グラビティコアラーおよび、パイロットコアラーとして使用したアシュラ式採泥器により採取された2本のコアで、それぞれのコア長は227 cmおよび25 cmである。調査層準の岩相は、全体として粘土質シルトから構成されるが、下部および中部層準は、やや粗粒化し極細粒砂質シルト層からなる(鈴木ほか,2022)。調査層準は、浮遊性有孔虫殻を用いた14C年代測定により、過去1万2千年間の堆積年代が得られている。本研究は、調査層準の貝形虫化石相と現在のトカラ列島周辺海域の現生貝形虫のセンサスデータ(中野ほか, 2022)および各種環境項目(水深、水温、塩分、濁度、溶存酸素)を比較することにより、堆積当時の底層環境の変遷を具体的数値として復元した。
【結果と考察】 結果として、少なくとも71属の貝形虫化石が得られた。産出した貝形虫化石の多くは、現在のトカラ列島周辺海域にて報告されている相対的深海域に分布の中心をもつ現生種(中野ほか, 2022)と比較された。最も多産するタクサは、Krithe属で、次いでCytheropteron属、Argilloecia属、Bradleya属の産出頻度が高い。これらの貝形虫の産出頻度は、調査層準を通じて明瞭な変動を示すが、とくにコア下部のやや粗粒化する層準では、他の層準と異なりKritheではなくArgilloeciaが主要タクサとして認定された。他の層準では、現生貝形虫との比較から得た底層水温および溶存酸素が調査層準における最大値を示した。本層準は14C年代に従うと、亜氷期のヤンガードライヤス期に相当する可能性がある。太平洋低緯度地域の中層水塊では、ヤンガードライヤス期における中層水循環の一時的な停滞により底層環境が変化したために、KritheからArgilloeciaへと主要属がシフトした可能性が報告されている(Iwatani et al., 2018)。本研究でトカラ列島周辺海域にて認められた生物相変化も、ヤンガードライヤス期とそれ以降の底層環境の違いを記録したものかもしれない。
【引用文献】 Iwatani et al., 2018, Geology, 46(6), 567-570. Komaki, 2021, Journal of Biogeography, 48(9), 2375–2386. 川辺, 2003, 海の研究, 12(3), 247-267. 中野ほか, 2022, 地質調査研究報告, 73, (5/6), 329-335. 鈴木ほか, 2022, 地質調査研究報告, 73,(5/6), 275–299.
したがって、トカラ列島における生物相の変遷史を明らかにすることは、生物地理分布の形成機構を明らかにするために重要である。そこで、本研究は、理想的な生物指標・環境指標として知られる貝形虫化石の群集解析に基づき、過去1万2千年間におけるトカラ列島周辺海域の生物相の時系列変化を明らかにするとともに、その生物相がどのような環境変遷に影響を受けてきたのかを明らかにすることを目指す。
【試料と手法】 本研究は、2021年に地質調査総合センターにより実施されたGB21-1航海にて、トカラ列島南西部に位置する宝島西方の海盆域より採取された柱状堆積物(緯度:29°5.55’N, 経度:129°2.16’E, 水深:873 m)を試料として用いた。研究試料は、大口径グラビティコアラーおよび、パイロットコアラーとして使用したアシュラ式採泥器により採取された2本のコアで、それぞれのコア長は227 cmおよび25 cmである。調査層準の岩相は、全体として粘土質シルトから構成されるが、下部および中部層準は、やや粗粒化し極細粒砂質シルト層からなる(鈴木ほか,2022)。調査層準は、浮遊性有孔虫殻を用いた14C年代測定により、過去1万2千年間の堆積年代が得られている。本研究は、調査層準の貝形虫化石相と現在のトカラ列島周辺海域の現生貝形虫のセンサスデータ(中野ほか, 2022)および各種環境項目(水深、水温、塩分、濁度、溶存酸素)を比較することにより、堆積当時の底層環境の変遷を具体的数値として復元した。
【結果と考察】 結果として、少なくとも71属の貝形虫化石が得られた。産出した貝形虫化石の多くは、現在のトカラ列島周辺海域にて報告されている相対的深海域に分布の中心をもつ現生種(中野ほか, 2022)と比較された。最も多産するタクサは、Krithe属で、次いでCytheropteron属、Argilloecia属、Bradleya属の産出頻度が高い。これらの貝形虫の産出頻度は、調査層準を通じて明瞭な変動を示すが、とくにコア下部のやや粗粒化する層準では、他の層準と異なりKritheではなくArgilloeciaが主要タクサとして認定された。他の層準では、現生貝形虫との比較から得た底層水温および溶存酸素が調査層準における最大値を示した。本層準は14C年代に従うと、亜氷期のヤンガードライヤス期に相当する可能性がある。太平洋低緯度地域の中層水塊では、ヤンガードライヤス期における中層水循環の一時的な停滞により底層環境が変化したために、KritheからArgilloeciaへと主要属がシフトした可能性が報告されている(Iwatani et al., 2018)。本研究でトカラ列島周辺海域にて認められた生物相変化も、ヤンガードライヤス期とそれ以降の底層環境の違いを記録したものかもしれない。
【引用文献】 Iwatani et al., 2018, Geology, 46(6), 567-570. Komaki, 2021, Journal of Biogeography, 48(9), 2375–2386. 川辺, 2003, 海の研究, 12(3), 247-267. 中野ほか, 2022, 地質調査研究報告, 73, (5/6), 329-335. 鈴木ほか, 2022, 地質調査研究報告, 73,(5/6), 275–299.