日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッションポスター発表

T13[トピック]沈み込み帯・陸上付加体

[2poster68-80] T13[トピック]沈み込み帯・陸上付加体

2023年9月18日(月) 13:30 〜 15:00 T13_ポスター会場 (吉田南総合館北棟1-2階)

[T13-P-7] 房総半島における新第三系および第四系前弧海盆の圧密異方性

*神谷 奈々1、宮崎 裕博2、林 為人1、林田 明3 (1. 京都大学、2. 京都大学(現所属:株式会社シグマクシス)、3. 同志社大学)

キーワード:圧密、異方性、前弧海盆、帯磁率異方性

堆積盆では,上載圧によって圧密が進行する.その際,側方からのテクトニックな応力をほとんど受けない堆積盆においては,上載圧によってのみ圧密が進行すると考えられるが,沈み込み帯に形成される前弧海盆のように,堆積過程で側方からの圧縮応力を受ける堆積盆では,主応力の方向や上載圧との大小関係など,圧密の進行プロセスが複雑であると考えられる.房総半島に分布する前弧海盆では,褶曲構造をもつ層群で,圧密降伏応力が埋没深度相当の圧力より大きくなることが確認されている(Kamiya et al., 2017).そこで本研究では,側方圧縮により褶曲が形成される際,堆積物の圧密がどのように進行するのかを明らかにするために,圧密の異方性に着目した.露頭から定方位で採取した泥質岩のブロック試料に対し,地層面と古応力方向を考慮した3つの載荷方向を設定して,それぞれの方向について圧密試験を行った.各方向の圧密度合い(圧密降伏応力)を比較して圧密の異方性度合いを検討し,褶曲構造との関係性を考察した.また,初磁化率の異方性解析から各試料の粒子配列の特徴についても考察した.
房総半島は,沈み込み帯に形成される一連の地質体で構成され,南から順に付加体,隆起帯,前弧海盆が分布する.房総半島に分布する前弧海盆は,堆積年代が約15–3 Maの三浦層群と約3–0.06 Maの上総層群からなり,両層群の境界には黒滝不整合が分布する(中嶋・渡邊,2005).三浦層群は,東西走行で北上位の構造をもち,東西を軸とする褶曲構造が発達する.一方上総層群は,基本的には北東–南西走行で北上位の単斜構造で特に東部では三浦層群に斜交する形で重なる.小断層解析から広域応力場は,三浦層群形成時期には南北圧縮,上総層群形成時期には北西-南東圧縮であったと考えられている(Angelier and Huchon, 1987).本研究では,房総半島の前弧海盆のうち,西部地域を研究対象とした.西部地域における両層群ではメソスケールの断層が確認されている.逆断層に関しては,三浦層群では主に東西走向のおよび北東–南西走向が卓越するのに対し,上総層群では,北東-南西走行の逆断層が卓越という特徴がある(Kamiya et al., 2017).三浦層群から3試料,上総層群から4試料を採取し,圧密リングを用いた定ひずみ圧密試験を実施した.載荷方向は,過去の最大主応力方向を考慮して,設定した.三浦層群では,①地層面に対して垂直な方向,②褶曲軸に垂直な方向(南北方向),褶曲軸に平行な方向(東西方向)の3方向とした.地層の傾斜が比較的高角な箇所でサンプリングを行ったため,②および③については,露頭の現位置状態での水平面内における東西および南北方向,すなわち地層面が傾斜した状態での東西および南北をそれぞれ褶曲軸に平行な方向,垂直な方向とした.上総層群では,①地層面に対して垂直な方向,②逆断層の走向に垂直な方向(北西-南東方向)と,③逆断層の走向に平行な方向(北東-南西方向)の3方向とした.上総層群は,地層の傾斜が比較的低角であったため,②および③については,地層面内での方位,すなわち地層面を水平に戻した状態での北西-南東方向および北東-南西方向とした.
初磁化率の異方性測定から得られた磁気ファブリックはほぼ全ての試料で,異方性楕円体の最小軸が地層面に分布し,中間軸および最大軸が地層面と平行に分布する結果となった.このことから,初磁化率を担う粒子が地層面に平行に配列していることが確認された.各試料とも3つの方向で圧密降伏応力がわずかに異なることから,圧密降伏応力には異方性があることが示唆された.3つの方向のうち,上総層群では,地層面に垂直な方向が大きくなる傾向が見られるのに対し,三浦層群では,南北方向すなわち褶曲軸に垂直な方向に大きくなる傾向が見られた.三浦層群では褶曲構造が発達し,地層の傾斜が大きいことを考慮すると,上載圧に加え側方からの圧縮応力の作用により圧密が進行している可能性が考えられる.

引用文献
Angelier, J. and Huchon, P., 1987, Earth and Planetary Science Letters, 87, 397–408.
Kamiya, N., Yamamoto, Y., Wang, Q., Kurimoto, Y., Zhang, F. and Takemura, T., 2017, Tectonophysics, 710–711, 69–80.
中嶋輝充,渡辺真人,2005,富津地域の地質,産総研地質調査総合センター,102p.