9:00 AM - 9:15 AM
[T2-O-19] U-Pb zircon ages of weakly metamorphosed dioritic and gabbroic rocks in the Hida gneissic complex, and their bearing on the Hida metamorphism.
Keywords:Hida gneiss, U-Pb age, zircon, meta-diorite, Kumanogawa gabbro
1.研究の背景と目的
1990年代以降,飛騨帯において変成作用を受けた花崗岩や深成岩起源の片麻岩が存在することが知られるようになった.飛騨帯神岡地域では,前者の例が花崗岩起源のマイロナイト(眼球花崗岩~眼球片麻岩)であり,後者の例が閃緑岩質片麻岩である.後者は神岡地域一帯に広く分布し,主に閃緑岩質の粗粒の片麻状岩を主体に,トーナル岩質~花崗閃緑岩質,あるいは斑れい岩質の部分を伴い,岩石組織・構造の上で,①片麻状構造と変成組織の発達した片麻岩相,②不均質な中間的岩相,③深成岩的組織を残した岩相,が存在する. 演者の当初の目論見は,飛騨片麻岩体を構成する“変成作用を受けた深成岩”の中から,できるだけ変成していない部分を探し出し,火成岩としての性質とその年代を明らかにしたい,ということであった.具体的なターゲットとして神岡鉱山地域の閃緑岩(③)と熊野川の斑れい岩の2試料を選定し,京都フィッショントラック社に依頼して,LA-ICPMS法によるジルコンU-Pb年代測定を行った.
2.測定結果
神岡鉱山の弱変成閃緑岩が195.2±1.2Ma,熊野川斑れい岩が192.0±1.1Maであった.各試料とも30個のジルコンを無作為に選んだにもかかわらず,粒子年代は全てコンコルディア線上に乗り,よくまとまるため測定値は精度よく決められた.
3.年代値の意味
椚座ほか(2010)は,飛騨変成作用は300Ma以前から始まってピーク年代を250-240Maとし,松田ほか(1998)は180Ma前後まで高温状態が続いた後に急速に上昇・冷却したとした.またTakahashi et al. (2010)は変成作用に伴うマイロナイト化の持続年代を議論した.飛騨変成作用は長期間続いた現象であり,その中で変成・変形の時期と花崗岩体の形成を適切に位置づけて行く必要がある.当初の目的は,言い換えれば飛騨変成作用の開始時期を明らかにしようとしたものであったが,結果として,“図らずも”,飛騨変成作用の終息期における深成活動の1断面を知ることとなった.
①飛騨帯各地に180-200Ma前後のジルコン年代を示す花崗岩体が分布するが,片麻岩体内にも,変成作用に巻き込まれた,ほぼ同時期の苦鉄質深成岩が存在することが分った.その一部は同時性岩脈などのマグマ混合・混交現象を伴い,花崗岩とco-magmaticな関係があることが示唆され,深成活動のマーカーとなるだろう.
②180-200Ma前後の花崗岩体は,一部はほとんど変形していない(大熊山岩体・打保岩体)が,一部は変形しており(麻生野岩体=旧船津岩体・毛勝山岩体・八尾岩体・庄川岩体),岩体により,地域により,変形と花崗岩体形成との関係は錯綜し,必ずしも年代の若い岩体が非変形であるとは限らない.神岡地域北部の八尾岩体(187.5±1.7Ma)は,変形構造の強い片状トーナル岩や眼球花崗岩を伴うが,今回測定した195Maの閃緑岩を含む片麻岩体に貫入した打保岩体(190.3±3.6Ma)はほとんど変形していない(カッコ内の年代値はYamada et al.,2021による).しかも各年代値は数Maの範囲で相前後している.
③飛騨広域変成のピーク年代をやや過ぎた235Ma前後に伊西ミグマタイトの形成があり,この中のパレオゾームとして変斑れい岩(角閃岩)のブロックが含まれる.また250-240Maの花崗岩体にも苦鉄質岩が伴われる.苦鉄質深成岩の年代も,地域により,岩体により,異なる可能性があり,これらを解明することで飛騨帯の変成・深成作用の解明に新たな展開が期待される.
椚座ほか,2010,地質学雑誌,116巻 補遺,83-101.
松田ほか,1998,日本地質学会第105年学術大会講演要旨,248.
Takahashi et al., 2010, Gondwana Research, 17, 102-115.
Yamada et al., 2021, Jour. Mineral. Petrol. Sci., 116, 61-66.
1990年代以降,飛騨帯において変成作用を受けた花崗岩や深成岩起源の片麻岩が存在することが知られるようになった.飛騨帯神岡地域では,前者の例が花崗岩起源のマイロナイト(眼球花崗岩~眼球片麻岩)であり,後者の例が閃緑岩質片麻岩である.後者は神岡地域一帯に広く分布し,主に閃緑岩質の粗粒の片麻状岩を主体に,トーナル岩質~花崗閃緑岩質,あるいは斑れい岩質の部分を伴い,岩石組織・構造の上で,①片麻状構造と変成組織の発達した片麻岩相,②不均質な中間的岩相,③深成岩的組織を残した岩相,が存在する. 演者の当初の目論見は,飛騨片麻岩体を構成する“変成作用を受けた深成岩”の中から,できるだけ変成していない部分を探し出し,火成岩としての性質とその年代を明らかにしたい,ということであった.具体的なターゲットとして神岡鉱山地域の閃緑岩(③)と熊野川の斑れい岩の2試料を選定し,京都フィッショントラック社に依頼して,LA-ICPMS法によるジルコンU-Pb年代測定を行った.
2.測定結果
神岡鉱山の弱変成閃緑岩が195.2±1.2Ma,熊野川斑れい岩が192.0±1.1Maであった.各試料とも30個のジルコンを無作為に選んだにもかかわらず,粒子年代は全てコンコルディア線上に乗り,よくまとまるため測定値は精度よく決められた.
3.年代値の意味
椚座ほか(2010)は,飛騨変成作用は300Ma以前から始まってピーク年代を250-240Maとし,松田ほか(1998)は180Ma前後まで高温状態が続いた後に急速に上昇・冷却したとした.またTakahashi et al. (2010)は変成作用に伴うマイロナイト化の持続年代を議論した.飛騨変成作用は長期間続いた現象であり,その中で変成・変形の時期と花崗岩体の形成を適切に位置づけて行く必要がある.当初の目的は,言い換えれば飛騨変成作用の開始時期を明らかにしようとしたものであったが,結果として,“図らずも”,飛騨変成作用の終息期における深成活動の1断面を知ることとなった.
①飛騨帯各地に180-200Ma前後のジルコン年代を示す花崗岩体が分布するが,片麻岩体内にも,変成作用に巻き込まれた,ほぼ同時期の苦鉄質深成岩が存在することが分った.その一部は同時性岩脈などのマグマ混合・混交現象を伴い,花崗岩とco-magmaticな関係があることが示唆され,深成活動のマーカーとなるだろう.
②180-200Ma前後の花崗岩体は,一部はほとんど変形していない(大熊山岩体・打保岩体)が,一部は変形しており(麻生野岩体=旧船津岩体・毛勝山岩体・八尾岩体・庄川岩体),岩体により,地域により,変形と花崗岩体形成との関係は錯綜し,必ずしも年代の若い岩体が非変形であるとは限らない.神岡地域北部の八尾岩体(187.5±1.7Ma)は,変形構造の強い片状トーナル岩や眼球花崗岩を伴うが,今回測定した195Maの閃緑岩を含む片麻岩体に貫入した打保岩体(190.3±3.6Ma)はほとんど変形していない(カッコ内の年代値はYamada et al.,2021による).しかも各年代値は数Maの範囲で相前後している.
③飛騨広域変成のピーク年代をやや過ぎた235Ma前後に伊西ミグマタイトの形成があり,この中のパレオゾームとして変斑れい岩(角閃岩)のブロックが含まれる.また250-240Maの花崗岩体にも苦鉄質岩が伴われる.苦鉄質深成岩の年代も,地域により,岩体により,異なる可能性があり,これらを解明することで飛騨帯の変成・深成作用の解明に新たな展開が期待される.
椚座ほか,2010,地質学雑誌,116巻 補遺,83-101.
松田ほか,1998,日本地質学会第105年学術大会講演要旨,248.
Takahashi et al., 2010, Gondwana Research, 17, 102-115.
Yamada et al., 2021, Jour. Mineral. Petrol. Sci., 116, 61-66.