11:30 AM - 11:45 AM
[T5-O-5] (entry)Structural difference of the Cretaceous and Eocene groups in Amakusa: Early Paleogene surface tectonics of the SW Japan–Ryukyu forearc
★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
Keywords:The Himenoura Group, Median Tectonic Line, Usuki-Yatsushiro Tectonic Line, Sambagawa metamorphic rock
領家帯と三波川帯が接合する過程での中央構造線(MTL)付近の左横ずれを,三波川変成岩のみならず,地殻表層にあったであろう白亜系前弧海盆堆積物からも読み取ることができ,それが古第三紀初頭の出来事とする説がある[e.g., 1].すなわち,四国から紀伊半島に露出する三波川帯と和泉層群には左横ずれを示す杉型雁行配列をした褶曲が認められるが[e.g., 2, 3],四国および瀬戸内海沿いの始新統には目立った横ずれ変形や褶曲がない[4].臼杵-八代構造線(UYTL)も同時期に左横ずれしたとされるが[1],MTLに比べて年代制約が乏しい.左ずれの時期は,雁行配列した褶曲があるとされる大野川層群[5]の堆積から中部中新統火山岩類の堆積前という制約しかない.
九州地方西部,天草には上部白亜系姫浦層群と始新統が分布し,かつUYTLの延長部に隣接することから,その古第三紀の運動が読み取れる可能性がある.実際,天草の白亜系と始新統には構造差がある[e.g., 6, 7].すなわち,始新統にみられる褶曲(NNE-SSW方向)とは異なる方向の軸で白亜系が褶曲している.しかし,白亜系独自の褶曲軸の方向が不明確でテクトニックな意義の議論が困難であった.天草の多くの地域では白亜系の褶曲軸はE-W方向であるのに対し[7, 8, 9],天草上島ではNE-SW方向だとされていた[6].しかし,上島の褶曲軸の方向は始新統による白亜系の削剥量の水平変化から間接的に推定されたに過ぎなかった.
そこで,本研究では白亜系と始新統の構造差を再検討すべく天草上島東部の地質図を作成した.その結果,白亜系だけが被っている,褶曲軸がE-W方向の地質図規模の褶曲を発見した.褶曲の形体は,波長約500–800 mで翼間角約150°の正立キンク褶曲であった.白亜系にあって始新統にないN-S方向の地質図規模の左ずれ断層も見出された.加えて,白亜系の削剥量がN-S方向に変化することが分かった.調査地域の南部と北部には白亜系の上部が露出するのに対し,中央部には露出しない.これは,E-W方向の軸の背斜の軸部で削剥量が多いと考えれば説明できる.上島におけるE-W方向の褶曲軸は,天草の他地域の白亜系の褶曲軸や下島西部の高浜変成岩の最終変形ステージにおける褶曲軸[10]と共通である.したがって,天草の全域で始新統堆積前にこの方向の軸の褶曲が形成されたと考えられる.
天草の白亜系の褶曲軸はUYTLにたいして杉型雁行しており,UYTLを主断層としたときの左横ずれ変形と理解できる.これはそうした雁行構造と形成時期から,和泉層群および三波川帯の褶曲(Du褶曲[11])に対比できそうである.天草の褶曲時期は白亜系・始新統の堆積年代からマーストリヒチアンからイプレシアンの間と制約でき,四国における左横ずれの地層記録(和泉層群堆積後,ひわだ峠層堆積前)と整合的である.すなわち,MTLは古第三紀以降に様々な運動をしているが[3],古第三紀初頭の左横ずれ変形が西南日本から九州まで広範囲に及んでいたことが天草の地層記録からも支持される.
ところで,西南日本から九州の内帯が古第三紀初頭に約20°時計回り回転したことが指摘されている[12].今回注目した和泉層群・三波川帯・姫浦層群の褶曲とこの回転の前後関係は不明だが,回転を戻してもこれらの褶曲軸がMTL・UYTLといくらか斜交することから,褶曲形成時に左横ずれ成分は存在していたと考えられる.また,姫浦層群の褶曲とUYTL,和泉層群と三波川帯の褶曲とMTLの斜交角に大きな違いが見られない.このことは,三波川帯の上昇および九州から西南日本弧の内帯の回転後に,地殻浅部で褶曲が形成されたことを示唆する.
1, Miyata, 1980, Mem. Geol. Soc. Japan., 18, 51–68; 2, Shiota et al., 1993, J. Sci. Hiroshima Univ., 9, 671–683; 3, Kubota et al. 2020, Tectonics, 39, e2018TC005372. 4, 楠橋ほか, 2022, 地質雑, 128, 411–426; 5, 寺岡, 1970, 地調報告, 237, 1–87; 6, 植田・古川, 1960, Sci. Rep., Dep. Geol., Kyushu Univ., 5, 14–35; 7, 天野, 1960, 地質雑, 66, 767–779; 8, 高井ほか, 1997, 天草炭田地質図説明書; 9, Takai & Matsumoto, 1961, Mem. Fac. Sci., Kyushu, Univ., 11, 252–287; 10, 守山・山本, 2005, 地質雑, 111, 765–778; 11, Wallis, 1990, J. Geol. Soc. Japan., 96, 345–352; 12, 山岡・Wallis, 2023, JpGU2023, SMP26-P4.
九州地方西部,天草には上部白亜系姫浦層群と始新統が分布し,かつUYTLの延長部に隣接することから,その古第三紀の運動が読み取れる可能性がある.実際,天草の白亜系と始新統には構造差がある[e.g., 6, 7].すなわち,始新統にみられる褶曲(NNE-SSW方向)とは異なる方向の軸で白亜系が褶曲している.しかし,白亜系独自の褶曲軸の方向が不明確でテクトニックな意義の議論が困難であった.天草の多くの地域では白亜系の褶曲軸はE-W方向であるのに対し[7, 8, 9],天草上島ではNE-SW方向だとされていた[6].しかし,上島の褶曲軸の方向は始新統による白亜系の削剥量の水平変化から間接的に推定されたに過ぎなかった.
そこで,本研究では白亜系と始新統の構造差を再検討すべく天草上島東部の地質図を作成した.その結果,白亜系だけが被っている,褶曲軸がE-W方向の地質図規模の褶曲を発見した.褶曲の形体は,波長約500–800 mで翼間角約150°の正立キンク褶曲であった.白亜系にあって始新統にないN-S方向の地質図規模の左ずれ断層も見出された.加えて,白亜系の削剥量がN-S方向に変化することが分かった.調査地域の南部と北部には白亜系の上部が露出するのに対し,中央部には露出しない.これは,E-W方向の軸の背斜の軸部で削剥量が多いと考えれば説明できる.上島におけるE-W方向の褶曲軸は,天草の他地域の白亜系の褶曲軸や下島西部の高浜変成岩の最終変形ステージにおける褶曲軸[10]と共通である.したがって,天草の全域で始新統堆積前にこの方向の軸の褶曲が形成されたと考えられる.
天草の白亜系の褶曲軸はUYTLにたいして杉型雁行しており,UYTLを主断層としたときの左横ずれ変形と理解できる.これはそうした雁行構造と形成時期から,和泉層群および三波川帯の褶曲(Du褶曲[11])に対比できそうである.天草の褶曲時期は白亜系・始新統の堆積年代からマーストリヒチアンからイプレシアンの間と制約でき,四国における左横ずれの地層記録(和泉層群堆積後,ひわだ峠層堆積前)と整合的である.すなわち,MTLは古第三紀以降に様々な運動をしているが[3],古第三紀初頭の左横ずれ変形が西南日本から九州まで広範囲に及んでいたことが天草の地層記録からも支持される.
ところで,西南日本から九州の内帯が古第三紀初頭に約20°時計回り回転したことが指摘されている[12].今回注目した和泉層群・三波川帯・姫浦層群の褶曲とこの回転の前後関係は不明だが,回転を戻してもこれらの褶曲軸がMTL・UYTLといくらか斜交することから,褶曲形成時に左横ずれ成分は存在していたと考えられる.また,姫浦層群の褶曲とUYTL,和泉層群と三波川帯の褶曲とMTLの斜交角に大きな違いが見られない.このことは,三波川帯の上昇および九州から西南日本弧の内帯の回転後に,地殻浅部で褶曲が形成されたことを示唆する.
1, Miyata, 1980, Mem. Geol. Soc. Japan., 18, 51–68; 2, Shiota et al., 1993, J. Sci. Hiroshima Univ., 9, 671–683; 3, Kubota et al. 2020, Tectonics, 39, e2018TC005372. 4, 楠橋ほか, 2022, 地質雑, 128, 411–426; 5, 寺岡, 1970, 地調報告, 237, 1–87; 6, 植田・古川, 1960, Sci. Rep., Dep. Geol., Kyushu Univ., 5, 14–35; 7, 天野, 1960, 地質雑, 66, 767–779; 8, 高井ほか, 1997, 天草炭田地質図説明書; 9, Takai & Matsumoto, 1961, Mem. Fac. Sci., Kyushu, Univ., 11, 252–287; 10, 守山・山本, 2005, 地質雑, 111, 765–778; 11, Wallis, 1990, J. Geol. Soc. Japan., 96, 345–352; 12, 山岡・Wallis, 2023, JpGU2023, SMP26-P4.