4:00 PM - 4:15 PM
[T5-O-11] (entry) Spatial distribution of mineralization developed around the plate boundary fault in the Nankai Trough off Muroto from X-ray CT data
Keywords:Baraite, Nankai Trough, XCT
【はじめに】
沈み込み海洋地殻の強度構造は,プレート収束帯で起こる変形の過程に影響を与える.また,海溝に対して直交あるいは平行に数十kmを超える範囲で見た場合,海洋地殻の岩相は側方に変化し(例えば,Underwood and Pickering, 2018),場所による変形の違いを生み出す要因の一つとなる.その中で,高知県室戸岬沖でInternational Ocean Discovery Program(IODP)において掘削された室戸沖付加体先端部に当たるC0023サイトの海底下775–1121 mにて熱水性の充填鉱物が報告されると同時に,これらが複数の時期や成因によってできている可能性が示唆された(Tsang et al., 2020).このような充填鉱物帯の存在も海洋地殻の強度構造と関係すると思われるが,その分布についてはこれまであまり言及されていなかった.そこで本研究では高知県室戸沖の南海トラフを対象として,複数回の国際海洋科学掘削において採取されたコア試料を対象として,充填鉱物の分布について調べた.
【調査対象と手法】
研究の対象はOcean Drilling Program(ODP)の1173,1174,808サイトの3サイトのコア試料とした.これらのうち,1173サイトは南海トラフの海側に位置し,その他のサイトは南海付加体の先端部に位置する.これらのサイトでは,基盤である玄武岩の上に中期中新世以降の半遠洋性堆積物および海溝充填堆積物が重なり,岩相に基づいて下位から,下部四国海盆相,上部四国海盆相,海溝充填相に分けられる(例えば,Moore et al., 2001).
調査は,まずX線コンピュータートモグラフィー(XCT)データを用いて,室戸沖海底下にて充填鉱物帯の空間分布を調べた.そして,充填鉱物の種類を同定するため,X線回析(XRD)を用いての鉱物同定や走査型電子顕微鏡(SEM)による目視観察,エネルギー分散型X線分析装置(EDS)による元素分析を行った.
【結果と考察】
3つのサイトごとに作成したXCTデータを様々な空間スケールで解析した.全体に焦点を置き,まず堆積層の平均CT値に注目すると,深度方向に約1100から1800まで徐々に上昇していく.その中で,平均CT値が2000から10000程度のスパイクの集中領域が複数の深度で見られる.トラフ海側斜面に位置する1173サイトでは,このスパイクの集中領域が明瞭であり,海溝充填相から上部四国海盆相の上部まで,下部四国海盆相の最上部からデコルマン相当層準まで,および下部四国海盆相の下部の3箇所に発達する.また,他の2サイトでも1173サイトと同層準に平均CT値の高いスパイクが集中する.高い平均CT値のスパイクが集中する領域では,厚さ数cmほどの高い平均CT値の箇所が数mから数十mに1つの間隔で分布している.高い平均CT値が集中する3区間は,XRDデータや肉眼観察で報告されているカルサイトが多い区間とほぼ一致する.このことから,カルサイトの濃集が高い平均CT値の原因と考えられる.
次に,サイトごとの高CT値領域を構成する鉱物をXRD解析,SEM観察,EDS分析から調べた.高い平均CT値が見られる3区間のうち,上部四国海盆相の区間はCT値が3000–4000前後のものが多い.それに対して,下位の2区間ではCT値が10000を超える領域も多く,場合によっては30000も超える.そこで,これらのCT値に対応する鉱物を調べた.
その結果,3000–4000前後のものはカルサイトに,10000以上のものはバライトとロードクロサイトに対応することがわかった.また,CT画像やSEM観察から,カルサイト,バライト,ロードクロサイトはいずれも充填鉱物として析出した産状を示すことがわかった.
以上より,調査地域では上部四国海盆相にカルサイトが充填する厚さ8 cm程度の層準が挟まれる箇所が見られた.そして,下部四国海盆相では,カルサイトに加えて,バライトやロードクロサイトが亀裂沿いにあるいはチューブ状で充填している箇所があることが明らかになった.これらの特徴は海溝よりも海側の1173サイトでも見られることから,充填作用は付加作用より前に発生したと考えられる.
参考文献
Moore, G. F. et al., 2001, Geochem. Geophys. Geosyst., 2, 2001GC000166.
Tsang, M. Y. et al., 2020, Mar. Pet. Geol., 112, 104080,
Underwood, M. B. and Pickering, K. T., 2018, The Geological Society of America Special Paper, 534, 1–34.
沈み込み海洋地殻の強度構造は,プレート収束帯で起こる変形の過程に影響を与える.また,海溝に対して直交あるいは平行に数十kmを超える範囲で見た場合,海洋地殻の岩相は側方に変化し(例えば,Underwood and Pickering, 2018),場所による変形の違いを生み出す要因の一つとなる.その中で,高知県室戸岬沖でInternational Ocean Discovery Program(IODP)において掘削された室戸沖付加体先端部に当たるC0023サイトの海底下775–1121 mにて熱水性の充填鉱物が報告されると同時に,これらが複数の時期や成因によってできている可能性が示唆された(Tsang et al., 2020).このような充填鉱物帯の存在も海洋地殻の強度構造と関係すると思われるが,その分布についてはこれまであまり言及されていなかった.そこで本研究では高知県室戸沖の南海トラフを対象として,複数回の国際海洋科学掘削において採取されたコア試料を対象として,充填鉱物の分布について調べた.
【調査対象と手法】
研究の対象はOcean Drilling Program(ODP)の1173,1174,808サイトの3サイトのコア試料とした.これらのうち,1173サイトは南海トラフの海側に位置し,その他のサイトは南海付加体の先端部に位置する.これらのサイトでは,基盤である玄武岩の上に中期中新世以降の半遠洋性堆積物および海溝充填堆積物が重なり,岩相に基づいて下位から,下部四国海盆相,上部四国海盆相,海溝充填相に分けられる(例えば,Moore et al., 2001).
調査は,まずX線コンピュータートモグラフィー(XCT)データを用いて,室戸沖海底下にて充填鉱物帯の空間分布を調べた.そして,充填鉱物の種類を同定するため,X線回析(XRD)を用いての鉱物同定や走査型電子顕微鏡(SEM)による目視観察,エネルギー分散型X線分析装置(EDS)による元素分析を行った.
【結果と考察】
3つのサイトごとに作成したXCTデータを様々な空間スケールで解析した.全体に焦点を置き,まず堆積層の平均CT値に注目すると,深度方向に約1100から1800まで徐々に上昇していく.その中で,平均CT値が2000から10000程度のスパイクの集中領域が複数の深度で見られる.トラフ海側斜面に位置する1173サイトでは,このスパイクの集中領域が明瞭であり,海溝充填相から上部四国海盆相の上部まで,下部四国海盆相の最上部からデコルマン相当層準まで,および下部四国海盆相の下部の3箇所に発達する.また,他の2サイトでも1173サイトと同層準に平均CT値の高いスパイクが集中する.高い平均CT値のスパイクが集中する領域では,厚さ数cmほどの高い平均CT値の箇所が数mから数十mに1つの間隔で分布している.高い平均CT値が集中する3区間は,XRDデータや肉眼観察で報告されているカルサイトが多い区間とほぼ一致する.このことから,カルサイトの濃集が高い平均CT値の原因と考えられる.
次に,サイトごとの高CT値領域を構成する鉱物をXRD解析,SEM観察,EDS分析から調べた.高い平均CT値が見られる3区間のうち,上部四国海盆相の区間はCT値が3000–4000前後のものが多い.それに対して,下位の2区間ではCT値が10000を超える領域も多く,場合によっては30000も超える.そこで,これらのCT値に対応する鉱物を調べた.
その結果,3000–4000前後のものはカルサイトに,10000以上のものはバライトとロードクロサイトに対応することがわかった.また,CT画像やSEM観察から,カルサイト,バライト,ロードクロサイトはいずれも充填鉱物として析出した産状を示すことがわかった.
以上より,調査地域では上部四国海盆相にカルサイトが充填する厚さ8 cm程度の層準が挟まれる箇所が見られた.そして,下部四国海盆相では,カルサイトに加えて,バライトやロードクロサイトが亀裂沿いにあるいはチューブ状で充填している箇所があることが明らかになった.これらの特徴は海溝よりも海側の1173サイトでも見られることから,充填作用は付加作用より前に発生したと考えられる.
参考文献
Moore, G. F. et al., 2001, Geochem. Geophys. Geosyst., 2, 2001GC000166.
Tsang, M. Y. et al., 2020, Mar. Pet. Geol., 112, 104080,
Underwood, M. B. and Pickering, K. T., 2018, The Geological Society of America Special Paper, 534, 1–34.