11:30 AM - 12:00 PM
[T6-O-29] [Invited] Long-range transport of fine sediments by the Kuroshio Current suggested from source information of hemipelagic mud
【ハイライト講演】
世話人よりハイライトの紹介:日本列島の太平洋側を連綿と流れる黒潮はいつからどれだけの堆積物を運んでいるのであろうか.そのヒントが本講演から得られるかもしれない.本講演では,Sr-Nd-Pb同位体比を用いて海洋底で掘削されたコア試料を分析することで,その堆積物の供給源を解明することを試み,さらに時間軸を入れることにより,その後背地のテクトニクスや古気候に関する情報を抽出する可能性を探求している.※ハイライトとは
Keywords:Sr-Nd-Pb isotope systematics, provenance analysis, Shikoku Basin, Shatsky Rise, Asian dust
泥質堆積物の供給源は,堆積物の輸送経路や運搬メカニズム,後背地の古地理やテクトニクス,古気候を解き明かす上で有用な情報となる.Sr-Nd-Pb同位体比を指標とする四国海盆の半遠洋性泥質堆積物の供給源解析の結果,黒潮が,細粒砕屑物の運搬メカニズムとして重要であることがわかった.さらに,シャツキー海台堆積物の鉛同位体比からは,黒潮続流が遠洋域まで砕屑物を運搬している可能性が示唆される.
四国海盆北縁のIODP Site C0011で掘削採取された半遠洋性堆積物(7Ma~現世)の砕屑成分,およびその主要な供給源の一つと考えられる西南日本から太平洋に流入する主要50河川より採取した泥質堆積物のSr-Nd-Pb同位体比を測定し,供給源の他の候補である東シナ海および周辺陸域の堆積物の同位体比と比較した結果,Site C0011の半遠洋性堆積物の主供給源が,4.4Ma以前は東シナ海周辺の陸域,おそらく長江・黄河流域であり,2.9Ma以降は日本列島であることが示唆された.東シナ海と四国海盆との間には琉球列島,九州パラオリッジが存在するため,東シナ海周辺由来の砕屑物は底層流ではなく黒潮によって輸送されたことが示唆される.4.4Maから2.9Maにかけては同位体比が徐々に日本列島由来を示す値へと変化する.この時代変化の要因として考えられるのは,約4Maにおけるフィリピン海プレートの沈み込みの加速(Kimura et al., 2005)である.4.4Ma以前はC0011が現在の位置より100~200km沖合にあり,黒潮による供給の寄与率が高かったのが,プレートが北上したことで徐々に日本列島の寄与率が上昇したと説明できる.北太平洋の遠洋堆積物の砕屑成分は大気輸送でもたらされたもの(黄砂)であることは知られているが(Jones et al., 2000; Pettke et al., 2000),四国海盆の半遠洋性堆積物については黄砂の寄与は微小であることが,Pb同位体比(206Pb/204Pb, 207Pb/204Pb, 208Pb/204Pb)間の線形関係がC0011堆積物と黄砂とで明確に異なることから結論づけられる.
黒潮が東シナ海から四国海盆まで砕屑物を輸送しうるということは,黒潮続流が東シナ海周辺陸域と西南日本由来の砕屑物を合わせてさらに遠方に運搬しうることを示唆する.それを検証するため,シャツキー海台(ODP Site 1208)の堆積物10試料(0.3~9.6Ma)について予察的な研究を行った.黒潮続流が堆積物を輸送するとすれば,Site 1208堆積物のケイ酸塩成分の鉛同位体比はC0011堆積物と類似することが期待される.しかしながら,Site 1208試料のPb同位体比は,黄砂と火山灰との混合で説明される北太平洋中央の遠洋性堆積物の値と類似し,C0011とは明確に逸れる.このことは,シャツキー海台上の砕屑物の主成分が,四国海盆とは違って黄砂であることを意味する.しかしながら,鉛同位体比の時代変化を詳しく見ると,0.3~3.8Maの6試料は黄砂と火山灰の混合線によく整合するのに対し,4.7~9.6Maの4試料の線形関係はその線形関係からわずかに逸れて,C0011の線形関係に近い.4Maより古い時代には黒潮の相対的な寄与率が無視できない程度には高かったことを示唆する.北太平洋への黄砂フラックスは約3.6Maに急増したとされている(Rea, et al., 1998).4.7Ma以前に示唆される黒潮の寄与が,3.8Ma以降検知されないのは,それ以降は黄砂の寄与が圧倒的に卓越したことで説明できる.ただし,差異は微小である上に測定数は少なく,議論の精度を高めるために鉛同位体比の測定層準を大幅に増やす必要がある.
文 献
Kimura, J. et al., 2005, GSA Bulletin, 117, 969–989. Jones, C.E. et al., 2000, GCA, 64, 1405–1416. Pettke, T. et al., 2000, EPSL, 178, 397–413. Rea, D.K. et al., 1998, Paleoceanography, 13, 215–224.
四国海盆北縁のIODP Site C0011で掘削採取された半遠洋性堆積物(7Ma~現世)の砕屑成分,およびその主要な供給源の一つと考えられる西南日本から太平洋に流入する主要50河川より採取した泥質堆積物のSr-Nd-Pb同位体比を測定し,供給源の他の候補である東シナ海および周辺陸域の堆積物の同位体比と比較した結果,Site C0011の半遠洋性堆積物の主供給源が,4.4Ma以前は東シナ海周辺の陸域,おそらく長江・黄河流域であり,2.9Ma以降は日本列島であることが示唆された.東シナ海と四国海盆との間には琉球列島,九州パラオリッジが存在するため,東シナ海周辺由来の砕屑物は底層流ではなく黒潮によって輸送されたことが示唆される.4.4Maから2.9Maにかけては同位体比が徐々に日本列島由来を示す値へと変化する.この時代変化の要因として考えられるのは,約4Maにおけるフィリピン海プレートの沈み込みの加速(Kimura et al., 2005)である.4.4Ma以前はC0011が現在の位置より100~200km沖合にあり,黒潮による供給の寄与率が高かったのが,プレートが北上したことで徐々に日本列島の寄与率が上昇したと説明できる.北太平洋の遠洋堆積物の砕屑成分は大気輸送でもたらされたもの(黄砂)であることは知られているが(Jones et al., 2000; Pettke et al., 2000),四国海盆の半遠洋性堆積物については黄砂の寄与は微小であることが,Pb同位体比(206Pb/204Pb, 207Pb/204Pb, 208Pb/204Pb)間の線形関係がC0011堆積物と黄砂とで明確に異なることから結論づけられる.
黒潮が東シナ海から四国海盆まで砕屑物を輸送しうるということは,黒潮続流が東シナ海周辺陸域と西南日本由来の砕屑物を合わせてさらに遠方に運搬しうることを示唆する.それを検証するため,シャツキー海台(ODP Site 1208)の堆積物10試料(0.3~9.6Ma)について予察的な研究を行った.黒潮続流が堆積物を輸送するとすれば,Site 1208堆積物のケイ酸塩成分の鉛同位体比はC0011堆積物と類似することが期待される.しかしながら,Site 1208試料のPb同位体比は,黄砂と火山灰との混合で説明される北太平洋中央の遠洋性堆積物の値と類似し,C0011とは明確に逸れる.このことは,シャツキー海台上の砕屑物の主成分が,四国海盆とは違って黄砂であることを意味する.しかしながら,鉛同位体比の時代変化を詳しく見ると,0.3~3.8Maの6試料は黄砂と火山灰の混合線によく整合するのに対し,4.7~9.6Maの4試料の線形関係はその線形関係からわずかに逸れて,C0011の線形関係に近い.4Maより古い時代には黒潮の相対的な寄与率が無視できない程度には高かったことを示唆する.北太平洋への黄砂フラックスは約3.6Maに急増したとされている(Rea, et al., 1998).4.7Ma以前に示唆される黒潮の寄与が,3.8Ma以降検知されないのは,それ以降は黄砂の寄与が圧倒的に卓越したことで説明できる.ただし,差異は微小である上に測定数は少なく,議論の精度を高めるために鉛同位体比の測定層準を大幅に増やす必要がある.
文 献
Kimura, J. et al., 2005, GSA Bulletin, 117, 969–989. Jones, C.E. et al., 2000, GCA, 64, 1405–1416. Pettke, T. et al., 2000, EPSL, 178, 397–413. Rea, D.K. et al., 1998, Paleoceanography, 13, 215–224.