10:30 AM - 10:45 AM
[S1-O-3] Response of the crust to pulsed granitic magma intrusions in the Ryoke Belt, SW Japan
Keywords:Cretaceous, Magmatic flare-up, Metamorphism, Ryoke belt, Granite
領家帯における花崗岩類の固結年代は、古くはCHIMEモナズ石年代測定により貫入関係に整合的な年代値が柳井地域と三河地域で得られ、年代間隔をおかずに断続的に花崗岩類の貫入が起きたと考えられていた[1]。しかし、LA-ICPMS等による花崗岩類のU-Pbジルコン年代測定が盛んに行われるようになると、花崗岩類の活動年代にパルス性があり、パルスごとに貫入深度の変動が見られることがわかってきた[2-4]。
この特徴は三河地域で顕著である。三河地域では99-95 Maに片麻状花崗岩がBt帯(0.29-0.37 GPa)[5]相当深度(11-14 km)に変成岩類の面構造に調和的に貫入し、その後81-75 Maに別の片麻状花崗岩がGrt-Crd帯相当深度(16-23 km)に変成岩類の面構造に調和的に貫入した。続いて75-69 Maに多量の塊状花崗岩類が広域変成の変成分帯に非調和に貫入した。75-69Maの塊状花崗岩類の貫入深度は接触変成帯から0.23-0.32 GPaと見積もられており、浅部(9-12 km)に貫入した花崗岩類であると言える。塊状花崗岩類の貫入は三河地域のBt帯からGrt-Crd帯にかけてみられる一方、81-75 Maの片麻状花崗岩類から見積もられる固結圧力はGrt-Crd帯(0.43-0.57 GPa)[5]相当のため、81 Ma以降75 Maの間には広域変成帯は傾動、高変成度側が選択的に削剥され、Grt-Crd帯はBt帯相当の深さまで上昇したことになる。領家帯の花崗岩類の年代学的研究は急速に増加しているが、特に貫入深度の年代変化は、当時の地殻がおかれたテクトニックな状況を反映している可能性があるため重要である。浅部に貫入した75-69 Maの塊状花崗岩類、同時期の斑レイ岩類[6]は、70Maの年代を示す濃飛流紋岩と同期しており、イグニンブライト・フレアアップの深部相と解釈できる[7]。
一方、花崗岩の貫入を受ける側の地殻の応答も、近年徐々に明らかになってきた。三河地域のGrt-Crd帯の複数試料中のジルコンを年代測定したところ、各試料に複数の異なる変成年代が記録されていた。ジルコンはメルトの存在下で成長が著しい [8]ことから、Grt-Crd帯全体が97-87Maの間、部分融解していたと考えられる。さらに84Maにも変成リムが成長していることから、Grt-Crd帯の構造的直下に貫入した片麻状花崗岩の接触変成を記録していると解釈された[7]。この特徴は、青山高原地域でも見られる[9]。75-69Maの塊状花崗岩類のうち最大の岩体である伊奈川花崗岩の周囲では、大規模な接触変成帯の形成[10]と部分融解がみられ、同時期のペグマタイト脈は延性変形している [7]が、変成帯全体から見れば局所的な範囲にとどまる。
柳井地域では花崗岩類の貫入年代が105-94 Maに集中する傾向があるが[2]、貫入深度が浅部à深部à浅部と変化する傾向は三河地域と共通している。105 Maの塊状花崗岩がBt帯とMs-Crd帯相当(0.07-0.19 GPa)[11]の浅部(3-7 km)に貫入し、続いて100-98 Maに片麻状花崗岩がGrt-Crd帯相当(0.43-0.63 GPa)[11]の深部(16-23 km)に変成岩の面構造の調和的に貫入、続いて96 MaにChl帯からKfs-Crd帯の変成分帯を切って塊状岩体が貫入している[2]。柳井地域から南東に位置する久賀地域での花崗岩類のU-Pbジルコン年代は88-100 Maと若い方にも広がる[12]。柳井地域のGrt-Crd帯の変成ジルコン年代(103-99 Ma)は周囲の花崗岩類の年代とほぼ同じであり、後の塊状花崗岩貫入の影響を受けていない点で三河地域や青山高原地域とは異なる。
領家帯の形成テクトニクスや変成履歴に関しては、柳井地域の研究[e.g. 2, 11, 13]をもとに多くの研究がなされてきたが、年代的にも花崗岩と変成岩の関係も、柳井地域は青山高原地域や三河地域と異なっており、領家深成・変成作用には地域性が大きい。今後のテクトニクスの議論では地域差をうまく説明できることが重要である。
[1] Suzuki & Adachi 1998 JMG [2] Skrzypek+ 2016 Lithos [3] Takatsuka+ 2018a Island Arc [4] Takatsuka+ 2018b Lithos [5] Miyazaki 2010 Lithos [6] Nakajima+ 2004 TRSE [7] Kawakami+ 2022 Island Arc [8] Kawakami+ 2013 CMP [9] Kawakami & Suzuki 2011 Island Arc [10] 三宅+ 2014 地雑 [11] Ikeda 2004 CMP [12] 宮下+ 2018 地質学会要旨 [13] Okudaira 1996 JMG
この特徴は三河地域で顕著である。三河地域では99-95 Maに片麻状花崗岩がBt帯(0.29-0.37 GPa)[5]相当深度(11-14 km)に変成岩類の面構造に調和的に貫入し、その後81-75 Maに別の片麻状花崗岩がGrt-Crd帯相当深度(16-23 km)に変成岩類の面構造に調和的に貫入した。続いて75-69 Maに多量の塊状花崗岩類が広域変成の変成分帯に非調和に貫入した。75-69Maの塊状花崗岩類の貫入深度は接触変成帯から0.23-0.32 GPaと見積もられており、浅部(9-12 km)に貫入した花崗岩類であると言える。塊状花崗岩類の貫入は三河地域のBt帯からGrt-Crd帯にかけてみられる一方、81-75 Maの片麻状花崗岩類から見積もられる固結圧力はGrt-Crd帯(0.43-0.57 GPa)[5]相当のため、81 Ma以降75 Maの間には広域変成帯は傾動、高変成度側が選択的に削剥され、Grt-Crd帯はBt帯相当の深さまで上昇したことになる。領家帯の花崗岩類の年代学的研究は急速に増加しているが、特に貫入深度の年代変化は、当時の地殻がおかれたテクトニックな状況を反映している可能性があるため重要である。浅部に貫入した75-69 Maの塊状花崗岩類、同時期の斑レイ岩類[6]は、70Maの年代を示す濃飛流紋岩と同期しており、イグニンブライト・フレアアップの深部相と解釈できる[7]。
一方、花崗岩の貫入を受ける側の地殻の応答も、近年徐々に明らかになってきた。三河地域のGrt-Crd帯の複数試料中のジルコンを年代測定したところ、各試料に複数の異なる変成年代が記録されていた。ジルコンはメルトの存在下で成長が著しい [8]ことから、Grt-Crd帯全体が97-87Maの間、部分融解していたと考えられる。さらに84Maにも変成リムが成長していることから、Grt-Crd帯の構造的直下に貫入した片麻状花崗岩の接触変成を記録していると解釈された[7]。この特徴は、青山高原地域でも見られる[9]。75-69Maの塊状花崗岩類のうち最大の岩体である伊奈川花崗岩の周囲では、大規模な接触変成帯の形成[10]と部分融解がみられ、同時期のペグマタイト脈は延性変形している [7]が、変成帯全体から見れば局所的な範囲にとどまる。
柳井地域では花崗岩類の貫入年代が105-94 Maに集中する傾向があるが[2]、貫入深度が浅部à深部à浅部と変化する傾向は三河地域と共通している。105 Maの塊状花崗岩がBt帯とMs-Crd帯相当(0.07-0.19 GPa)[11]の浅部(3-7 km)に貫入し、続いて100-98 Maに片麻状花崗岩がGrt-Crd帯相当(0.43-0.63 GPa)[11]の深部(16-23 km)に変成岩の面構造の調和的に貫入、続いて96 MaにChl帯からKfs-Crd帯の変成分帯を切って塊状岩体が貫入している[2]。柳井地域から南東に位置する久賀地域での花崗岩類のU-Pbジルコン年代は88-100 Maと若い方にも広がる[12]。柳井地域のGrt-Crd帯の変成ジルコン年代(103-99 Ma)は周囲の花崗岩類の年代とほぼ同じであり、後の塊状花崗岩貫入の影響を受けていない点で三河地域や青山高原地域とは異なる。
領家帯の形成テクトニクスや変成履歴に関しては、柳井地域の研究[e.g. 2, 11, 13]をもとに多くの研究がなされてきたが、年代的にも花崗岩と変成岩の関係も、柳井地域は青山高原地域や三河地域と異なっており、領家深成・変成作用には地域性が大きい。今後のテクトニクスの議論では地域差をうまく説明できることが重要である。
[1] Suzuki & Adachi 1998 JMG [2] Skrzypek+ 2016 Lithos [3] Takatsuka+ 2018a Island Arc [4] Takatsuka+ 2018b Lithos [5] Miyazaki 2010 Lithos [6] Nakajima+ 2004 TRSE [7] Kawakami+ 2022 Island Arc [8] Kawakami+ 2013 CMP [9] Kawakami & Suzuki 2011 Island Arc [10] 三宅+ 2014 地雑 [11] Ikeda 2004 CMP [12] 宮下+ 2018 地質学会要旨 [13] Okudaira 1996 JMG