10:45 AM - 11:00 AM
[S1-O-4] [Invited] (entry) Granitic magma processes during the Cretaceous flare-ups recorded in Cretaceous plutonic rocks from Kajishima Island, Ehime Prefecture, southwest Japan.
★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
Keywords:Cretaceous flare-up, gabbro, Granite, Magma process, Southwest Japan
1. はじめに
西南日本内帯には、東アジア大陸縁辺域の白亜紀フレアアップイベントで形成された花崗岩類が広く分布している。近年の同位体岩石学をはじめとした研究から、これらの花崗岩類は苦鉄質下部地殻の部分溶融によるものであると考えられているが(例えば, Nakajima 2004, Trans. R. Soc. Edinb. Earth Sci.)、そのメカニズムは未だ明らかにされていない。梶島は愛媛県北東部に位置し、岩脈状の花崗岩を伴う白亜紀斑れい岩類が広く露出する。堀内(1985, 岩石鉱物鉱床学会誌)は当地域に分布する斑れい岩類について詳細な記載岩石学研究を行い、鉱物組成の特徴から当地域の斑れい岩類が同一のマグマから形成されたことを示唆した。一方で、Kagami et al. (1985, Geochem. J.; 2000, Island Arc)は梶島の斑れい岩類を含む西南日本白亜紀深成岩類の同位体岩石学研究から苦鉄質岩と珪長質岩の成因的関連性を示唆した。Shimooka et al. (under revision)は梶島の斑れい岩類と花崗岩類についてジルコンU-Pb年代測定を行い、斑れい岩類と花崗岩類から92–91 Maと約84 Maのマグマ活動年代を報告した。白亜紀の斑れい岩類はマントルの活動に伴って形成された可能性が指摘されていることから(例えば、Kodama et al., 2019, JMPS)、梶島における斑れい岩類と花崗岩類との成因関係を明らかにすることは、西南日本のマントル−地殻間のマグマ過程の解明と白亜紀フレアアップのメカニズムを理解することに繋がる。本研究では、梶島の斑れい岩類中に花崗岩類が生成された野外産状を新たに発見した。これらの野外産状に加え、深成岩類の岩石記載、全岩主要微量元素組成、全岩Sr-Nd同位体組成、ジルコンHf同位体比のデータに基づき、白亜紀フレアアップイベントでの花崗岩質マグマ生成プロセスを明らかにする。
2. 野外産状・岩石記載
当地域の花崗岩類は、母岩の斑れい岩中に岩脈状に産出する。また、斑れい岩中にはしばしばcmオーダーの花崗岩質メルトの網状構造が発達する。この花崗岩質メルトの網状構造は、斑れい岩と漸移的な境界を示し、一部は花崗岩質なメルトプールや岩脈へと変化する。斑れい岩中には半自形~他形の輝石、融食された斜長石とカンラン石をポイキリティックに内包する角閃石巨晶が観察できる。
3. 全岩主要微量元素組成
主要元素組成分析の結果、花崗岩類はSiO2含有量72.0~75.7 wt%、K2O含有量0.9~5.5 wt %の組成範囲を示す。コンドライト(Barrat et al., 2012, Geochim. Cosmochim. Acta.)で規格化した希土類元素組成は、細粒斑れい岩を除く全ての斑れい岩類で正のEu異常(Eu/Eu*=1.5~9.1)を示す。一方で、花崗岩類は、低SiO2質な試料ほど正のEu異常(Eu/Eu*<1.2)、高SiO2質な試料ほど負のEu異常(Eu/Eu*>0.6)が大きくなる傾向がみられる。
4. 全岩Sr-Nd同位体組成・ジルコンHf同位体組成
ジルコンU-Pb年代に再計算した斑れい岩類のSr-Nd 同位体組成は花崗岩類の同位体組成と類似する(Fig. 1a)。ジルコン Hf 同位体組成も同様に、斑れい岩類と花崗岩類で類似した組成範囲を示す(Fig. 1b, c)。
5. 議論
梶島における斑れい岩類と花崗岩類との全岩Sr-Nd同位体、ジルコンHf同位体組成の一致は、両者の成因的関連性を強く示唆する。野外および鏡下での記載岩石学的特徴からは、斑れい岩の部分溶融もしくは斑れい岩質マグマの結晶分化による花崗岩質マグマの生成が示唆される。マグマ混合をはじめとした複雑なマグマプロセスの考慮は今後の課題である。本研究では、新たに、斑れい岩と花崗岩のεNd(t) とジルコンεHf(t)の多くが負の値を示すことを明らかにした。このことは、白亜紀フレアアップでは斑れい岩の起源物質であるマントルがエンリッチしていたことを示唆する。さらに、本研究での深成岩類の示すジルコンHf同位体組成(εHf (t) =-13~+2; Fig. 1b, c)は、白亜紀ユーラシア縁における既報の白亜紀深成岩類の同位体組成(εHf(t)=-30~+4; 例えば、Wang et al., 2020, Canad. J. Earth Sci.; Liu et al., 2018, Acta Geol. Sinica)の中に収まることから、梶島の深成岩類は西南日本内帯の白亜紀深成岩類を代表するものと考えることができ、苦鉄質下部地殻での珪長質マグマ形成過程を記録した地質体と捉えることができる。
西南日本内帯には、東アジア大陸縁辺域の白亜紀フレアアップイベントで形成された花崗岩類が広く分布している。近年の同位体岩石学をはじめとした研究から、これらの花崗岩類は苦鉄質下部地殻の部分溶融によるものであると考えられているが(例えば, Nakajima 2004, Trans. R. Soc. Edinb. Earth Sci.)、そのメカニズムは未だ明らかにされていない。梶島は愛媛県北東部に位置し、岩脈状の花崗岩を伴う白亜紀斑れい岩類が広く露出する。堀内(1985, 岩石鉱物鉱床学会誌)は当地域に分布する斑れい岩類について詳細な記載岩石学研究を行い、鉱物組成の特徴から当地域の斑れい岩類が同一のマグマから形成されたことを示唆した。一方で、Kagami et al. (1985, Geochem. J.; 2000, Island Arc)は梶島の斑れい岩類を含む西南日本白亜紀深成岩類の同位体岩石学研究から苦鉄質岩と珪長質岩の成因的関連性を示唆した。Shimooka et al. (under revision)は梶島の斑れい岩類と花崗岩類についてジルコンU-Pb年代測定を行い、斑れい岩類と花崗岩類から92–91 Maと約84 Maのマグマ活動年代を報告した。白亜紀の斑れい岩類はマントルの活動に伴って形成された可能性が指摘されていることから(例えば、Kodama et al., 2019, JMPS)、梶島における斑れい岩類と花崗岩類との成因関係を明らかにすることは、西南日本のマントル−地殻間のマグマ過程の解明と白亜紀フレアアップのメカニズムを理解することに繋がる。本研究では、梶島の斑れい岩類中に花崗岩類が生成された野外産状を新たに発見した。これらの野外産状に加え、深成岩類の岩石記載、全岩主要微量元素組成、全岩Sr-Nd同位体組成、ジルコンHf同位体比のデータに基づき、白亜紀フレアアップイベントでの花崗岩質マグマ生成プロセスを明らかにする。
2. 野外産状・岩石記載
当地域の花崗岩類は、母岩の斑れい岩中に岩脈状に産出する。また、斑れい岩中にはしばしばcmオーダーの花崗岩質メルトの網状構造が発達する。この花崗岩質メルトの網状構造は、斑れい岩と漸移的な境界を示し、一部は花崗岩質なメルトプールや岩脈へと変化する。斑れい岩中には半自形~他形の輝石、融食された斜長石とカンラン石をポイキリティックに内包する角閃石巨晶が観察できる。
3. 全岩主要微量元素組成
主要元素組成分析の結果、花崗岩類はSiO2含有量72.0~75.7 wt%、K2O含有量0.9~5.5 wt %の組成範囲を示す。コンドライト(Barrat et al., 2012, Geochim. Cosmochim. Acta.)で規格化した希土類元素組成は、細粒斑れい岩を除く全ての斑れい岩類で正のEu異常(Eu/Eu*=1.5~9.1)を示す。一方で、花崗岩類は、低SiO2質な試料ほど正のEu異常(Eu/Eu*<1.2)、高SiO2質な試料ほど負のEu異常(Eu/Eu*>0.6)が大きくなる傾向がみられる。
4. 全岩Sr-Nd同位体組成・ジルコンHf同位体組成
ジルコンU-Pb年代に再計算した斑れい岩類のSr-Nd 同位体組成は花崗岩類の同位体組成と類似する(Fig. 1a)。ジルコン Hf 同位体組成も同様に、斑れい岩類と花崗岩類で類似した組成範囲を示す(Fig. 1b, c)。
5. 議論
梶島における斑れい岩類と花崗岩類との全岩Sr-Nd同位体、ジルコンHf同位体組成の一致は、両者の成因的関連性を強く示唆する。野外および鏡下での記載岩石学的特徴からは、斑れい岩の部分溶融もしくは斑れい岩質マグマの結晶分化による花崗岩質マグマの生成が示唆される。マグマ混合をはじめとした複雑なマグマプロセスの考慮は今後の課題である。本研究では、新たに、斑れい岩と花崗岩のεNd(t) とジルコンεHf(t)の多くが負の値を示すことを明らかにした。このことは、白亜紀フレアアップでは斑れい岩の起源物質であるマントルがエンリッチしていたことを示唆する。さらに、本研究での深成岩類の示すジルコンHf同位体組成(εHf (t) =-13~+2; Fig. 1b, c)は、白亜紀ユーラシア縁における既報の白亜紀深成岩類の同位体組成(εHf(t)=-30~+4; 例えば、Wang et al., 2020, Canad. J. Earth Sci.; Liu et al., 2018, Acta Geol. Sinica)の中に収まることから、梶島の深成岩類は西南日本内帯の白亜紀深成岩類を代表するものと考えることができ、苦鉄質下部地殻での珪長質マグマ形成過程を記録した地質体と捉えることができる。