130th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

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Session Oral

T11[Topic Session]Frontier of research on Antarctica

[3oral401-12] T11[Topic Session]Frontier of research on Antarctica

Tue. Sep 19, 2023 8:45 AM - 12:15 PM oral room 4 (25-North Wing, Yoshida-South Campus Academic Center Bldg.)

Chiar:Tatsuro ADACHI, Yuki MORI, Yusuke Suganuma(National Institute of Polar Research)

9:45 AM - 10:00 AM

[T11-O-4] Tectonic evolution of the Berrnabbane in the Lützow-Holm Complex evidenced from the protolith and metamorphic age

【ハイライト講演】

*Nobuhiko Nakano1, Sotaro Baba2, Shin-ichi Kagashima3 (1. Faculty of Social and Cultural Sciences, Kyushu University, 2. University of Ryukyus, 3. Yamagata University)

世話人よりハイライトの紹介:東南極リュツォ・ホルム岩体は,約6~5億年前のゴンドワナ超大陸形成期の変動を記録した地質体である.本発表では,当岩体のベルナバネに,形成場・形成年代が異なる原岩からなる変成岩類が分布し,またそれらが異なる変成年代分布を示すことを報告している.このことはリュツォ・ホルム岩体が複数回の変成作用を被った可能性を示唆しており,当岩体の形成テクトニクスモデル構築に関わる重要な発見であると考えられる.※ハイライトとは

Keywords:protolith, metamorphic age, Berrnabbane, Lützow-Holm Complex

東南極・リュツォ・ホルム岩体は,東西400 km以上にわたって分布する巨大な変成岩体であり,ゴンドワナ超大陸形成期の変動を被った地質体として,日本の南極地域観測隊を中心に研究が行われてきた.近年では原岩形成時期や砕屑性ジルコン年代に基づいた詳細な岩体区分(Takamura et al., 2018; Dunkley et al., 2020)や広域的な温度・圧力見積もり(Suzuki and Kawakami, 2019)など,年代学的・岩石学的研究が進んでおり,これまでのデータを包括的に解釈する形成テクトニクスの構築が急務である.本発表では,リュツォ・ホルム岩体のテクトニクスの制約を目的とし,岩体西部に位置する小露岩域(〜700 m x 700 m)であるベルナバネについて,特に原岩構成と変成年代の多様性からその形成過程を考察する.
 ベルナバネは,リュツォ・ホルム湾西岸,アウストホブデの東南東約7 kmに位置し,Dunkley et al. (2020)の区分ではルンドボークスヘッタ小岩体を構成する.主に珪長質片麻岩と泥質変成岩から構成され,西北西−東南東の単調な構造をしめす.これらは,全岩化学組成・U–Pbジルコン年代・Hf同位体比からは大きく3ユニットに区分される.北部と南部ユニットには,角閃石–黒雲母珪長質片麻岩が分布するが,北部は約1.0 Gaの原岩年代を持つ島弧花コウ岩〜トーナル岩質片麻岩で特徴づけられる.一方南部は,2.5 Gaの原岩年代をしめすアダカイト質花コウ岩〜トーナル岩質片麻岩である.変成超苦鉄質岩ブロックを含み,珪長質片麻岩の一部が高Cr, Ni含有量をしめすことから原岩はスラブ溶融により形成されたと解釈できる.両者に挟まれた中央部は主に泥質片麻岩から構成され,約1.9 Gaの原岩年代をしめす苦鉄質グラニュライトや珪長質片麻岩を狭在する.泥質片麻岩の堆積上限年代は約1.8 Gaである.化学的・同位体的特徴から,中央部は1.9–1.8 Gaに形成された2.5 Ga地塊の大陸縁に相当すると考えられる.
 中部(1.9–1.8 Ga)・南部(2.5 Ga)の珪長質片麻岩・泥質片麻岩・苦鉄質グラニュライト中のジルコンリムは610 Maから510 Maまでの多様な年代をしめし,その238U–206Pb加重平均年代(555±8 Ma: n=102, N=9)のMSWDは10に達する.この幅広い年代分布と高いMSWDは泥質片麻岩中のモナズ石のU–Th–Pb化学年代と同様の傾向である(556±5 Ma: MSWD = 5.3: n=259,N=4).また,ジルコンのTh/U比も0.01–1.54と多様である.このことは,これらの変成岩類が複数のイベントで形成されたことを強く示唆している.仮に,Isoplotを用いてピーク分離すると,579±3 Maと538±3 Maとなる.一方で,1.0 Gaの原岩をしめす北部の珪長質片麻岩のジルコンの多くはリムが発達せず,現時点で測定できたリムは546–530 Maに集中する(537±7 Ma: MSWD = 1.2: Th/U = 0.09: n=4, N=1).この年代は,中央部と南部に認められる若い年代ピークに類似する.
 北部(1.0 Ga)と南部(2.5 Ga)の珪長質片麻岩中の角閃石や斜長石の化学組成はほぼ一致し,これらは両者が約540–530 Maのピーク〜後退変成作用までの一連の変成作用を共有したことをしめす.この変成作用はリュツォ・ホルム岩体全域に認められる主要な衝突イベントによるものと考えられる.一方で,中部および南部にのみ認められる580 Ma程度の古いジルコンリムは,約1.8 Gaの大陸縁辺をもつ2.5 Gaの地塊が主要な衝突に先行する局所的な衝突イベントを被ったことを強く示唆する.このことは,1.8 Gaよりも古い原岩年代をしめすルンドボークスヘッタ,スカレビークスハルセン,スリランカ・ハイランド岩体が幅広い変成年代をしめす(Dunkley et al., 2020; Kitano et al., 2018)ことと調和的であり,これらの地質体を特徴づける高温〜超高温変成作用の要因となった可能性も指摘できる.講演では,追加分析結果も加えて議論する予定である.

引用文献:[1] Dunkley et al. (2020), Polar Sci., 26, 100606. [2] Kitano et al. (2018), JAES, 156, 122–144. [3] Suzuki and Kawakami (2019), JMPS, 114, 267–279. [4] Takamura et al. (2018), Geosci. Frontiers, 9, 355–375.