10:00 AM - 10:15 AM
[T9-O-5] (entry) Plagioclase diffusion chronometry as a constraint on pluton formation history: numerical modeling and application on the plutons in Mikawa region
★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
Keywords:petrology, pluton growth, diffusion chronometry, plagioclase
マグマの生成と輸送はマントルから地殻への物質・熱の輸送を支配する重要なプロセスである。マントルの部分溶融で生成されたマグマは地殻中を上昇したのちマグマだまりに貯蔵され、マグマ混合・結晶分化作用・同化作用などによって成分が多様化する。マグマだまりは火山へマグマを供給して活動を維持すると考えられているが、一部のマグマだまりは火山噴火に至ることなく中部~上部地殻で固結して深成岩体となる。
マグマだまりへのマグマ供給過程の詳細に関しては現在も議論が続いており、統一的な見解を得られていない。マグマ供給はマグマだまり内の温度構造の時間変化に強く影響し、マグマだまりの保持するメルト量や内部の粘性などに密接に関係する。メルト量や粘性はマグマだまりのダイナミクスを強く制約するため、マグマだまりの噴火可能性やメルト抽出などの問題を議論するうえでマグマ供給過程への理解は不可欠である。深成岩体が溶融状態を維持して成長する古典的な形成モデル (melt-rich model) では、大規模なマグマ貫入によりmelt poolが形成され、壁面からの冷却による分別結晶化で岩体が作られるとされた。Skaergaardなどの層状岩体の地質構造や化学組成をよく説明し、多量のメルトを保持することからいわゆるsuper-eruptionとの関連も指摘されている [1] 。一方、活動的火山の物理探査や成長中の深成岩体の調査からは、活動中のマグマだまりであってもメルト割合は低い(<~30%)ことが示唆されてきた [2] 。近年の詳細な年代測定などの結果から、結晶主体の状態を維持しながらシルが次々と付加することによって成長が進むモデル (crystal-rich model) が広く受け入れられつつある。このモデルではマグマの供給フラックスや供給間隔、マグマの排出の有無など多くの変数に従って温度構造が変化するため、様々なマグマだまり環境を取る一方、各変数の天然でのバリエーションを制約し、現象をどの程度説明できるか検討する必要がある。しかしながらこれらの変数は天然試料から制約が困難であり、マグマ供給過程を調べる新しいアプローチが必要となる。
本研究では、マグマだまり成長モデル理解への手がかりとして、深成岩体の経た熱史に着目した。深成岩体の熱史は岩体へのマグマインプットによって変化するため、岩体の成長履歴をよく反映することが期待できる。また熱史の記録媒体として、深成岩に含まれる斜長石結晶中のSr の拡散に着目した。元素拡散は高温時に進行し低温時は停止することから、鉱物に残された拡散の影響を調べることで高温状態の持続時間を推定できる。拡散を用いた被熱履歴推定は火山岩斑晶に適用例が多い一方、深成岩への適用は極めて限られることから、本研究でははじめに数値計算によって適用可能性評価を行った。計算では、はじめに異なるマグマ供給システム (温度、供給頻度、マグマの付加位置、噴火によるマグマ排出の有無) で熱モデリング [3] を行い、深成岩体成長時の温度構造履歴を推定した。つぎに得られた各マグマ供給条件における温度構造履歴について、岩体中の複数箇所の温度変化を入力して斜長石中の元素拡散のシミュレーションを行った。以上の計算の結果、異なるマグマ供給条件において、斜長石中のSr拡散に異なるパターンが現れることが確かめられた。この結果は、地表に露出する多くの深成岩体を用いて、マグマだまりへのマグマ供給過程を広範に調査できる可能性を示す。またmelt-rich modelに代表されるマグマが高フラックスで供給される条件において拡散が著しく進行することが確かめられた。この結果は特に噴火に関与した深成岩体を抽出し、噴火に至る条件や噴火時のマグマだまり内部のダイナミクスへアプローチできる可能性を示唆する。
以上の計算で岩体中の複数点での拡散分析から貫入様式を制約できることが示唆されたことから、実地試験として対照的な温度履歴を持つ2岩体においてサンプリングと分析を行い、実際の感度を調べる研究を進めている。対象には三河地方に分布する新城トーナル岩、武節花崗岩を選択した。新城トーナル岩は同時期に隣接して形成された武節花崗岩に比べて有意に広い接触変成帯を持つことが知られており [4, 5] 、両岩体は対照的な温度履歴をたどったことが示唆されていることから、本手法の試験適用対象に最適である。計算と分析の結果、および手法の適用法を議論し報告する。
[1] Annen et al., 2022, Sci. Adv. [2] Samrock et al., 2021, EPSL [3] Annen et al., 2023, J. Volcanol. Geotherm. Res. [4] Yamaoka et al., 2022, Lithosphere [5] Takatsuka et al., 2018, Lithos
マグマだまりへのマグマ供給過程の詳細に関しては現在も議論が続いており、統一的な見解を得られていない。マグマ供給はマグマだまり内の温度構造の時間変化に強く影響し、マグマだまりの保持するメルト量や内部の粘性などに密接に関係する。メルト量や粘性はマグマだまりのダイナミクスを強く制約するため、マグマだまりの噴火可能性やメルト抽出などの問題を議論するうえでマグマ供給過程への理解は不可欠である。深成岩体が溶融状態を維持して成長する古典的な形成モデル (melt-rich model) では、大規模なマグマ貫入によりmelt poolが形成され、壁面からの冷却による分別結晶化で岩体が作られるとされた。Skaergaardなどの層状岩体の地質構造や化学組成をよく説明し、多量のメルトを保持することからいわゆるsuper-eruptionとの関連も指摘されている [1] 。一方、活動的火山の物理探査や成長中の深成岩体の調査からは、活動中のマグマだまりであってもメルト割合は低い(<~30%)ことが示唆されてきた [2] 。近年の詳細な年代測定などの結果から、結晶主体の状態を維持しながらシルが次々と付加することによって成長が進むモデル (crystal-rich model) が広く受け入れられつつある。このモデルではマグマの供給フラックスや供給間隔、マグマの排出の有無など多くの変数に従って温度構造が変化するため、様々なマグマだまり環境を取る一方、各変数の天然でのバリエーションを制約し、現象をどの程度説明できるか検討する必要がある。しかしながらこれらの変数は天然試料から制約が困難であり、マグマ供給過程を調べる新しいアプローチが必要となる。
本研究では、マグマだまり成長モデル理解への手がかりとして、深成岩体の経た熱史に着目した。深成岩体の熱史は岩体へのマグマインプットによって変化するため、岩体の成長履歴をよく反映することが期待できる。また熱史の記録媒体として、深成岩に含まれる斜長石結晶中のSr の拡散に着目した。元素拡散は高温時に進行し低温時は停止することから、鉱物に残された拡散の影響を調べることで高温状態の持続時間を推定できる。拡散を用いた被熱履歴推定は火山岩斑晶に適用例が多い一方、深成岩への適用は極めて限られることから、本研究でははじめに数値計算によって適用可能性評価を行った。計算では、はじめに異なるマグマ供給システム (温度、供給頻度、マグマの付加位置、噴火によるマグマ排出の有無) で熱モデリング [3] を行い、深成岩体成長時の温度構造履歴を推定した。つぎに得られた各マグマ供給条件における温度構造履歴について、岩体中の複数箇所の温度変化を入力して斜長石中の元素拡散のシミュレーションを行った。以上の計算の結果、異なるマグマ供給条件において、斜長石中のSr拡散に異なるパターンが現れることが確かめられた。この結果は、地表に露出する多くの深成岩体を用いて、マグマだまりへのマグマ供給過程を広範に調査できる可能性を示す。またmelt-rich modelに代表されるマグマが高フラックスで供給される条件において拡散が著しく進行することが確かめられた。この結果は特に噴火に関与した深成岩体を抽出し、噴火に至る条件や噴火時のマグマだまり内部のダイナミクスへアプローチできる可能性を示唆する。
以上の計算で岩体中の複数点での拡散分析から貫入様式を制約できることが示唆されたことから、実地試験として対照的な温度履歴を持つ2岩体においてサンプリングと分析を行い、実際の感度を調べる研究を進めている。対象には三河地方に分布する新城トーナル岩、武節花崗岩を選択した。新城トーナル岩は同時期に隣接して形成された武節花崗岩に比べて有意に広い接触変成帯を持つことが知られており [4, 5] 、両岩体は対照的な温度履歴をたどったことが示唆されていることから、本手法の試験適用対象に最適である。計算と分析の結果、および手法の適用法を議論し報告する。
[1] Annen et al., 2022, Sci. Adv. [2] Samrock et al., 2021, EPSL [3] Annen et al., 2023, J. Volcanol. Geotherm. Res. [4] Yamaoka et al., 2022, Lithosphere [5] Takatsuka et al., 2018, Lithos