10:30 AM - 10:45 AM
[T9-O-7] (entry) Trace element compositions of minerals in Iwafune diorite, Ibaraki Prefecture
Keywords:Trace element compositions of minerals, Diorite, Fractional crystalization, Iwafune area
はじめに
茨城県城里町に位置する岩船閃緑岩は,主岩相である閃緑岩と直方輝石を含む直方輝石閃緑岩に区分される。山崎ほか(2023)は,岩船閃緑岩の組成変化について,直方輝石閃緑岩から単斜輝石および斜長石を分別することで説明したが,鉱物化学組成を用いた検討は行っていなかった。そこで,本研究では,鉱物中の微量元素組成から,鉱物およびメルトの化学組成の変化を議論する。
鉱物化学組成
閃緑岩の斜長石の組成はコアからリムにかけてAn73.6Ab23.2Or3.2-An24.9Ab72.6Or2.5であり,直方輝石閃緑岩のものはAn69.9Ab29.4Or0.7-An38.0Ab60.3Or1.8である。斜長石のAn成分の減少と各微量元素の含有量の変化に,岩相間の違いはない。両者の斜長石中の微量元素は,An成分の減少に伴い,LaおよびCeが増加する。また,斜長石のAn成分が50-74%のコアでは,An成分の減少に伴いSrは減少,Baは増加するが,An成分が25-50%のリムでは,An成分が50%以上の領域と比較してSrの減少幅が大きくなり,Baは減少する。
閃緑岩中のアルカリ長石の組成は, Or78.6-91.5 Ab8.2-20.4 An0.3-1.3である。アルカリ長石は鉱物粒間に存在する。アルカリ長石のSrおよびBaは不均質で,それぞれ265-352 ppmおよび1050-13300 ppmである。
閃緑岩中の単斜輝石の組成はコアからリムにかけてEn40.0Fs21.5Wo38.5-En33.3Fs28.5Wo38.2であり,直方輝石閃緑岩中のものはEn43.0Fs25.9Wo31.1-En37.1Fs21.3Wo41.6である。閃緑岩中の単斜輝石は,En成分の減少に伴いMn,LaおよびYが増加し,Crが減少するのにたいして,直方輝石閃緑岩の中のそれらの元素の組成変化はEn成分の変化と相関しない。
直方輝石閃緑岩の中の直方輝石の組成はコアからリムにかけてEn55.8Fs41.1Wo3.1-En48.4Fs49.5Wo2.1であり,En成分の減少に伴いYが増加し,Crが減少する。
考察
本研究では,メルト-鉱物間の分配係数はRollison and Pease (2021)の値を用い,鉱物組成によらず分配係数は一定の値であったと仮定する。
斜長石中のLaおよびCeはAn成分の減少とともに増加し,単斜輝石のLaおよびY,直方輝石のYはEn成分の減少とともに増加する。岩船閃緑岩の全岩化学組成(山崎ほか, 2023)は,SiO2の増加とともに,La,CeおよびYが増加する。また,斜長石,単斜輝石および直方輝石の各元素の分配係数は1以下である。これらのことから,An成分およびEn成分の減少に伴う上述の元素の含有量の増加は,各鉱物の結晶分化作用によってLa,CeおよびYがメルトに濃集したことで説明できる。
単斜輝石および直方輝石のCrは,En成分の減少とともに増加する。岩船閃緑岩の全岩化学組成(山崎ほか, 2023)は,SiO2の増加とともに,Crが減少する 。また,単斜輝石および直方輝石のCrの分配係数は1以上である。これらのことから,En成分の減少に伴う単斜輝石および直方輝石のCrの減少は,単斜輝石および直方輝石の結晶分化作用によってメルト中のCrが減少したことで説明できる。
斜長石のSrおよびBaの分配係数はSrが1以上,Baが1以下であるため,一般にAn成分の減少に伴うSrの組成変化は減少するトレンドを示し,Baは増加するトレンドを示すと考えられる。しかし,An成分が約50%以下の領域において,An成分の減少に伴うSrの組成変化は, An成分が50%以上の領域と比較してSrの減少幅が大きくなる。また,Baは減少するトレンドに変化する。この斜長石のSrおよびBaの組成トレンドの変化が,アルカリ長石の晶出によって説明できるかを以下で検討する。閃緑岩中のアルカリ長石は,高いSrおよびBaを持つことから,アルカリ長石は晶出時にメルトからSrおよびBaを取り除いたと考えられる。また,アルカリ長石は鉱物粒間に存在することから,マグマ過程の後期に晶出したと考えられる。これらのことから,An成分の減少に伴う斜長石中のSrおよびBaの組成変化トレンドの変化は,メルトからAn成分が50%の斜長石が晶出した際に,アルカリ長石が晶出し始め,メルト中のSrおよびBaを減少させたことによると説明できる。
まとめ
岩船閃緑岩のメルト組成の変化は,斜長石および単斜輝石(山崎ほか,2023)に加え,アルカリ長石および直方輝石の晶出で形成したと結論される。
引用文献
Rollison, H. and Pease, V. (2021), CUP, 346p.
山崎ほか (2023), 日本地球惑星科学連合2023年大会予稿集, SCG48-03.
茨城県城里町に位置する岩船閃緑岩は,主岩相である閃緑岩と直方輝石を含む直方輝石閃緑岩に区分される。山崎ほか(2023)は,岩船閃緑岩の組成変化について,直方輝石閃緑岩から単斜輝石および斜長石を分別することで説明したが,鉱物化学組成を用いた検討は行っていなかった。そこで,本研究では,鉱物中の微量元素組成から,鉱物およびメルトの化学組成の変化を議論する。
鉱物化学組成
閃緑岩の斜長石の組成はコアからリムにかけてAn73.6Ab23.2Or3.2-An24.9Ab72.6Or2.5であり,直方輝石閃緑岩のものはAn69.9Ab29.4Or0.7-An38.0Ab60.3Or1.8である。斜長石のAn成分の減少と各微量元素の含有量の変化に,岩相間の違いはない。両者の斜長石中の微量元素は,An成分の減少に伴い,LaおよびCeが増加する。また,斜長石のAn成分が50-74%のコアでは,An成分の減少に伴いSrは減少,Baは増加するが,An成分が25-50%のリムでは,An成分が50%以上の領域と比較してSrの減少幅が大きくなり,Baは減少する。
閃緑岩中のアルカリ長石の組成は, Or78.6-91.5 Ab8.2-20.4 An0.3-1.3である。アルカリ長石は鉱物粒間に存在する。アルカリ長石のSrおよびBaは不均質で,それぞれ265-352 ppmおよび1050-13300 ppmである。
閃緑岩中の単斜輝石の組成はコアからリムにかけてEn40.0Fs21.5Wo38.5-En33.3Fs28.5Wo38.2であり,直方輝石閃緑岩中のものはEn43.0Fs25.9Wo31.1-En37.1Fs21.3Wo41.6である。閃緑岩中の単斜輝石は,En成分の減少に伴いMn,LaおよびYが増加し,Crが減少するのにたいして,直方輝石閃緑岩の中のそれらの元素の組成変化はEn成分の変化と相関しない。
直方輝石閃緑岩の中の直方輝石の組成はコアからリムにかけてEn55.8Fs41.1Wo3.1-En48.4Fs49.5Wo2.1であり,En成分の減少に伴いYが増加し,Crが減少する。
考察
本研究では,メルト-鉱物間の分配係数はRollison and Pease (2021)の値を用い,鉱物組成によらず分配係数は一定の値であったと仮定する。
斜長石中のLaおよびCeはAn成分の減少とともに増加し,単斜輝石のLaおよびY,直方輝石のYはEn成分の減少とともに増加する。岩船閃緑岩の全岩化学組成(山崎ほか, 2023)は,SiO2の増加とともに,La,CeおよびYが増加する。また,斜長石,単斜輝石および直方輝石の各元素の分配係数は1以下である。これらのことから,An成分およびEn成分の減少に伴う上述の元素の含有量の増加は,各鉱物の結晶分化作用によってLa,CeおよびYがメルトに濃集したことで説明できる。
単斜輝石および直方輝石のCrは,En成分の減少とともに増加する。岩船閃緑岩の全岩化学組成(山崎ほか, 2023)は,SiO2の増加とともに,Crが減少する 。また,単斜輝石および直方輝石のCrの分配係数は1以上である。これらのことから,En成分の減少に伴う単斜輝石および直方輝石のCrの減少は,単斜輝石および直方輝石の結晶分化作用によってメルト中のCrが減少したことで説明できる。
斜長石のSrおよびBaの分配係数はSrが1以上,Baが1以下であるため,一般にAn成分の減少に伴うSrの組成変化は減少するトレンドを示し,Baは増加するトレンドを示すと考えられる。しかし,An成分が約50%以下の領域において,An成分の減少に伴うSrの組成変化は, An成分が50%以上の領域と比較してSrの減少幅が大きくなる。また,Baは減少するトレンドに変化する。この斜長石のSrおよびBaの組成トレンドの変化が,アルカリ長石の晶出によって説明できるかを以下で検討する。閃緑岩中のアルカリ長石は,高いSrおよびBaを持つことから,アルカリ長石は晶出時にメルトからSrおよびBaを取り除いたと考えられる。また,アルカリ長石は鉱物粒間に存在することから,マグマ過程の後期に晶出したと考えられる。これらのことから,An成分の減少に伴う斜長石中のSrおよびBaの組成変化トレンドの変化は,メルトからAn成分が50%の斜長石が晶出した際に,アルカリ長石が晶出し始め,メルト中のSrおよびBaを減少させたことによると説明できる。
まとめ
岩船閃緑岩のメルト組成の変化は,斜長石および単斜輝石(山崎ほか,2023)に加え,アルカリ長石および直方輝石の晶出で形成したと結論される。
引用文献
Rollison, H. and Pease, V. (2021), CUP, 346p.
山崎ほか (2023), 日本地球惑星科学連合2023年大会予稿集, SCG48-03.