130th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

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Session Oral

T10[Topic Session]Culture geology【EDI】

[3oral601-10] T10[Topic Session]Culture geology

Tue. Sep 19, 2023 8:45 AM - 12:00 PM oral-06 (37-North Wing, Yoshida-South Campus Academic Center Bldg.)

Chiar:naoki takahashi(Natural History Museum and Institute,Chiba), masaya SAKAMOTO, Yukiko OHTOMO

9:30 AM - 9:45 AM

[T10-O-14] Influence of topography and geology on shikomi-water and the properties of shikomi-water on sake brewing

*Ken-ichiro Hisada1, Shiho YABUSAKI2, Yukihiko KARATA3, Nanako KUDO3, Masaki OKUDA4, Midori JOYO4, Satoko TERAMOTO4, Nobuhiko MUKAI4 (1. Bunkyo University, 2. Research Institute for Humanity and Nature, 3. Dank Co., Ltd.,, 4. Institute: National Research Institute of Brewing)

Keywords:rice wine, brewing, sake terroir, groundwater flow, water quality analysis

酒の四つの原材料(水,米,酵母,米麹)のうち,水と米だけが生産地に関わる物理的条件の要素として用いることができ,その中でも水は最も決定的な要因である.水は場所を移すことができず,その水質は酒の味に反映することから酒テロワールの代表と見なされている(ボーメール[日本語訳],2021).久田ほかは2021年に「日本酒仕込水の水質と地質」と題したポスター発表を行った.これは,全国およそ1400ある酒蔵のうち,仕込み水として使用している水274点(地下水200点,その他74点;ひとつの酒蔵から複数試料の場合あり;各50 mL)を入手した.仕込み水以外の参考水試料(9点)をあわせて分析総数は283点であった.東北日本,西南日本内帯,外帯の分析試料数は,それぞれ130,147,6であり,溶存イオンの成分比をあらわすキーダイアグラムの全ての領域に分散している.特に東北日本ではアルカリ土類炭酸塩型が50%,中間型が37%,内帯ではそれぞれ64%,24%となっていた.このような水質分析結果から,花崗岩がより広く分布する内帯の地域に位置する酒蔵の仕込み水は,Ca-HCO3 型がより卓越するものと推察した.一方,東北日本の水質ではより中間型の水が多く,これは広く分布する第四紀・新第三紀の地層中の地下水流動に起因するものと推定した.
 今回,その後に分析した仕込み水試料13点を加えて(総計277点の仕込み水のみ),クラスター分析(溶存イオン8成分の濃度を利用)を試み,10のカテゴリーを見出した.その結果,2021年の発表における9のカテゴリ-分類よりもいっそう仕込み水の溶存イオンの特徴が明らかとなった.10のカテゴリーは,基本的には溶存成分量の少ないCa-HCO3 型と比較的多いCa-HCO3 型にわけられる.後者のうち,Ca2+とHCO3-が陽イオン・陰イオンで卓越するもの,Cl-が卓越するもの,SO42-とNO3-が比較的卓越するもの,Na+とK+が比較的卓越するものとなる.このように溶存成分量の多いグループはCa-HCO3タイプとNa(K)-Cl タイプで特徴づけられる.これらの地理的分布を見ると,溶存成分量の少ないグループは全国的に広がり(北海道を除く),多いグループは西南日本内帯に偏る傾向がある.花崗岩・斑レイ岩でできた筑波山の麓ではCa-HCO3タイプが確認されており,岩石による影響を強く受けている(藪崎他,2007).一般に水質は,岩石の種類・滞留時間などに強い影響を受けるといわれており,溶存成分量の少ないCa-HCO3 型を示す地点は,降水後まもなく地表水・地下水流動し滞留時間が比較的短時間であった可能性がある(急峻地形による).あるいは火山岩地帯の地下水のように,岩石-水反応が十分でなかったことが示唆される(火山岩の特性による).
 仕込み水の水質が清酒醸造に及ぼす影響を明らかにするため,国内清酒製造場の仕込み水11種と超硬水と純水の合計13種類の水と精米歩合40%,60%,70%の原料米を用いて清酒小仕込み実験を行ない,水質と清酒成分等との関係を解析した(奥田ほか,2022).すなわち仕込み水と原料米の無機元素含量から,もろみに投入される仕込み水の影響が大きい元素の特定を行った.清酒小仕込み試験の結果,発酵過程や製成酒成分は超硬水とそれ以外では顕著に異なったが,11種類の清酒仕込み水間においてもバラツキがみられた.製成酒の味覚センサー解析では酸味,苦味雑味・旨味コク,渋味刺激・渋味センサー応答において,仕込み水のMg, Ca, SO42-濃度に相関がみられた.とくに各仕込み水中で米の消化性を調べたところ,仕込み水のCa,SO42-濃度が高いと消化液のα-アミラーゼ活性が高くなることが認められた.すなわち,α-アミラーゼの無効吸着が仕込み水の無機成分含有量によって左右され,その結果米の溶解性に影響を及ぼすことが示唆された.一方,消化液のアミノ酸濃度は,仕込み水のCa, SO42-濃度が高いと低くなる傾向が見られた.そして各仕込み水での消化特性は,アミノ酸濃度,香気成分,発酵速度など清酒醸造特性にも高い相関を示した.このように奥田ほか(2022)は,仕込み水のSO42-のような無機成分が,α-アミラーゼの蒸米への無効吸着を抑制し,米の溶解性を向上させる一方で,アミノ酸の生成を抑制する可能性を指摘した.
【文献】 ボーメール(Baumert,2021) [寺尾監訳] 酒 日本に独特なもの276pp,晃洋書房. 久田ほか(2021)地質学会第128年学術大会T5-P-1. 奥田ほか(2022)日本醸造協会誌 117(8) 580-608. 藪崎ほか(2007)地下水学会誌,49,153-168