10:00 AM - 10:15 AM
[T15-O-11] Zircon U–Pb and fission-track ages of the Miocene Onnagawa Formation in the Yashima Area, Akita Prefecture, and implications for the timing of paleoceanographic changes in the Sea of Japan
Keywords:Sea of Japan, Miocene, Onnagawa Formation, U–Pb age, fission-track age, paleoceanography, tectonics, volcanism
秋田県矢島地域に分布する中新統女川層は、日本海の古海洋環境を復元する上でも,秋田油田の根源岩ポテンシャル評価を行う上でも代表的ルートの一つとされ,多くの研究が行われてきた(辻ほか,1991;山本ほか,1999;Yoshioka et al., 2021; Asahina et al., 2022).一方,珪藻化石による年代決定が可能な堆積盆縁辺の佐渡中山層(柳沢・渡辺,2007)や笹森丘陵女川層(加藤・柳沢,2021)と比べ,本研究地域の女川層は,続成作用による珪藻殻の溶解のため,高精度の年代データがこれまでに得られておらず,堆積盆中心における古海洋環境復元には問題が残されていた.
本研究では,矢島地域の子吉川において,女川層の下部より1層準,上部より3層準で採取した凝灰岩層に対しジルコンのLA-ICP-MSによるU–PbおよびFT年代測定を行った.その結果,女川層下部から①U–Pb年代11.55 ± 0.22 Ma (2σ) 及びFT年代12.3 ± 1.4 Ma (2σ),女川層上部から、②U–Pb年代10.44 ± 0.43 Ma (2σ), ③U–Pb年代9.62 ± 0.30 Ma (2σ) 及びFT年代10.2 ± 1.2 Ma (2σ),④U–Pb年代 9.59 ± 0.16 Ma (2σ)の信頼できる年代値を得た(U–Pb年代はConcordia age).本研究による年代値は,女川層上部の年代値を補完するもので,既存の微化石年代・放射年代(辻ほか,1991;Yoshioka et al., 2021)を加えて,女川層の年代モデルを作成し,以下のような日本海古海洋環境変遷史を導いた.
○矢島地域の女川層最下部は13.8 Ma以前の年代に及び,岩相も石灰質泥岩を含むなど女川階とは明瞭に異なり,西黒沢階に属する.
○西黒沢階の堆積速度が小さいのに対して,女川階基底で堆積速度が急増し,女川階下部は上位に向け堆積速度が増加する.その後10.9–9.4 Maに堆積速度が一時的に急減する層準があり,その上位で堆積速度が再び漸増する.このような堆積速度の変化は,佐渡中山層のそれと酷似しており,堆積盆規模で同時に生じた古海洋環境変化を反映した可能性が高い.
○本研究の年代モデルによれば,山本ほか(1999) の古海洋環境変動モデルは1 Ma程度古く見直され,その結果,日本海古海洋環境が有機物の保存に適した還元環境に変化したタイミングが奥羽山脈隆起開始とほぼ同時期であったことが確かめられた(中嶋,2018; Asahina et al., 2022).また9 Ma頃に出現する化学合成生物群集(辻ほか,1991;山本ほか,1999)は,同時期に生じた由利原油ガス田の熱水活動イベント(Yagi, 1993)に関連した可能性がある.
本研究では,珪藻化石の産出しない堆積盆中心の女川層でも,高精度の放射年代測定によって珪藻化石層序に匹敵する精度の年代モデルを構築可能であることを示した.その結果,古海洋環境変遷のタイミングの堆積盆規模での対比が可能となった.さらに,本地域の西黒沢階層序改訂の必要性や,女川期の古海洋環境変遷がテクトニクスや火山活動と密接に関係していたことを示している.
[引用文献]Asahina et al. (2022) Geochem. J. 56, 1–15. 加藤・柳沢(2021)地質雑、127, 105–120. 中嶋(2018)地質雑, 124, 693–722. 辻ほか(1991)石油資源開発技術研究所研究報告、7, 45–99. 山本ほか(1999)地調月報,50, 361-376. 柳沢・渡辺(2017)地調研報、68, 287–339. Yagi (1993) Island Arc, 2, 240–261. Yoshioka et al. (2021) Geochem. J. 55,185–191.
本研究では,矢島地域の子吉川において,女川層の下部より1層準,上部より3層準で採取した凝灰岩層に対しジルコンのLA-ICP-MSによるU–PbおよびFT年代測定を行った.その結果,女川層下部から①U–Pb年代11.55 ± 0.22 Ma (2σ) 及びFT年代12.3 ± 1.4 Ma (2σ),女川層上部から、②U–Pb年代10.44 ± 0.43 Ma (2σ), ③U–Pb年代9.62 ± 0.30 Ma (2σ) 及びFT年代10.2 ± 1.2 Ma (2σ),④U–Pb年代 9.59 ± 0.16 Ma (2σ)の信頼できる年代値を得た(U–Pb年代はConcordia age).本研究による年代値は,女川層上部の年代値を補完するもので,既存の微化石年代・放射年代(辻ほか,1991;Yoshioka et al., 2021)を加えて,女川層の年代モデルを作成し,以下のような日本海古海洋環境変遷史を導いた.
○矢島地域の女川層最下部は13.8 Ma以前の年代に及び,岩相も石灰質泥岩を含むなど女川階とは明瞭に異なり,西黒沢階に属する.
○西黒沢階の堆積速度が小さいのに対して,女川階基底で堆積速度が急増し,女川階下部は上位に向け堆積速度が増加する.その後10.9–9.4 Maに堆積速度が一時的に急減する層準があり,その上位で堆積速度が再び漸増する.このような堆積速度の変化は,佐渡中山層のそれと酷似しており,堆積盆規模で同時に生じた古海洋環境変化を反映した可能性が高い.
○本研究の年代モデルによれば,山本ほか(1999) の古海洋環境変動モデルは1 Ma程度古く見直され,その結果,日本海古海洋環境が有機物の保存に適した還元環境に変化したタイミングが奥羽山脈隆起開始とほぼ同時期であったことが確かめられた(中嶋,2018; Asahina et al., 2022).また9 Ma頃に出現する化学合成生物群集(辻ほか,1991;山本ほか,1999)は,同時期に生じた由利原油ガス田の熱水活動イベント(Yagi, 1993)に関連した可能性がある.
本研究では,珪藻化石の産出しない堆積盆中心の女川層でも,高精度の放射年代測定によって珪藻化石層序に匹敵する精度の年代モデルを構築可能であることを示した.その結果,古海洋環境変遷のタイミングの堆積盆規模での対比が可能となった.さらに,本地域の西黒沢階層序改訂の必要性や,女川期の古海洋環境変遷がテクトニクスや火山活動と密接に関係していたことを示している.
[引用文献]Asahina et al. (2022) Geochem. J. 56, 1–15. 加藤・柳沢(2021)地質雑、127, 105–120. 中嶋(2018)地質雑, 124, 693–722. 辻ほか(1991)石油資源開発技術研究所研究報告、7, 45–99. 山本ほか(1999)地調月報,50, 361-376. 柳沢・渡辺(2017)地調研報、68, 287–339. Yagi (1993) Island Arc, 2, 240–261. Yoshioka et al. (2021) Geochem. J. 55,185–191.