130th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

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Session Oral

T15[Topic Session]Regional geology and stratigraphy: review and prospect

[3oral701-11] T15[Topic Session]Regional geology and stratigraphy: review and prospect

Tue. Sep 19, 2023 9:00 AM - 12:00 PM oral-07 (38-North Wing, Yoshida-South Campus Academic Center Bldg.)

Chiar:Hajime Naruse, Akihide Kikukawa, Yasufumi Satoguchi

11:45 AM - 12:00 PM

[T15-O-17] Toward new industrial use of geological maps−Expansion into the agricultural field (terroir) and financial field−

*Makoto Saito1 (1. Geological Survey of Japan, AIST)

Keywords:terroir, agriculture, finance, real estate, seamless geological Map of Japan

発表者は,これまで,5万分の1地質図幅の作成(末吉,椎葉村,横山,砥用,豊田),20万分の1地質図幅の作成(宮崎,開聞岳及び黒島の一部,屋久島,中之島及び宝島,徳之島,八代及び野母崎の一部,横須賀,大分)に携わり,その後20万分の1日本シームレス地質図の運営,同V2版の作成に携わっている.そのため作成された地質図の活用事例に強い関心を持ってきた.
 地質と人間との関わりは,資源開発,防災,土木建設,廃棄物の地層処分,地下水管理などのように地質が直接的に人間社会に影響を与える場合のほか,地形に影響を与え,地形は気候(気象)に影響を与え,また地質は土壌の原料になることによって,気象とともに植生に影響を与え,我々動物はその上に生きていることが認識できる(図).こういった地質図の活用されていく場面で,大きく欠けている場面があると考えている.その主要例が農業分野と金融分野である.
【農業分野】 農業分野ではヨーロッパにワインを中心にテロワールの概念があるが,日本ではまだ普及していない.植生の分野では地質の重要性はこれまでも認識され,林地の樹木の育ちやすさを表す地位級では,地質も判定要素に入っている.また,有機農法では地質図を活用しているという話は聞くことがあった.しかし,農業分野(特に生産分野)とは歴史的経緯もあって,これまで地質情報が積極的に使われてきたとは言い難い.
 地質調査所が1882年に農商務省に設立された当時の業務は,地質,土性(土壌のこと),分析,地形であった.その後1905年になると,1893年にできた農事試験場(現在の農研機構の前身)に土性は移管され,1925年に商工省と農林省が分離されることによって,地質と土壌は省庁の縦割りの中で,別の歴史をたどることになり,地質は直接農産物と関わる機会を失ったと言える.
 しかし近年になってデジタル化が進み,地質では20万分の1日本シームレス地質図が整備・配信され,また土壌図は農研機構の土壌インベントリーや森林総研の森林土壌デジタルマップとして配信され,20万分の1日本シームレス地質図は,これをベースとする地質図Naviを介して土壌インベントリー,森林土壌デジタルマップは相互乗り入れができるようになった.さらに農研機構と産総研との包括連携協定の中で地質と土壌の関係が認識され,地質,土壌,気候などのその土地の地力とも言うべきテロワールを推進する環境が整ってきた.また,ワイン業界ではテロワールの認識が国内で深まりつつある.
 このような状況の中で,ワインだけでなく土壌より下まで根を張る果樹一般と地質との関連性が日本の農業では重要であると考えられる.テロワールに関しては科学的に未開拓な分野であり,革新的な研究を推進するための予算を確保して,地質・土壌等がどう生育に関係するかといったテロワールを科学的に解明する端緒を開き,農産物に地質の価値を加えたいと考えている.これによって日本の農産物の価値向上,地域振興に貢献したいと考えている.
【金融分野】 20万分の1日本シームレス地質が完成して以来,銀行のイベントでの床貼り展示や,地震の際の銀行業務復旧への助言を行い,また銀行業界,不動産業界,損保業界の方々と地質情報の利活用の点から議論する機会があった.その結果,投資家から資金を集めてオフィスビルや商業施設,マンションなど複数の不動産などを購入し,その賃貸収入や売買益を投資家に分配する投資信託であるJ-REIT(日本版不動産投資信託)で,地質情報が使われる例や,火山に特化した富士山デリバティブで火山履歴が使われる例は認識できたが,損保業界では地質情報の活用による保険料率の設定には後ろ向きで,地質情報の活用が進んでいるとは言い難い.銀行業界では地質情報による担保価値の変動に対する拒否感が強く,地質情報は活用されていない.
 こういった事情で日本では,「土地の金銭的価値」の評価に地質があまり加味されていない(住宅の土地評価はあるが).一方,土地に対する地質情報の付加は海外からの投資判断には重要視されると言われており,今後,投資に悪影響を心配する声も聞く.東京の都市域の地質地盤図をはじめ20万分の1シームレス地質図,5万分の1地質図幅等,全国の地質図のデジタル化が進んでおり,これらを活用して,地質情報が加味された新たな土地評価システムが構築され,それに基づく新たな金融商品等が創出される事を期待したい.これにより国内外の投資家の判断基準がより的確なものとなり,不動産投資につながり,最終的に銀行の担保価値の計算に地質の要素が組み込まれるという社会活動の大きな変換を期待したい.こういった観点からの新たな仕組みの開発を予算面で応援したいと考えている.