[T5-P-8] Dextral faulting deformation structure distributed along the Median Tectonic Line at the Yuyaguchi outcrop in Saijo City, Ehime Prefecture, Japan.
Keywords:Median Tectonic Line , kinematic history, Paleogene
1.研究経緯
中央構造線の古第三紀の運動像について,市之川フェーズ(59 Ma)は中央構造線が大規模な正断層運動を行う運動時相であること,その後の先砥部フェーズ(47-46 Ma)は,中央構造線に平行~雁行配列する内帯の断層群が左横ずれ逆断層運動により形成された運動時相であることが示されている(Kubota and Takeshita 2008; Kubota et al. 2020).彼らは中央構造線の破砕帯の一部に認められた市之川フェーズの北フェルゲンツ褶曲に重複するN-S~NNE-SSW方向に軸を持つ褶曲を形成する断層運動は課題として挙げた。この課題に対して,窪田・竹下(2022)は,四国西部の愛媛県西条市丹原町中山川河岸の中央構造線の湯谷口露頭において,先第四紀の右ずれ変形構造を報告し,解明の方向性を示した。本論は同露頭において更に研究を進めた結果を報告する。
2.調査結果
湯谷口露頭の東側河岸において露頭観察,試料採取,研磨片・薄片観察による構造地質学的な手法による変形構造の解析を行った。本露頭は愛媛県指定天然記念物であるため,愛媛県および西条市の許可を得て試料採取した。 本露頭は,外帯の三波川変成岩と内帯の和泉層群を区分する中央構造線が分布しており,断層面の走向傾斜はN80°W 35°Nである。この断層境界に沿って中新世の安山岩が貫入している。露頭観察により,南からA帯:三波川変成岩のcataclasite zone(水平幅12m以上),B帯:ドロマイト質片岩のcataclasite zone(水平幅10m),C帯:和泉層群のcataclasite zone(水平幅8m),D帯:和泉層群のgouge zone(水平幅2m)として区分した。
・A帯は,EW~NE-SW走向の高角度で北傾斜するせん断面が広く分布しており,top-to-the Westの引きずり変形が認められる。この北側ほどせん断面が密に分布しており,B帯との境界に厚さ3m程度の安山岩が貫入する。安山岩にはせん断面が分布しているが,主に割れ目が密に分布する程度であり,AB帯の破砕に比べて弱い変形である。
・B帯はドロマイト質片岩のcataclasiteであり,強い破砕により細粒化している。また和泉層群の砂岩のレンズも含まれており,両地質が混合して固結している。Kubota et al. (2020)は,この変形構造を解析して,top-to-the-Northの後にtop-to-the-SWの変形を受けていることを報告した。このB帯は南北側に安山岩の貫入を受けているが,北側は安山岩の上盤側にドロマイト質片岩のcataclasiteが薄く分布する。ここでも研磨片・鏡下観察により,top-to-the Westの構造が確認された。
・C帯は和泉層群のcataclasiteからなる。北側3mはWNW-ESE走向で約30°N 傾斜の主せん断面にtop-to-the-Eastの明瞭な複合面構造と条線が分布する。南側5mは安山岩の貫入を受けてドーム状に変形している。熱水変質により肉眼では岩相が不明瞭であるが,研磨片,鏡下によりtop-to-the-Westのshear bandとこれを切るtop-to-the-Eastのshear bandを確認した。C帯の北縁はD帯のgougeに切られる。
3.考察
C帯の和泉層群に分布するtop-to-the-Eastのcataclasiteは,top-to-the-Westの後の構造であり,安山岩の貫入前に形成されたものである。B帯のドロマイト質片岩のcataclasite を中心に分布するtop-to-the-West~SWの構造は,Kubota et al. (2020)により先砥部フェーズ(47-46 Ma)により形成されたと報告されている。更に,中新世の安山岩(本露頭の安山岩では信頼できる年代値が得られていないが、他地区で15Maであると測定されている)の貫入を受けていることから,top-to-the-Eastのcataclasiteの形成時期は,45~16Maに限定されると考えられる。また,久万層群堆積期の南北伸張18~16Ma(楠橋・山路, 2001,新正・折橋, 2021他)を考慮すると,45~19Maに限定される。
以上の中央構造線の右ずれ変位は,四国西部の中央構造線が大規模に左屈曲する桜樹屈曲付近に圧縮場を形成し(i.e. restraining bend),上述したN-S~NNE-SSW方向に軸を持つ褶曲(Kubota and Takeshita, 2008)と関連する可能性がある。また,中央構造線の先第四紀の右ずれ破砕帯は他地域でも報告されており(Jefferies et al., 2006; Shigematsu et al. 2017),中央構造線の大規模な断層運動であった可能性がある。
中央構造線の古第三紀の運動像について,市之川フェーズ(59 Ma)は中央構造線が大規模な正断層運動を行う運動時相であること,その後の先砥部フェーズ(47-46 Ma)は,中央構造線に平行~雁行配列する内帯の断層群が左横ずれ逆断層運動により形成された運動時相であることが示されている(Kubota and Takeshita 2008; Kubota et al. 2020).彼らは中央構造線の破砕帯の一部に認められた市之川フェーズの北フェルゲンツ褶曲に重複するN-S~NNE-SSW方向に軸を持つ褶曲を形成する断層運動は課題として挙げた。この課題に対して,窪田・竹下(2022)は,四国西部の愛媛県西条市丹原町中山川河岸の中央構造線の湯谷口露頭において,先第四紀の右ずれ変形構造を報告し,解明の方向性を示した。本論は同露頭において更に研究を進めた結果を報告する。
2.調査結果
湯谷口露頭の東側河岸において露頭観察,試料採取,研磨片・薄片観察による構造地質学的な手法による変形構造の解析を行った。本露頭は愛媛県指定天然記念物であるため,愛媛県および西条市の許可を得て試料採取した。 本露頭は,外帯の三波川変成岩と内帯の和泉層群を区分する中央構造線が分布しており,断層面の走向傾斜はN80°W 35°Nである。この断層境界に沿って中新世の安山岩が貫入している。露頭観察により,南からA帯:三波川変成岩のcataclasite zone(水平幅12m以上),B帯:ドロマイト質片岩のcataclasite zone(水平幅10m),C帯:和泉層群のcataclasite zone(水平幅8m),D帯:和泉層群のgouge zone(水平幅2m)として区分した。
・A帯は,EW~NE-SW走向の高角度で北傾斜するせん断面が広く分布しており,top-to-the Westの引きずり変形が認められる。この北側ほどせん断面が密に分布しており,B帯との境界に厚さ3m程度の安山岩が貫入する。安山岩にはせん断面が分布しているが,主に割れ目が密に分布する程度であり,AB帯の破砕に比べて弱い変形である。
・B帯はドロマイト質片岩のcataclasiteであり,強い破砕により細粒化している。また和泉層群の砂岩のレンズも含まれており,両地質が混合して固結している。Kubota et al. (2020)は,この変形構造を解析して,top-to-the-Northの後にtop-to-the-SWの変形を受けていることを報告した。このB帯は南北側に安山岩の貫入を受けているが,北側は安山岩の上盤側にドロマイト質片岩のcataclasiteが薄く分布する。ここでも研磨片・鏡下観察により,top-to-the Westの構造が確認された。
・C帯は和泉層群のcataclasiteからなる。北側3mはWNW-ESE走向で約30°N 傾斜の主せん断面にtop-to-the-Eastの明瞭な複合面構造と条線が分布する。南側5mは安山岩の貫入を受けてドーム状に変形している。熱水変質により肉眼では岩相が不明瞭であるが,研磨片,鏡下によりtop-to-the-Westのshear bandとこれを切るtop-to-the-Eastのshear bandを確認した。C帯の北縁はD帯のgougeに切られる。
3.考察
C帯の和泉層群に分布するtop-to-the-Eastのcataclasiteは,top-to-the-Westの後の構造であり,安山岩の貫入前に形成されたものである。B帯のドロマイト質片岩のcataclasite を中心に分布するtop-to-the-West~SWの構造は,Kubota et al. (2020)により先砥部フェーズ(47-46 Ma)により形成されたと報告されている。更に,中新世の安山岩(本露頭の安山岩では信頼できる年代値が得られていないが、他地区で15Maであると測定されている)の貫入を受けていることから,top-to-the-Eastのcataclasiteの形成時期は,45~16Maに限定されると考えられる。また,久万層群堆積期の南北伸張18~16Ma(楠橋・山路, 2001,新正・折橋, 2021他)を考慮すると,45~19Maに限定される。
以上の中央構造線の右ずれ変位は,四国西部の中央構造線が大規模に左屈曲する桜樹屈曲付近に圧縮場を形成し(i.e. restraining bend),上述したN-S~NNE-SSW方向に軸を持つ褶曲(Kubota and Takeshita, 2008)と関連する可能性がある。また,中央構造線の先第四紀の右ずれ破砕帯は他地域でも報告されており(Jefferies et al., 2006; Shigematsu et al. 2017),中央構造線の大規模な断層運動であった可能性がある。