[T9-P-7] (entry) Petrological study on metasomatic syenitic rocks associated with Cretaceous granitoids from Hakata Island, Ehime Prefecture, Japan: two contrasting types of Na-metasomatism.
★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
Keywords:Na-metasomatism, Syenite, Cretaceous granitoids, Fluid-rock interaction, Hakata Island
1. はじめに 交代作用とは,岩石と流体とが反応し,その岩石の鉱物組成・化学組成を変化させる作用である.その中でも,交代性閃長岩類は地殻岩石である花崗岩類と流体の反応による産物であり,その形成過程および関与した流体を検討することは,地殻進化をもたらす物質移動プロセスを理解していく上で重要である.西南日本内帯には白亜紀後期の大規模火成活動によって形成された花崗岩類の分布域に交代性閃長岩類が点在しており,それらの記載岩石学的特徴および全岩化学組成・鉱物化学組成についていくつかの報告がある(例えば, 村上, 1976).一方,愛媛県芸予諸島伯方島を構成する岩石については,これまで記載岩石学的な検討に基づく多様な花崗岩類の分布が報告されているが(越智, 1991; 桃井, 1991; 松浦, 2002),本研究において新たに花崗岩類に伴う2種類の交代性閃長岩類を見出した.本研究では,日本愛媛県伯方島北部トウビョウ鼻に産出する2種類の交代性閃長岩類(Type 1とType 2)について,野外産状および岩石記載,化学組成分析をおこなうとともに,それらを形成する交代作用を引き起こした流体の特徴について考察した.
2. 野外産状・岩石記載 当地域に産する2種類の交代性閃長岩類は局所的な範囲に,同一の花崗岩に伴って産出.Type 1は長さ30 m,幅10 m程の岩体として露出しており塊状・緻密な岩相を示す.一方,Type 2は長さ40 m,幅5 mの岩体として露出しており,空隙や有色鉱物のレイヤリングといった特徴的な野外産状が認められる.これらの交代性閃長岩類は間に40 m程の花崗岩を挟んで近接している.いずれも周囲の花崗岩との境界は不明瞭であり,岩相が漸移的に変化する.Type 1,Type 2共に主な構成鉱物はアルカリ長石,単斜輝石,柘榴石,チタン石であり,アルカリ長石には顕著なパーサイト組織または網目状のメソパーサイト組織がみられる.一方,異なる特徴としてType 1では単斜輝石と柘榴石の粒状集合組織が,Type 2では柘榴石が粒状の単斜輝石やアルカリ長石を包有する組織がみられる.
3. 結果・考察 交代性閃長岩類は特にSiO2, K2O, Rb含有量が花崗岩類より低く,Na2O, Sr, Ba含有量が高い.また,交代性閃長岩類の中でも,Type 1のFeO(total), MgO, CaO, Sr, Y, Ba含有量はType 2より高いのに対し,Al2O3含有量はType 1よりType 2の方が高い.希土類元素については,Type 1閃長岩,周囲の花崗岩類,Type 2閃長岩の順でその存在度が低くなる.また閃長岩類は両者ともEuの負異常を示し,Type 1よりType 2がより顕著なEuの負異常を示す.またType 2は顕著なCeの正異常を示す .Sr-Nd同位体比については,交代性閃長岩類と母岩である花崗岩ともに近い値を示す. 希土類元素パターンにおいてType 2が示す特徴的なCeの正異常は,Type 2のCeがType 1や花崗岩類と近い値を示す一方で, Ce以外の希土類元素が低い値を示すことにより起因しており,このことはCeが母岩から2種類の閃長岩化に至るまで,移動しにくい性質を持っていることを示唆 している.そこで,2つの組成の異なる閃長岩類について,それぞれCeを不動元素としてIsocon解析(Grant, 1986)を行った.その結果,母岩の花崗岩類と比較してType 1ではBe, Mg, P, Ti, Mn, Co, Cdが増加し,B, Si, W, Pbが減少するのに対し,Type 2ではアルカリ金属元素(Li, Na, K, Rb)とHFS元素(Nb, Ta)が増加し,Ca, Cs, Pb, Euが減少する特徴がみられた.隣接するType 1とType 2において対照的な地球化学的特性が認められたことから,両者を形成する交代作用には組成の大きく異なる2種類の流体が関与したものと考えられる.一方,これらの流体の起源については,交代性閃長岩類と母岩の花崗岩類のSr-Nd同位体比が近い値を示すことから,Type 1とType 2の交代作用に関与した流体のいずれも母岩を形成した花崗岩質マグマを起源としている可能性が考えられる.
引用文献:Grant(1986), Economic Geology, 81, 1976–1982; 松浦ほか (2002) 20万分の1地質図幅「岡山及丸亀」, 産業技術総合研究所地質調査センター, 1‐2; 村上 (1958) 岩鉱, 42, 309-318; 43, 85-97; 村上 (1976) 岩石鉱物鉱床学会誌 特別号, 261-281; 桃井ほか (1991), 愛媛県地質図(20万分の1)第4版. 12₋15; 越智 (1991) 日本の地質8, 四国地方, 共立出版, 6-12.
2. 野外産状・岩石記載 当地域に産する2種類の交代性閃長岩類は局所的な範囲に,同一の花崗岩に伴って産出.Type 1は長さ30 m,幅10 m程の岩体として露出しており塊状・緻密な岩相を示す.一方,Type 2は長さ40 m,幅5 mの岩体として露出しており,空隙や有色鉱物のレイヤリングといった特徴的な野外産状が認められる.これらの交代性閃長岩類は間に40 m程の花崗岩を挟んで近接している.いずれも周囲の花崗岩との境界は不明瞭であり,岩相が漸移的に変化する.Type 1,Type 2共に主な構成鉱物はアルカリ長石,単斜輝石,柘榴石,チタン石であり,アルカリ長石には顕著なパーサイト組織または網目状のメソパーサイト組織がみられる.一方,異なる特徴としてType 1では単斜輝石と柘榴石の粒状集合組織が,Type 2では柘榴石が粒状の単斜輝石やアルカリ長石を包有する組織がみられる.
3. 結果・考察 交代性閃長岩類は特にSiO2, K2O, Rb含有量が花崗岩類より低く,Na2O, Sr, Ba含有量が高い.また,交代性閃長岩類の中でも,Type 1のFeO(total), MgO, CaO, Sr, Y, Ba含有量はType 2より高いのに対し,Al2O3含有量はType 1よりType 2の方が高い.希土類元素については,Type 1閃長岩,周囲の花崗岩類,Type 2閃長岩の順でその存在度が低くなる.また閃長岩類は両者ともEuの負異常を示し,Type 1よりType 2がより顕著なEuの負異常を示す.またType 2は顕著なCeの正異常を示す .Sr-Nd同位体比については,交代性閃長岩類と母岩である花崗岩ともに近い値を示す. 希土類元素パターンにおいてType 2が示す特徴的なCeの正異常は,Type 2のCeがType 1や花崗岩類と近い値を示す一方で, Ce以外の希土類元素が低い値を示すことにより起因しており,このことはCeが母岩から2種類の閃長岩化に至るまで,移動しにくい性質を持っていることを示唆 している.そこで,2つの組成の異なる閃長岩類について,それぞれCeを不動元素としてIsocon解析(Grant, 1986)を行った.その結果,母岩の花崗岩類と比較してType 1ではBe, Mg, P, Ti, Mn, Co, Cdが増加し,B, Si, W, Pbが減少するのに対し,Type 2ではアルカリ金属元素(Li, Na, K, Rb)とHFS元素(Nb, Ta)が増加し,Ca, Cs, Pb, Euが減少する特徴がみられた.隣接するType 1とType 2において対照的な地球化学的特性が認められたことから,両者を形成する交代作用には組成の大きく異なる2種類の流体が関与したものと考えられる.一方,これらの流体の起源については,交代性閃長岩類と母岩の花崗岩類のSr-Nd同位体比が近い値を示すことから,Type 1とType 2の交代作用に関与した流体のいずれも母岩を形成した花崗岩質マグマを起源としている可能性が考えられる.
引用文献:Grant(1986), Economic Geology, 81, 1976–1982; 松浦ほか (2002) 20万分の1地質図幅「岡山及丸亀」, 産業技術総合研究所地質調査センター, 1‐2; 村上 (1958) 岩鉱, 42, 309-318; 43, 85-97; 村上 (1976) 岩石鉱物鉱床学会誌 特別号, 261-281; 桃井ほか (1991), 愛媛県地質図(20万分の1)第4版. 12₋15; 越智 (1991) 日本の地質8, 四国地方, 共立出版, 6-12.