130th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

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T10[Topic Session]Culture geology【EDI】

[3poster23-26] T10[Topic Session]Culture geology

Tue. Sep 19, 2023 1:30 PM - 3:00 PM T10_poster (Yoshida-South Campus Academic Center Bldg.)

[T10-P-3] Preliminary report of rock composition and distribution of obstacle stones called "Ikezu-ishi" on the roadside

*Takeshi NAKAJO1 (1. Osaka Museum of Natural History)

Keywords:Ikezu-ishi, rock composition, locality, citizen science

京都や大阪などの古い集落を歩くと、壁や軒に自動車がこすらないように路傍に置かれている人頭大程度の大きさの石をよく見かける。これらの石は、通称で「いけず石」と呼ばれている(杉村,2018など)。いけず石は古い集落に多くあることや、容易に持ち運べる大きさではないことから、かつての建築資材や石製品を転用していることが多い(中条,2020)。それゆえに、いけず石はその地域のかつての石文化や周辺地域の地質をある程度反映していることが予想される。また、いけず石はそのほとんどが市街地にあるため、岩石の観察が容易であるため、報告者は市民科学(citizen science)の手法を用いていけず石の調査を行っている。本発表では、これまでの途中経過ではあるが、いけず石の分布といけず石を構成する岩石種の地域性について報告する。
 いけず石調査では、いけず石を以下のように定義した。「私有地と公道の境界付近に置かれている、駐停車や車の幅寄せの防止、軒などへの接触を避けるために置かれた天然もしくは天然の岩石を加工した岩石で、それ以外の目的を持たないもの。コンクリートなどで固定されていても構わない。」定義にあるように、いけず石は何らかの加工をされていても構わず、実際にいけず石には間知石や石臼などが多く用いられている。また、この定義における「それ以外の目的」を持つ岩石とは、道標・地蔵尊・道祖神・石塔・石敢當・灯籠・花壇の囲いなどを指す。 いけず石調査は2022年10月下旬から行っている。情報提供の呼びかけは、発表者が所属する大阪市立自然史博物館の行事、友の会会誌、ホームページ(https://sites.google.com/view/ikezuishi-shirabe/)、発表者個人のツイッターなどで行っている。調査方法は、特定の地区(■■市○○ ×丁目)の代表的な道路を歩いて、その区間にあるいけず石の個数とその岩石種および石製品が用いられていた場合はその石製品の名称とその石材について報告することとした。市民科学という面を鑑み、岩石の種類については厳密性を重視せず、目視で識別できる範囲とし、花こう岩、はんれい岩、火山岩、凝灰岩、礫岩、砂岩、泥岩、チャート、石灰岩、結晶片岩、片麻岩、その他、わからない、の中から選ぶことにした。2023年6月30日時点で、情報提供者数は44人・団体、提供データ数は1,505件15,835個である。
 これまで東北地方から沖縄までの情報が寄せられているが、そのほとんどは近畿地方である。そのうち、1地区に50〜100個の「いけず石」がある地区が50地区、さらに1地区100個を超えるような地区も13地区ある。一方で、50個を超える地区と5個以下の地区が隣接することがあり、その個数分布には大きな偏りがある。このような地域によるいけず石の個数の偏りは、集落の継続年数や近年の都市開発を反映していると考えられる。
 いけず石の岩石の種類も地域によって大きく違いがある。報告数が多い大阪市住吉区・東住吉区(住吉)、大阪府茨木市・高槻市(高槻)、大阪府泉佐野市・阪南市・泉南市・岬町(泉南)、兵庫県西宮市(西宮)、兵庫県姫路市(姫路)で比較すると、花こう岩は西宮では93%、住吉では76%と高い割合を占めるのに対し、高槻では50%、泉南では24%、姫路では14%と低くなる。それに対し、泉南では砂岩が60%、姫路では凝灰岩が80%といけず石の中に占める割合が最も高率となる。また、高槻は砂岩・チャート・泥岩・火山岩(緑色岩)など、付加帯の岩石が母材と考えられるいけず石が30%以上を占めている。これらいけず石の岩石種の偏りは、その分布域周辺の地質をある程度反映していることが考えられる。
 このようにいけず石調査によって、その分布の偏りや用いられる岩石種の地域性を把握することができることがわかってきた。さらに多くの情報を得ることで、いけず石文化の広がりと、いけず石の岩石種と周辺の地質との関係について知ることができるであろう。一方で、いけず石に用いられる石製品についてはまだ十分にデータの整理ができておらず、今後の課題である。また、いけず石調査は広範囲からのデータ収集が必要なことと同時に、市街地で行えることから、市民科学を用いた調査に非常に適している。調査に参加した市民は様々な岩石を観察することで、岩石の同定能力が向上し、ひいては地質学リテラシーの向上につながることが期待できる。この発表を通じて、いけず石調査に興味をもった地質学関係の方々にも、ぜひいけず石調査に参加してもらいたい。
文献
中条武司,2020,「いけず石」、種類を見るか?元の用途を見るか?Nature Study, 66,162-163.
杉村 啓,2018,いけず石観察手帳.私費出版,24pp.