[G-P-32] Cooling rate of entablature formed by water ingress into lava through fractures - Genbudo Lava, Iwate Prefecture, Japan
Keywords:columnar joint, hyaloclastite, pseudopillow, basaltic andesite, Immiscible silicate liquids
柱状節理の発達する溶岩や溶結凝灰岩には,節理の特徴の違いで区別される2種の層が見られることがある.平面に近い側面をもつ規則的な柱で構成されるコロネードと,一般に側面が曲面をした不規則な細い柱をもつエンタブラチャーである.この2層が認められる岩体では,コロネードの上層にエンタブラチャーが重なる場合と,下部コロネードと上部コロネードの間にエンタブラチャーが挟まる場合がある.エンタブラチャーはコロネードに比べ柱が細く,岩石の組織は細粒でデンドリティックな結晶やガラス質のメソスタシスの量が多い(Long and Wood, 1986等).このことから,エンタブラチャーはコロネードよりも冷却速度の大きい条件で形成したと考えられている. コロネードに比べエンタブラチャーで冷却速度が大きくなるメカニズムとして,節理を通じた外来水などの冷却剤の岩体内部への移動による対流冷却が考えられている(例えば,Forbes et al., 2014など).しかし,エンタブラチャーの形成にそうした冷却剤の浸入は必要でないとする考えもある(Spry, 1962; Grossenbacher and McDuffie, 1995; Hamada and Toramaru, 2020等).また,コロネードに比べ,エンタブラチャーの冷却速度の定量的理解に役立つデータ(柱の幅やチゼルマークの間隔等)は未だ乏しい.そこで我々は,エンタブラチャーとコロネードを有する岩手山山麓の玄武洞溶岩流を対象に,内部構造と岩石組織観察を行い,エンタブラチャーの形成過程を考察した.
岩手火山の南西部に分布する玄武洞溶岩流は,新期網張火山群(中川,1987)に属する玄武岩質安山岩溶岩である.岩手県雫石町の葛根田川沿いには,厚さ約70 mの溶岩流の末端が露出する.溶岩流の下から,コロネード(厚さ10–12 m),エンタブラチャー(45 m),最上部(約10 m)に分けられる. エンタブラチャーには2種類のメインフラクチャーが発達する.1つはエンタブラチャー全体に渡りネットワーク状に発達するシュードピローフラクチャーで,同フラクチャーに沿って長さ10–20 cm程度の垂直なフラクチャーが多数生じ,その部分では溶岩が黒色で光沢をもつ.もう1つは,互いにほぼ平行な曲面をもつシートフラクチャーで,シュードピローフラクチャーにほぼ垂直な面として発達する.溶岩流最上部には,溶岩本体から上方へ伸びる径1–5 m程度のフィンガー状の溶岩が分布し,指間には同質の火砕岩が堆積する.フィンガー状溶岩の輪郭に垂直に小さなフラクチャーが多数見られ,シュードピロー構造を形成する.この火砕岩の産状はYamagishi (1979)のBタイプのハイアロクラスタイトに相当し,溶岩流の最上部で水冷破砕が起きたことを示唆する.
エンタブラチャーのシュードピローフラクチャーから30 cm以上離れた部分は,石基の結晶度が高くほぼ完晶質である.それに対し,エンタブラチャーのシュードピローフラクチャー近傍は,石基の結晶度が低く間隙ガラスが認められ,石基の普通輝石マイクロライトには粒径数10 µmの半自形結晶と,粒径10 µm程度の樹枝状結晶の2種類認められる.これらのことから,シュードピローフラクチャー近傍で最も溶岩の冷却速度が大きかったことが示唆される.また,このシュードピローフラクチャー近傍の溶岩には,幅10 µm以下のパラゴナイト(火山ガラスと水の相互作用で生じた変質物)を含むマイクロフラクチャーが網目状に分布し,同フラクチャーに沿って気泡が多数生じている.このことは,溶岩の急冷はシュードピローフラクチャーを通じた水の浸入によってもたらされたことを示す.また,シュードピローフラクチャーを通じて浸入した水の核沸騰が示唆される.
エンタブラチャーのシュードピローフラクチャー近傍やコロネードの石基には,液体不混和で生じたと考えられるFeに富む液滴が分布する.マグマの冷却速度とFeに富む液滴のサイズは相関することが知られており(Honour et al., 2019),この関係を用いるとコロネードとエンタブラチャーの冷却速度はそれぞれ約49℃/h,642℃/hと求められる.
岩手火山の南西部に分布する玄武洞溶岩流は,新期網張火山群(中川,1987)に属する玄武岩質安山岩溶岩である.岩手県雫石町の葛根田川沿いには,厚さ約70 mの溶岩流の末端が露出する.溶岩流の下から,コロネード(厚さ10–12 m),エンタブラチャー(45 m),最上部(約10 m)に分けられる. エンタブラチャーには2種類のメインフラクチャーが発達する.1つはエンタブラチャー全体に渡りネットワーク状に発達するシュードピローフラクチャーで,同フラクチャーに沿って長さ10–20 cm程度の垂直なフラクチャーが多数生じ,その部分では溶岩が黒色で光沢をもつ.もう1つは,互いにほぼ平行な曲面をもつシートフラクチャーで,シュードピローフラクチャーにほぼ垂直な面として発達する.溶岩流最上部には,溶岩本体から上方へ伸びる径1–5 m程度のフィンガー状の溶岩が分布し,指間には同質の火砕岩が堆積する.フィンガー状溶岩の輪郭に垂直に小さなフラクチャーが多数見られ,シュードピロー構造を形成する.この火砕岩の産状はYamagishi (1979)のBタイプのハイアロクラスタイトに相当し,溶岩流の最上部で水冷破砕が起きたことを示唆する.
エンタブラチャーのシュードピローフラクチャーから30 cm以上離れた部分は,石基の結晶度が高くほぼ完晶質である.それに対し,エンタブラチャーのシュードピローフラクチャー近傍は,石基の結晶度が低く間隙ガラスが認められ,石基の普通輝石マイクロライトには粒径数10 µmの半自形結晶と,粒径10 µm程度の樹枝状結晶の2種類認められる.これらのことから,シュードピローフラクチャー近傍で最も溶岩の冷却速度が大きかったことが示唆される.また,このシュードピローフラクチャー近傍の溶岩には,幅10 µm以下のパラゴナイト(火山ガラスと水の相互作用で生じた変質物)を含むマイクロフラクチャーが網目状に分布し,同フラクチャーに沿って気泡が多数生じている.このことは,溶岩の急冷はシュードピローフラクチャーを通じた水の浸入によってもたらされたことを示す.また,シュードピローフラクチャーを通じて浸入した水の核沸騰が示唆される.
エンタブラチャーのシュードピローフラクチャー近傍やコロネードの石基には,液体不混和で生じたと考えられるFeに富む液滴が分布する.マグマの冷却速度とFeに富む液滴のサイズは相関することが知られており(Honour et al., 2019),この関係を用いるとコロネードとエンタブラチャーの冷却速度はそれぞれ約49℃/h,642℃/hと求められる.