日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッションポスター発表

G. ジェネラルセッション

[3poster38-47] G. ジェネラルセッション

2023年9月19日(火) 13:30 〜 15:00 G1-1_ポスター会場 (吉田南総合館北棟1-2階)

[G-P-34] 島根県江津地域の舞鶴帯に産する“夜久野岩類”のジルコンU-Pb年代とその意義

*木村 光佑1、川口 健太2、中野 伸彦2、足立 達朗2、早坂 康隆3、Das Kaushik3 (1. 大阪公立大学、2. 九州大学、3. 広島大学)

キーワード:舞鶴帯、江津地域、ジルコンU-Pb年代、夜久野オフィオライト

舞鶴帯の構成要素は,1) 大陸地殻起源の火成岩-変成岩類からなる北帯,2) 背弧盆地殻とペルム紀の背弧盆堆積物,およびそれらを不整合に覆う三畳紀の堆積物からなる中帯,3) 海洋地殻や海洋内島弧起源の夜久野オフィオライトからなる南帯,の3つに区分される[1].このうち北帯と南帯を構成する苦鉄質-珪長質火成岩複合岩体を総称して“夜久野岩類”と一般に呼ばれる.“夜久野岩類”のうち北帯のものは珪長質岩主体,南帯のものは苦鉄質岩主体であるが,北帯にも一定量の苦鉄質岩が含まれること,また南帯でも珪長質岩を多量に含む岩体も存在することから,岩相のみから両者の識別をすることは容易ではない.しかし,両者に産する“夜久野岩類”,特に珪長質岩のジルコン年代が北帯は新太古代から三畳紀までの幅広い年代を示す[2-4]一方,南帯では280 Ma前後にまとまった年代を示すのみ[5-6]であるため,ジルコン年代から両者を識別することが可能である.
 島根県江津地域に露出する舞鶴帯の“夜久野岩類”中の花崗閃緑岩からは約250 MaのジルコンU-PbおよびモナザイトU-Th-Pb年代が報告されており[7],舞鶴帯北帯に属する可能性が示唆される.そこで本研究では江津地域の舞鶴帯に産する珪長質~苦鉄質の“夜久野岩類”について岩石記載を行ない,珪長質岩,中間質岩,苦鉄質岩各2試料ずつについてジルコンU-Pb年代測定を行なった.
 江津地域の先白亜系は,岩相から北部の苦鉄質岩主体の変成オフィオライト岩体,南部の弱変成ペルム系田ノ原川層,東部の結晶片岩からなる波積南層に区分される[8].このうち変成オフィオライト岩体が舞鶴帯の“夜久野岩類”に,田ノ原川層が舞鶴帯中帯の舞鶴層群下部層に,波積南層が三畳紀変成帯の周防帯に相当するとそれぞれ考えられる.
 江津地域の“夜久野岩類”は全体に強い変質を被っており,一部試料を除いて多量のエピドートやゾイサイトが主に斜長石中に生成している.また全体にマイロナイト化を被っており,一部試料では顕著な面構造が発達している.珪長質岩はカリ長石を含む花崗閃緑岩とカリ長石を含まないトーナル岩に分けられる.中間質岩は斜長石,角閃石,石英からなる石英閃緑岩~閃緑岩で,角閃石と石英の量比に幅がある.苦鉄質岩は角閃石と斜長石からなる変斑れい岩で,一部試料ではエピドートでなく多量のゾイサイトが生成している.
 珪長質~苦鉄質深成岩の計6試料から分離したジルコンはいずれも自形でCL像では波動累帯構造を示す.珪長質岩から286 ± 6 Maと285 ± 2 Ma,中間質岩から274 ± 2 Maと281 ± 2 Ma,苦鉄質岩から284 ± 2 Maと288 ± 6 Maの206Pb/238U重み付き平均年代がそれぞれ得られた.全試料のコンコーダントなデータのTh/U比は0.2から2.2で,ジルコンが波動累帯構造を示すことを併せるとこれらの年代はいずれも深成岩類の固結年齢と考えられる.一部試料では250 Ma付近までスポット年代が広がっている.
 今回得られた約288–274 Maの年代は,夜久野オフィオライトの珪長質岩や苦鉄質岩から得られたジルコンU-Pb年代(293–276 Ma: [5-6, 9])に一致しており,また苦鉄質岩主体である点からも南帯の夜久野オフィオライトに対比されると考えられる.但し,江津地域の“夜久野岩類”が全体的にエピドートやゾイサイトが成長する含水条件下での変質を被っていること,一部試料では250 Ma付近まで年代がばらつくこと,250 Maの年代がジルコン・モナザイトの両方から得られていることから,250 Ma頃に何らかの熱水が関与したイベントを被った可能性が示唆される.
引用文献 [1] 加納ほか (1959) 地質雑, 65, 267–271.[2] Fujii et al. (2008) Isl. Arc, 17, 322–241. [3] 原田ほか (2015) 日本地質学会第122年学術大会講演要旨,R5-P-28.[4] Kimura et al. (2021) EPSL, 565, 116926. [5] Herzig et al. (1997) Isl. Arc, 6, 396–403. [6] Suda et al. (2011) 2011 JAMS & GSJ Meet., Abstr, R6-P-8. [7] 伏木・早坂 (2007) 日本地質学会第114年学術大会講演要旨,O-154.[8] 小林 (1979) 島根大学理学部紀要,13,145–159.[9] Suda et al. (2014) J. Geol. Res., 2014, 652484.