The 31st Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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嚥下リハからみた口腔機能低下症

座長:戸原 玄(東京医科歯科大学大学院摂食嚥下リハビリテーション分野 教授)

[EL1] 嚥下リハからみた口腔機能低下症

○野原 幹司1 (1. 大阪大学大学院歯学研究科 顎口腔機能治療学教室)

【略歴】
1997年:
大阪大学歯学部歯学科卒
2001年:
大阪大学大学院歯学研究科修了 博士号取得(歯学)
2001年:
大阪大学歯学部附属病院 顎口腔機能治療部 医員
2002年:
大阪大学歯学部附属病院 顎口腔機能治療部 助手(2007年より助教) 兼 医長
2015年:
大阪大学大学院歯学研究科 顎口腔機能治療学教室 准教授

現在に至る

専門分野
摂食嚥下障害,栄養障害,音声言語障害,睡眠時無呼吸症,口腔乾燥症

「口腔機能低下症」という病名が注目されている.口腔機能低下症とは「加齢だけでなく,疾患や障害など様々な要因によって,口腔の機能が複合的に低下している疾患.放置しておくと咀嚼障害,摂食嚥下障害となって全身的な健康を損なう(本学会HPより)」と定義される.したがって,機能障害の前段階ともいえる疾患概念である.

演者らは,摂食嚥下障害を専門とした臨床を行っており,口腔機能低下症の病名を付ける機会はないが,そこで経験されるのは摂食嚥下障害の症例はほぼ全例に原因疾患が存在するということである.初診時には原因疾患が無いとされていても,精査するとパーキンソン病や白質病変,ALS,食道腫瘍などが見つかる.

 このようにあとから原因疾患が見つかる場合も「口腔機能低下症」の段階があったと推察される.要するに,摂食嚥下障害まで進行する口腔機能低下症は,原因疾患の初期症状を捉えている可能性があるということである.疾患に起因する口腔機能低下症に対しては,訓練などどんな対応をしても摂食嚥下障害への進行を予防することはできない.それは,例えばALS症例の機能障害を訓練で予防できないのと同様である.

 一方,軽度のムセや咽頭残留感を訴える原因疾患のない口腔機能低下症の症例に対して,嚥下訓練を行うと症状が改善することは臨床的事実である.しかし,それら症例が,そのまま訓練せずに経過したとして,ムセの増加はあるにせよ,誤嚥性肺炎になるような摂食嚥下障害を生じるかというと疑問である.原因疾患なく誤嚥性肺炎になった症例を臨床でみかけることは無く,論文報告も渉猟する限り存在しない.

したがって,摂食嚥下に関して口腔機能低下症と付けるときは,原因疾患を他科とも協力し合って徹底して精査して「原因疾患なし」となってから訓練を行う必要があるのかもしれない.原因疾患なしとなった場合でも,常に「疾患の初発症状」を診ている可能性を考慮し「訓練すれば予防できる」と安易に説明しない方がいいのかもしれない.真に口腔機能低下の原因疾患が無い場合には「このままでは肺炎になりますよ」という説明は恐怖心を与えるだけかもしれない.
少しややこしくなったが,今回の発表では,摂食嚥下障害の自験例を提示しながら,嚥下リハからみた口腔機能低下症について考えてみたい.口腔機能低下症は加算に対して付けられた病名である.