The 31st Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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令和の老年歯科は炎症消退を通して全身の健康に寄与する 〜糖尿病・認知症領域から歯科が注目される時代〜

座長:水口 俊介(東京医科歯科大学大学院高齢者歯科学分野)

[EL3] 令和の老年歯科は炎症消退を通して全身の健康に寄与する 〜糖尿病・認知症領域から歯科が注目される時代〜

○西田 亙1 (1. にしだわたる糖尿病内科)

【略歴】
1988年:
愛媛大学医学部卒業
1993年:
愛媛大学大学院医学系研究科修了 (医学博士)
1994年:
愛媛大学医学部・第二内科 助手
1995年:
大阪大学大学院医学系研究科・神経生化学 特別研究員
1997年:
大阪大学大学院医学系研究科・神経生化学 助手
2002年:
愛媛大学医学部附属病院・臨床検査医学(糖尿病内科) 助手
2008年:
愛媛大学大学院医学系研究科・分子遺伝制御内科学(糖尿病内科) 特任講師
2012年:
にしだわたる糖尿病内科 開院, 現在に至る

人生100年時代という言葉が耳目を集めるようになったが、この言葉の裏には、恐ろしい事実が隠されている。英国の研究機関によれば、2007年生まれの日本の子供達は、その半数が107歳まで生きることが予測されている。健康な百寿者が増えるのであれば良いが、平成28年の時点で65歳以上の高齢者は医療費全体の6割(26兆円)を消費しており、日本人の生涯医療費は平均で2700万円にも達している。医療費だけではない。介護費もまた、90歳前半で年間132万円、95歳以上では202万円を必要としている。
 これから40年間をかけて、子どもと納税者が4000万人減少していく中で、我々は子や孫に、膨大な経済的負担を強いることになる。すなわち、今のままでは令和は「経済的子孫虐待」が顕在化する時代になってしまうだろう。この悲劇をいかにすれば防ぐことができるのか?演者は、問題回避に至るための鍵は、歯科医療が握っていると信じている。その根拠を「炎症制御」という観点から、内科医の立場で論じてみたい。

 2018年6月、アムステルダムで開催されたEuroPerio9において、アメリカおよびヨーロッパの歯周病学会は、19年ぶりに新しい歯周炎分類を発表した。この分類表の中に、「HbA1cと高感度CRP」が登場している。なぜ、歯周炎の新分類が「糖尿病と慢性炎症」に配慮することになったのか?その理由と背景を知ることこそが、日本国民が令和の歯科医療に期待するものを知るための鍵となる。
 加えて2019年1月、Science Advances誌に掲載された衝撃的な学術論文が、世界中を驚嘆させた。アルツハイマー病患者の脳組織中に P. gingivalis とその分泌酵素であるジンジパインが集積している事実が明らかになり、動物実験によりジンジパイン阻害薬の有効性が示されたのである。このジンジパイン阻害薬は、既にアルツハイマー病患者を対象にした第2/3相臨床試験が、欧米で実施されている。晴れて臨床試験が完了し、ジンジパイン阻害薬がアルツハイマー病治療薬として上市されれば、「世界中の人々が認知症予防のために歯科外来に殺到する」ことは間違いないだろう。
 本講演では、「不健口」がもたらす全身疾患に関する最新知見と、老年歯科医療に期待されるものを医科の視点から紹介する。

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