The 31st Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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学術用語ミニシンポジウム

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多職種連携におけるコミュニケーション・ツールとしての用語の重要性

座長:眞木 吉信(東京歯科大学名誉教授)

[MSY-3] 多職種連携における共通言語としての「学術用語」を考える

○山田 律子1 (1. 北海道医療大学看護福祉学部)

【略歴】
1990年:
千葉大学看護学部卒業
1992年:
東京大学大学院医学系研究科 修士課程修了,修士(保健学)
1992年:
札幌市中央保健所訪問指導員(副代表)
1993年:
医療法人渓仁会西円山病院(病棟主任看護師)
1996年:
北海道医療大学看護福祉学部助手(1998年講師,2004年准教授)
2002年:
北海道医療大学大学院看護福祉学研究科 博士課程修了,博士(看護学)
2004年:
米国ミネソタ大学大学院(看護学専攻・老年看護学)Visiting Scholar
2009年:
北海道医療大学看護福祉学部、同大学院看護福祉学研究科 教授(至 現在)

【資格・認定】
看護師、保健師、日本摂食・嚥下リハビリテーション学会認定士

【主な学会活動】
一般社団法人日本老年看護学会(理事),一般社団法人日本認知症ケア学会(第16回大会・大会長[2015,札幌]),公益社団法人日本看護科学学会(代議員),一般社団法人日本看護研究学会(評議員),一般社団法人日本摂食・嚥下リハビリテーション学会(第23回学術大会・副大会長[2017,幕張],評議員),特定非営利活動法人日本咀嚼学会(評議員),日本認知症予防学会(評議員),他

【主な受賞歴】
National Gerontological Nursing Association 18th Convention学会賞 (Judith V. Braun Clinical Research Award)ファイナリスト(2003),学校法人東日本学園 理事長表彰(2010; 2016), 第14回杉田玄白賞(小浜市,2015),他

【主な著書】
認知症の人への歯科治療ガイドライン(共著, 医歯薬出版, 2019)
歯科医院で認知症の患者さんに対応するための本:ガイドラインに基づいた理解・接遇・治療・ケア(共著, 医歯薬出版, 2019)
最新歯科衛生士教本用語集 ポケット版(共著, 医歯薬出版, 2019)
認知症ケア用語辞典(共著,ワールドプランニング, 2016)
生活機能からみた老年看護過程 第3版(編著,医学書院,2016)
認知症ケアガイドブック(共著, 照林社, 2016)
認知症の人の摂食障害:最短トラブルシューティング(共著, 医歯薬出版, 2014)
認知症の人の食事支援BOOK(単著,中央法規,2013)
看護大事典第2版(老年看護学責任編集, 医学書院, 2010),他

多職種連携を行う上では、共通言語としての「学術用語academic term」による円滑なコミュニケーションが不可欠です。適切な「学術用語」が各専門職による卓越したアセスメントの視点を明確にして、さらに豊かな医療・福祉の提供に結びつくことがあります。

 特に病院や施設に勤務する看護師は、患者や入居者の24時間の暮らしの営みを支援するため、2交代制または3交代制の勤務が通常です。交代によってケアが途切れないようにするには、「申し送り」や「看護記録」など「文字」によってケアを繋ぐ必要がありますが、一方で可能な限りの時間をベッドサイドケアに割くことが求められます。そこで、時間短縮のために「略語」が頻繁に用いられてきた経緯があるようです。また医師と同様に、好ましくない病状などを患者に悟られないための配慮から、いわゆる「専門用語(術語)technical term」が用いられています。

 しかしながら、狭い専門性の中で使用されてきた用語は、アカデミックな活動を行う場合には、時に多職種間の円滑なコミュニケーションを妨げることがあります。患者や入居者等の方々に最善の医療・福祉を届けるためにも、今後、多職種連携を通して、専門性を超えた共通言語としての「学術用語」を厳選して、後世に残していくことが重要であろうと考えます。

 例えば「摂食嚥下」という学術用語があります。摂食嚥下障害がある高齢者や、誤嚥性肺炎患者が増加する中、多職種による対応の機会も多くなっています。演者自身も、歯科医療関係者との実践や研究の中で、「咀嚼」の重要性に気づかされた経験があります。看護学分野においても、「摂食嚥下5期モデル」でいうところの「準備期」以降のアセスメントを行う際には「咀嚼・嚥下機能」という表現を用います。ヒトにとって味わいながらテクスチャーや香りを楽しみ、食べる喜びにもつながる「咀嚼」の視点はとても重要です。ところが、「摂食嚥下」として「咀嚼」という「用語」が抜けたことによって、咽頭期の安全性のみを重視する食形態が用意されてきた経緯があります。このように、使用する学術用語によって、医療・福祉の質にまで影響を及ぼすことがあるのです。

 多職種連携が不可欠な今後の教育・研究・臨床のなかで、後世に伝えたい共通言語としての「学術用語」を見直す時期が到来したのではないでしょうか。