[O一般-024] 歯科受診したひきこもり状態にある患者に対しソーシャルワーク介入により医療へのアクセスを支援した一例
【目的】
ひきこもりの当事者は、平成31年3月に内閣府発表の「生活状況に関する調査(平成30年度)」で明らかになったように、ひきこもり状態の長期化により中高年層の増大が指摘されている。今回、歯科受診したひきこもり状態にある患者に対し、ソーシャルワーク介入により医療へのアクセスを支援した一例を経験したので報告する。
【症例の概要と経過】
60歳代、男性。X年3月、市内の歯科医院からの紹介にて当院歯科口腔外科初診。画像検査および病理組織学的所見等により左側耳下腺悪性腫瘍の診断に至り手術は困難な進展例であった。さらに患者は40歳からひきこもり状態であり発語不明瞭で、担当医は筆談や図解で意思疎通に努めたが、治療や対症療法の受入は極めて消極的であった。そこで歯科医師から医療ソーシャルワーカー(以下MSW)に、ひきこもりへの相談を含めた今後の対応を依頼された。MSWが、患者から生活歴、経済的状況を聞き取ったところ、同居の弟とは関係が破綻しており治療の選択や自己決定への協力者は、兄のみであった。患者の不安の表出から、対人関係における心理的・社会的問題、経済的問題の解決を図る受診・受療援助が必要と考えた。MSWは患者と兄の同意を得て、区の生活保護課への受給適否の確認、在宅での支援体制として保健師への協力依頼、社会的交流の回復を意図した支援機関への相談を行った。さらに各職種がMSWを介して情報共有のうえ連携し、患者の医療へのアクセスの継続を支援の共通認識とした。
【結果と考察】
同年4月、症状の悪化から疼痛が増強、気道閉塞に伴い食事摂取も困難で脱水となり、自宅生活が限界となった際、患者は当院への入院を希望した。以前、区に生活保護を申請し却下されていた患者は、歯科医師やMSW、保健師からの生活保護課への働きかけにより、経済的援助の見通しがついたことで、医療を受入れるに至った。入院後は歯科医師の説明に基づき、症状に応じた医療の選択を患者自身の言葉で示すようになり、緩和ケアを経て同年9月に死去した。このようにひきこもり状態にある高齢者が歯科治療を求める例は、今後増加する可能性がある。社会的・経済的基盤の脆弱さから医療へのアクセスに至らないことは、重症化を招く恐れがあり、患者のみならず医療にとっても大きな損失である。適時適切なソーシャルワーク介入は適正な歯科受診に寄与すると考える。
(COI開示:なし)
ひきこもりの当事者は、平成31年3月に内閣府発表の「生活状況に関する調査(平成30年度)」で明らかになったように、ひきこもり状態の長期化により中高年層の増大が指摘されている。今回、歯科受診したひきこもり状態にある患者に対し、ソーシャルワーク介入により医療へのアクセスを支援した一例を経験したので報告する。
【症例の概要と経過】
60歳代、男性。X年3月、市内の歯科医院からの紹介にて当院歯科口腔外科初診。画像検査および病理組織学的所見等により左側耳下腺悪性腫瘍の診断に至り手術は困難な進展例であった。さらに患者は40歳からひきこもり状態であり発語不明瞭で、担当医は筆談や図解で意思疎通に努めたが、治療や対症療法の受入は極めて消極的であった。そこで歯科医師から医療ソーシャルワーカー(以下MSW)に、ひきこもりへの相談を含めた今後の対応を依頼された。MSWが、患者から生活歴、経済的状況を聞き取ったところ、同居の弟とは関係が破綻しており治療の選択や自己決定への協力者は、兄のみであった。患者の不安の表出から、対人関係における心理的・社会的問題、経済的問題の解決を図る受診・受療援助が必要と考えた。MSWは患者と兄の同意を得て、区の生活保護課への受給適否の確認、在宅での支援体制として保健師への協力依頼、社会的交流の回復を意図した支援機関への相談を行った。さらに各職種がMSWを介して情報共有のうえ連携し、患者の医療へのアクセスの継続を支援の共通認識とした。
【結果と考察】
同年4月、症状の悪化から疼痛が増強、気道閉塞に伴い食事摂取も困難で脱水となり、自宅生活が限界となった際、患者は当院への入院を希望した。以前、区に生活保護を申請し却下されていた患者は、歯科医師やMSW、保健師からの生活保護課への働きかけにより、経済的援助の見通しがついたことで、医療を受入れるに至った。入院後は歯科医師の説明に基づき、症状に応じた医療の選択を患者自身の言葉で示すようになり、緩和ケアを経て同年9月に死去した。このようにひきこもり状態にある高齢者が歯科治療を求める例は、今後増加する可能性がある。社会的・経済的基盤の脆弱さから医療へのアクセスに至らないことは、重症化を招く恐れがあり、患者のみならず医療にとっても大きな損失である。適時適切なソーシャルワーク介入は適正な歯科受診に寄与すると考える。
(COI開示:なし)