一般社団法人日本老年歯科医学会 第31回学術大会

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加齢変化・基礎研究

[O一般-033] 加齢が口腔内疼痛受容機構に及ぼす影響

○生田目 大介1、浦田 健太郎1、藤原 慎太郎1、大音 樹1、岡田 真治1、伊藤 玲央1、飯沼 利光1 (1. 日本大学歯学部歯科補綴学第Ⅰ講座)

【目的】
高齢者歯科臨床において,口腔粘膜での潰瘍の有無と疼痛発現の有無とが相関しない義歯装着患者への対応や,認知症患者の義歯治療では,疼痛の認知が不明確になり診断及び処置の決定が困難になる事がある。そこで本研究では,老化マウス(SAMP8)を用い,顎顔面領域の疼痛受容機構に関与する脳や延髄の免疫細胞であるミクログリアに着目した.すなわち,口腔粘膜損傷後の損傷部を支配する延髄の三叉神経脊髄路核尾側亜核(Vc)ニューロンでのミクログリアの発現及び性質変換に対する加齢性変化の解析により,高齢者の口腔粘膜の疼痛受容機構を検討することとした.
【方法】
雄性のSAMP8及び若年マウス(SAMR1)の上顎左側口蓋粘膜に切開を加え口腔粘膜損傷モデルマウスを作成した。切開自体の影響も考慮する目的でSAMP8非切開群,SAMR1非切開群も各実験に用いた。行動観察実験では,切開部にデジタルフォンフライを用いた機械刺激を加え,逃避閾値(MHWT)を切開後1日目から21日目まで計測し機械痛覚過敏発症に対する加齢の影響を検討した。MHWT計測により4群間で特徴的な閾値の差を認めた日時にて延髄を摘出し,Vc中のミクログリアの発現様相,傷害性(M1)保護性(M2)ミクログリアへの性質変換,及びミクログリアが放出するTNF-α発現に対する加齢の影響を免疫組織化学的に解析した。
【結果と考察】
行動観察実験の結果、SAMP8切開群は他の3郡と比較して切開後1日目から21日目までMHWTの有意な低下を認めた。免疫組織化学的解析の結果、SAMP8切開群は切開後3日目及び11日目で他の3郡と比較して活性化ミクログリアの発現増加を認めた。切開後3日目では,SAMP8切開群はSAMR1切開群と比較してM1発現の有意な増加を示したが,M2発現は変化を認めなかった。M1及びM2由来のTNF-α発現は有意な増加を示した。さらに,切開後11日目にSAMP8切開群はSAMR1切開群と比較してM1発現の有意な増加を認めたが,M2発現は有意な減少を示した。また,M1由来のTNF-α発現は有意な増加を示したがM2由来では変化を認めなかった。以上より,口蓋粘膜損傷後の機械痛覚過敏は加齢により増強及び持続し,VcにおけるM1発現増大,M2発現減少及びM1由来のTNF-α発現増加が関与する可能性が示された。
(COI開示:なし)