一般社団法人日本老年歯科医学会 第31回学術大会

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加齢変化・基礎研究

[O一般-035] 歯の喪失は三叉神経中脳路核の神経細胞死を介し三叉神経運動核の神経変性を生じる

○後藤 哲哉1 (1. 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 歯科機能形態学分野)

【目的】

 歯を喪失した場合の咀嚼機能への影響について、特に三叉神経中脳路核(Vmes)と運動核(Vmo)にどのような神経変性を生じるかについて詳細に検討した。

【方法】

 8週齢C57BL/6Jマウスを用い、麻酔下で両側上顎臼歯を抜去した。同じ週齢で抜歯を行わなかったものをコントロール群とした。抜歯窩および咀嚼筋にはFluorogold(FG)を逆行性に注入し、またコントロール群にはVmesにBiotinylated dextran amine (BDA)を注入して順行性に標識を行った。抜歯後、5, 10, 15日および1ヶ月後にマウスを固定した。免疫染色には抗Piezo2抗体(Vmesマーカー)、抗ATF3抗体(傷害を受けた細胞のマーカー), 抗Caspase 3抗体(細胞死マーカー)、抗TDP-43抗体(運動神経死マーカー)を用いた。本研究は鹿児島大学動物実験委員会の承認を得ている。

【結果と考察】
 Vmes神経細胞の歯根膜への神経投射はFGの逆行性標識、BDAでの順行性標識の両方で確認できた。また、咀嚼筋筋紡錘に投射しているVmesの神経細胞は歯根膜に投射している神経細胞より直径において有意に大きかった(p< 0.05)。抜歯後1ヶ月群では、非抜歯のコントロール群に比べPiezo2免疫陽性Vmes神経細胞の有意な減少が認められた(p< 0.05)。抜歯後、5日目でATF3免疫陽性細胞が認められたが、10日目、15日目ではその数は減少していた。また、10日目のVmes神経細胞に細胞死を示す切断型Caspase 3免疫陽性細胞が見られたので、抜歯後のVmes神経細胞死の一部は5-10日目の間に生じるものと考えられた。さらに、抜歯を行ったマウスのVmoには非抜歯群に見られなかった運動神経変性を示すTDP-43の核周囲への集積が認められた。これらの結果は、マウスにおいてもVmesから歯根膜への神経投射が存在し、Vmes歯の喪失によりVmes神経細胞死を介して一部のVmo神経変性が生じることが示された。歯の喪失は単に歯数の減少による咀嚼機能の低下だけでなく、咀嚼筋を支配する運動神経にも直接的な影響が生じることが示された(COI開示:なし)。