The 31st Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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一般演題(口演・誌上開催)

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症例・施設

[O一般-044] 関わりの中で[総義歯を有床義歯型PAPとして作製する技法]も用いて口腔機能の改善を目指した症例

○加賀谷 昇1、小林 美生1、齊藤 怜子1、小倉 満美1、植田 美知子1、児玉 あづさ1、加賀谷 忠樹1 (1. 加賀谷歯科医院)

【目的】

 舌の機能障害がある場合,舌の動きを補う為に考案された装置に,口蓋部を肥厚させた形で作製する補綴物[PAP]があり,その使用する意味から舌接触補助床と呼ばれている。構音障害や摂食嚥下障害の改善を目指すもので,口蓋床型と有床義歯型があるが,後者によって好結果が得られた症例を報告する。

【症例の概要と処置】

 85 歳,男性.在宅で生活している要介護5度の大脳皮質基底核変性症(パーキンソン症候群)患者で,主訴は舌の緊張により食事や口腔のケアが困難との事。治療計画は,口腔のケアおよび歯周処置,新義歯作製に向けた治療と作製後のリハビリテーション,摂食指導の3項目を柱とした。インフォームドコンセントの後,順次口腔機能の回復に向けて処置を実施。咀嚼障害に対しては,破折部のある総義歯の修理時に,咬合面レジン添加再形成にて改善を求めた。舌の緊張から生じている嚥下障害に対しては,粘膜調整剤を口蓋にも用いて舌の接触を印記し,口蓋部分を厚くする事で嚥下の補助に活用した。摂食指導においては,現状を把握する為に,VEを含む各種嚥下検査にて評価を行い,食品と食形態および食具を選択。 筋肉のマッサージ方法に加え,口腔の機能訓練としては,間接訓練において患者が好きな[奥の細道]の朗読や歌を取り入れた。

【結果と考察】

 総義歯の口蓋部に肥厚形態を付与した事で,嚥下機能のみならず構音機能も良好となった.。調整後,新義歯製作の結果,審美性,機能性に加え衛生的にも向上すると共に,食欲も向上した。難病で進行性である為,出来ていた事が徐々に出来なくなる辛い点に関しては,心と体に寄り添う丁寧な対応が大切であると考える。残念ながら道半ばで命が尽きてしまったが,お声掛け頂きお別れに行けた事は,悲しくも有難く感じた。無理はしないまでも口から食べる事にこだわり,最後の夜はスポイトでお酒まで飲んだとの事であった。一連の事柄に関われた事,そして在宅での歯科診療,義歯製作によって,最後まで口から食べる事ができて有難かったとご家族から感謝の言葉を頂いた事は,医療人として何よりの喜びであると感じた。当経験を基に,高齢者施設における咀嚼及び摂食嚥下障害の方,障害者施設における言語障害の方,などに対しても,同様の手法にて総義歯を有床義歯型PAPとして作製の上,口腔健康管理とできる範囲での機能訓練の指導といった生活支援を行っている。