The 31st Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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一般演題(口演・誌上開催)

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症例・施設

[O一般-046] 当初,三叉神経痛が疑われ疼痛管理に難渋したARONJの1例

○稲本 香織1、中川 紗百合1、松下 貴恵1、中澤 誠多朗1、渡邊 裕1、山崎 裕1 (1. 北海道大学大学院歯学研究院口腔健康科学分野 高齢者歯科学教室)

【目的】

 今回,当初は特発性ないし症候性の三叉神経痛を疑ったが,原因の可能性があった歯牙を抜歯後,症状が消失し他の検査所見の結果と併せて骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)が原因と考えられた1例を経験したので報告する。

【症例の概要と処置】

 85歳,女性。既往歴:高血圧,甲状腺機能低下症,骨粗鬆症,うつ病,脂質異常症,右頸動脈狭窄によるステント術後。X年3月,当科にて義歯調整を行っていたが,鉤歯の下顎右側第一大臼歯の動揺が強くなり抜歯を検討した。骨粗鬆症に対し経口BP製剤を4年間服用していたが,3度の腰椎と胸椎骨折の既往があったことから休薬は困難であったところ、再度の転倒により4か月間通院が中断した。X年9月,主に夜間帯,下顎右側から耳前部にかけての間欠性の電撃痛が発生し当科再受診した。下顎右側第一大臼歯周囲に明らかな炎症所見は認めず,抗菌薬,NSAIDsも全く効果を認めなかった。血液検査でもWBCは正常でCRP陰性であったことから,三叉神経痛を疑いカルバマゼピン100㎎から内服を開始した。200㎎まで増量しても効果は得られなかったが、コンプライアンスが不良であったため,カルバマゼピンの血中濃度測定と抜歯後の疼痛ならびに全身管理を目的に入院治療を計画した。当科受診時の血圧は収縮期で200㎜Hg以上あったため、内科の担当医に血圧のコントロールを依頼していたが軽度の改善しか認めなかった。アレンドロネート,クロピトグレル継続のまま,静脈内鎮静法下に下顎右側第一大臼歯の抜歯後を施行し,術後4日間の入院管理を行った。術中,根尖部の骨は一部茶色に変色壊死し、根尖部の肉芽様軟組織を摘出し閉鎖創とした。

【結果と考察】

 術後2日目から痛みは劇的に軽快,創部は一時哆開したが早期に肉芽が増生し骨露出は消退した。術後のCTで,抜歯窩と下顎管の近接,周囲に広範な慢性の骨髄炎の所見が確認された。また入院中に施行したカルバマゼピンの血中濃度は有効域に達していた。以上の結果より,三叉神経痛様の疼痛は下顎右側第一大臼歯周囲のARONJが原因と考えられた。今後,残存する下顎骨骨髄炎に対して高気圧酸素療法を予定している。