The 31st Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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一般演題(ポスター)

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加齢変化・基礎研究

[P一般-083] 口腔衛生状態とインフルエンザ
-口腔細菌によるインフルエンザウイルス感染促進作用と重症化メカニズム-

○今井 健一1,2 (1. 日本大学歯学部細菌学講座、2. 日本大学歯学部総合歯学研究所生体防御部門)

【目的】
 毎年のように大規模な流行を繰り返し、時として新型ウイルスがパンデミックを引き起こすインフルエンザは、高齢者や基礎疾患保有者において時に重症化し死に至るため、超高齢化が進むわが国にとって大きな脅威である。しかし、歯科医療においてインフルエンザは、感染経路および予防の観点から極めて重要な感染症であるにもかかわらず、世界的に見ても歯科領域におけるインフルエンザ研究はほとんど行われていない。
 インフルエンザウイルスの感染や増殖にはウイルスが保有する酵素:ノイラミダーゼ(NA)が必須であり、抗インフルエンザ薬はこのNAの作用を阻害することにより感染の拡大を防いでいる。唾液や歯垢中に細菌由来のNA活性が認められることから、NA産生口腔細菌がウイルスNAの働きを助長し、感染の拡大に関与する可能性を推察し本研究を企画した。

【方法】
  口腔細菌の培養上清中のNA活性をスクリーニングした後、細菌の存在及び非存在下でH3N2ウイルスをMDCK細胞に感染させ、新たに放出されたウイルス量をプラーク法により測定した。

【結果と考察】
 口腔細菌20種類をスクリーニングした結果、特にStreptococcus mitis及びStreptococcus oralisの培養上清において高いNA活性が認められた。両菌の培養上清存在下でウイルス感染実験を行った結果、放出ウイルス量はS. mitisで非存在下の約28倍、S. oralisで約21倍と著しく増加した。一方、NA活性のないS. sanguinisでは変化が認められなかった。さらに、抗インフルエンザ薬:ザナミビルに対する口腔細菌の影響を調べた。その結果、興味深いことにザナミビルはウイルスNAの活性を抑制する一方で、細菌由来のNAには無効であること、ザナミビルとS. mitis S. oralisの培養上清を同時添加した場合、ザナミビルのウイルス放出抑制効果が認められなくなることが明らかとなった。
 口腔内環境が悪く、口腔から気道へNA産生口腔細菌を常に嚥下している高齢者や要介護者では、細菌由来のNAがウイルス由来のNAの代わりに働くことでインフルエンザが重症化してしまうことが示唆された。本研究結果は、適切な口腔ケアにより口腔内の細菌数をコントロールすることが、インフルエンザの予防に効果があることを裏付ける科学的根拠の一端を提示していると考える。(COI開示:なし)