一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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認定医審査ポスター

2021年6月11日(金) 14:30 〜 16:30 認定医Line2 (Zoom)

[認定P-11] 上下顎義歯治療により口腔機能回復を図った一症例

○松田 岳1、市川 哲雄2 (1. 徳島大学大学院医歯薬学研究部総合診療歯科学分野、2. 徳島大学大学院医歯薬学研究部口腔顎顔面補綴学分野)

【緒言】

高齢になるに従い,全身の筋肉量が減少し,それに伴い口腔機能,摂食嚥下機能が低下し,咀嚼・嚥下のしにくさを生じることが考えられる。今回,咀嚼・嚥下機能が低下した高齢の患者に義歯治療を行い,良好な機能回復が得られたので報告する。



【症例】

91歳の女性。上顎全部床義歯の経年劣化のための新製希望と46抜歯に伴う咀嚼困難を主訴に来院した。使用している義歯は長期間の使用と人工歯の咬耗により咬合高径の低下と義歯の破折による修理を繰り返していた。脳梗塞既往(2006年,2018年)と高齢の影響により,飲み込みのしにくさを感じているとのことであった。口腔関連の機能検査を行ったところ,舌圧は22.4 kPa,グミゼリーを用いたグルコース溶出量による咀嚼能率検査値は65 mg/dL,感圧フィルムによる咬合力検査値は457 N,口腔湿潤度は23.1,EAT-10は3点,OHIP-J54は77点であった。診察・検査の結果,上顎無歯顎,46,47欠損による咀嚼障害,口腔機能低下症と診断した。なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。



【経過】

上顎全部床義歯人工歯の咬耗に対して,装着義歯の咬合面再形成を行い,咬合高径を前歯部で2 mm挙上し,治療用義歯とした。挙上後しばらく経過を観察した後,咀嚼・嚥下機能の向上を認め,口腔清掃指導の徹底により歯周状態の改善を確認した。顎関節にも問題を生じていないことを確認し,改造した義歯の咬合高径で上下顎義歯を製作することとした。治療手順は通法どおりで,装着後の経過は良好であった。装着後6ヵ月の検査では,舌圧値32.3 kPa,咀嚼能率検査値115 mg/dL,咬合力検査値1183 N,EAT-10は2点,OHIP-J54は25点になった。



【考察】

本症例は義歯の長期使用による人工歯の咬耗により咬合高径が低下,全身既往歴と高齢により咀嚼・嚥下機能が低下したと考えた。装着義歯を治療用義歯として改造し,さらに口蓋の研磨面形態を厚めに設定したことで,早期に機能回復を図ることができた。治療用義歯の顎間関係を含め義歯形態をできるだけ転写することで,より早期に新義歯に慣れが獲得でき,患者のQOL向上に寄与できたと考える。今後も口腔内と義歯の維持,管理を継続し,機能低下の防止に努めたいと考えている。