一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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認定医審査ポスター

2021年6月11日(金) 14:30 〜 16:30 認定医Line3 (Zoom)

[認定P-17] 脳梗塞後遺症患者の顎位改善により口腔機能の向上が認められた1症例

○小林 利也1,2、鈴木 聡行1,3 (1. 藤沢市歯科医師会、2. 辻堂デンタルクリニック、3. 鈴木デンタルクリニック)

【諸言】

 1次医療機関では全身管理が困難で,抜歯後の歯科処置が困難な3次医療機関の機能を補完する2次医療機関である当診療所に,偏った歯科的認識と幾多の歯科的問題を抱えながら来院した脳梗塞後遺症患者に対し,コーチング手順であるGROWモデルを用いて無歯顎となる不安を払拭,残存歯全てを抜歯し顎位を改善した総義歯装着により口腔機能の向上を図る事が出来た1例を経験したので報告する.発表に当たり本会倫理委員会の承認を受け,患者本人から文書による同意を得た.

 【症例】

患者は73歳男性,主訴は『入れ歯が合わず痛くて良く咬めない』.既往歴は脳梗塞,橋本病,パニック障害,糖尿病,高血圧,左側片麻痺であった.口腔内所見は,残存歯6本,Eichnerの分類C1,右側に顎位が変位した上下局部床義歯を使用,鉤歯は動揺と挺出により全て抜歯適応であった.BMIは19.2,食事は自立であるが軟食,ムセは無く,RSSTは正常であった.デイサービスで総義歯を外して食事をする人を見て無歯顎への不安が増大していたが,口腔機能の向上とADLの改善を目標に咬合再建を図った総義歯を提供した.

 【経過】

 若くして総義歯となった母親より『自分の歯は一本でも多く残した方が良い』と言われてきた為,抜歯に否定的だったが,中心位への顎位誘導を目的とした咬合平面の再構築・増床により義歯が安定,主訴が解決した.GROWモデルで応対し,歯科技術を以て信頼を得られたことが「抜歯して総義歯になる」決断の決め手となった.術後の総義歯の主観的評価は山本式総義歯咀嚼能率判定表を使用,蒟蒻や烏賊の刺身が食べられるまでに改善していた.また客観的評価には,グルコセンサーとJMS舌圧測定器による測定を行い,前者は術前の105mg/dLから術後261mg/dLに,後者は11.2kPaから最大19.0kPaを示した.また使用後6カ月にはBMIは21.5,入退室が初診時は車椅子であったが,杖歩行となった.

 【考察】
 偏った歯科的認識を持った全身管理が困難な患者へ,その背景を十分に考慮した対応が意識変化と行動変容に繋がり,歯科的問題にGoAやパラトグラム等の検査を応用し顎位を改善したことで,双方が納得する口腔環境を構築する事ができ,ADLの改善に繋がったと考えられた.また,地域完結型医療の一端を担う2次医療機関の必要性が示唆された. (COI開示:なし)