一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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認定医審査ポスター

2021年6月11日(金) 14:30 〜 16:30 認定医Line3 (Zoom)

[認定P-22] 成人T細胞白血病・リンパ腫を有する高齢患者の全身状態に配慮してインプラント上部構造を改変した一症例

○川野 弘道1、市川 哲雄2 (1. 徳島大学病院 口腔インプラントセンター、2. 徳島大学大学院医歯薬学研究部 口腔顎顔面補綴学分野)

【緒言】

 近年,口腔インプラントの生存率が向上し口腔内に長期間存在することにより,患者が高齢化・有病化した際の対応が新たな問題とされている。Müllerは,人生の終末期においてインプラント補綴装置を単純化し管理しやすい状態に移行させる「Back-off Strategy」の概念を示した。今回,成人T細胞白血病・リンパ腫(ATLL)を有する高齢患者に対しインプラント上部構造を単純化し改変した症例を経験したので報告する。

【症例】

 70歳の男性。現病歴は,ATLL/急性型,2型糖尿病。既往歴は,アスペルギルス肺炎,左側脳梗塞。初診時の口腔内所見は,64┛および7643┳367相当部にインプラント体を認め,3┓は粘膜下であった。6┳67インプラント体周囲には異常骨吸収を認め抜去適応であった。上顎にはインプラントオーバーデンチャー(IOD),下顎には固定性上部構造が装着されていた。脳梗塞の後遺症として,右側上肢に軽度麻痺を認めた。なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。

【経過】

 2019年1月にATLL発病,化学療法および放射線療法により2020年7月に寛解を認めた。同年8月にインプラントの精査を主訴に当科紹介受診。血液内科主治医へ照会し,易感染性および易出血性はなく外科処置は可能であった。局所麻酔下にて6┬67インプラント体を抜去した。直前の血液検査はWBC:5800/μL,PLT:15.1×104/μL,HbA1c:6.2 %であった。抜去部位の治癒後に74┬3インプラント体へヒーリングアバットメントを装着し,通法に従い下顎IODの新製を行った。術前術後の咀嚼機能検査値は168㎎/dl,160㎎/dlと共に基準値以上であった。また,口腔関連QOLのスコアは5点から30点となったが著しい低下は認めず,現在はメインテナンスに移行している。

【考察】

 ATLL/急性型は再発が多く,生存期間中央値が8.3ヵ月,4年生存率が11%と報告されている。予後予測が困難であり,治療介入のタイミングが重要と考えられた。本症例では,適切に外科的介入と補綴的介入を行うことで高齢患者のQOL低下を最小限に抑えることができた。今後,全身疾患や老化の影響によりセルフケアが困難となった場合においても管理しやすい口腔状態へ改善できたと考えられた。(COI開示:なし)