The 32nd Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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一般演題(ポスター)

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一般部門

[P一般-014] 在宅療養高齢者に対する摂食嚥下リハビリテーションとKTバランスチャートによる評価が有用であった1例

○森豊 理英子1、中川 量晴1、並木 千鶴1、柳田 陵介1、戸原 玄1 (1. 東京医科歯科大学老化制御学講座摂食嚥下リハビリテーション学分野)

【目的】
在宅療養高齢者にとって生活期における摂食嚥下リハビリテーション(嚥下リハ)介入は重要である。そこで今回,摂食嚥下機能評価に加え,心身の医学的視点や活動面など包括的な評価を可視化することが可能なKTバランスチャート(KTBC)を活用し,低栄養状態の在宅療養高齢者に対し, 訪問診療にて嚥下リハおよび歯科的介入を行った症例を報告する。

【症例の概要と処置】
 84歳,男性。脳出血,高血圧,糖尿病,せん妄,高次脳機能障害の既往あり,要介護5。硝酸イソソルビド貼付剤,オルメサルタン,ニフェジピン徐放カプセル,エナラプリルマレイン酸,ボグリボース,スルピリドを服用。令和2年5月,せん妄の悪化により経口摂取が難しくなり低栄養状態となった。同年8月,主治医から嚥下機能評価依頼があり,訪問診療を開始した。覚醒状態はJCS-Ⅱ-10,口腔状態は上下総義歯を使用。食事観察時,咀嚼は下顎の上下運動のみであり,義歯の不適合を認め,食塊形成不全が見られた。舌の運動不全に伴い,食塊の送り込み遅延が観察された。内視鏡検査にて,嚥下反射惹起遅延,水分及び唾液の誤嚥,嚥下後湿性嗄声を認めた。初診時のKTBCでは13項目の包括的評価のうち食物形態を除く12項目が3点以下であった。そこで,言語聴覚士(以下 ST)および訪問看護師と連携し各項目に対し介入を行った。点数の低かったKTBC項目⑥捕食・咀嚼・送り込みに関しては,適切な食事指導及び訓練指導を行った。また,既存の義歯の適合性を改善した後,口蓋部に新たな形態を付与し,既存義歯を舌接触補助床(PAP)として応用した。

【結果と考察】
 介入から5か月後,KTBCによる包括的評価13項目のうち9項目が向上し,栄養状態も回復した(Alb値2.9から3.3)。特に,口腔期(KTBC項目⑥捕食・咀嚼・送り込み)と本人の食べる意欲(KTBC項目①)が改善され,介護家族のモチベーション向上につながった。KTBCは介入すべき項目を可視化するのに有効であり,多職種においても評価しやすく情報の共有においても有用であった。