一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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[P一般-019] 口腔とCOVID-19との関連-歯周病原菌によるACE2と炎症性サイトカインの発現誘導-

○髙橋 佑和1,2、今井 健一2、飯沼 利光1 (1. 日本大学歯学部 歯科補綴学第Ⅰ講座、2. 日本大学歯学部 細菌学講座)

【目的】
 近年、歯周病が誤嚥性肺炎や昨年世界の死因の第3位となった慢性閉塞性肺疾患(COPD)の発症及び増悪原因となることが報告されている。一方、口腔ケアや歯周治療が、肺炎の発症やCOPD増悪を抑制することも報告されている。このように、口腔と呼吸器疾患は深く関連している。また、肺炎やCOPD患者に加え、COVID-19患者の痰や気管支洗浄液からも歯周病菌が検出されることから、口腔衛生不良による口腔内環境の悪化は、COVID-19の重症化に少なからず影響を及ぼしていると考えられる。そこで、誤嚥した口腔細菌が下気道に作用し新型コロナウイルスのレセプター:ACE2とCOVID-19重症化に関わるサイトカインストームの中心をなす炎症性サイトカインを誘導すると考え研究を行った。
【方法】
 Fusobacterium nucleatum(F.n.)の培養上清を肺胞上皮細胞に添加後、ACE2の発現をreal-time PCRとWestern blot及び蛍光免疫染色にて検討した。また、F.n.様々な呼吸器上皮細胞に添加しIL-8とIL-6の産生をELISAにて解析した。さらに、マウス呼吸器におけるサイトカイン誘導能も検討した。
【結果】
 歯周病原菌F.n.肺胞上皮細胞を刺激した結果、遺伝子及び蛋白レベルにおいてACE2の発現が強く認められた。また免疫染色においても多くのACE2の発現を認めた。さらに、F.n.好中球浸潤や組織破壊等に関わるIL-8とIL-6の産生を誘導し、その作用は誤嚥後、菌が最初に作用する咽頭及び気管の上皮細胞のみならず、プライマリーの肺胞上皮細胞においても認められた。また、F.n.代謝産物:酪酸がACE2IL-8・IL-6を誘導することを見出した。さらに、F.n.はマウス肺や血清において、肺炎起因菌よりも数倍以上強く炎症性サイトカインの産生を誘導した。
【考察】
 特に、口腔機能が低下している高齢者では慢性的な唾液の誤嚥が予想されるため、歯周病原菌は、1) ACE2の発現を介してSARS-CoV2の感染性を高める、2) 炎症性サイトカインを誘導し下気道の炎症を増強することにより、COVID-19重症化に関与する可能性がある。ウイルス性肺炎に加え口腔細菌による肺炎症の増悪が考えられ、COVID-19においても口腔ケアの重要性が示唆された。(倫理承認番号AP18DEN031-1)