The 32nd Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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摂食機能療法専門歯科医師審査/更新ポスター

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摂食機能療法専門歯科医師審査/更新ポスター

[摂食P-20] 唾液の貯留による会話障害と流涎を認めた高齢患者に対し各種の訓練が奏効した症例

○山崎 裕1 (1. 北海道大学大学院歯学研究院口腔健康科学分野高齢者歯科学教室)

【目的】
 口唇閉鎖訓練にはボタンプルなどが一般に行われているが、当科では以前から馬蹄形(トレーレジン製)の牽引装置を作成し訓練に用いている。今回、唾液が口内に溜まって話しにくく流涎も認めた患者に対し、同装置などを用いた各種の訓練により改善が得られた症例を経験したので報告する。
【症例の概要と処置】
 症例は82歳男性。以前から口内に唾液が溜まるのが気になっていた。1月前に近医歯科で部分床義歯を装着してから、一層気になり舌がもつれたような話し方になり、家族からも会話の不明瞭さを指摘されるようになったため同歯科からの紹介にて当科受診した。高血圧、狭心症、前立腺肥大の既往があり10種の内服薬を服用していた。口内には唾液の貯留は認められず、唾液分泌能検査で唾液分泌が異常に多い所見は認めなかった。嚥下機能検査ではRSST: 2回、改訂水飲みテスト:4点、舌圧:22kPa、口唇の閉鎖力低下、咽頭反射の低下、診察中に何度も流涎を認めた。嚥下造影検査を施行したところ、水分やゼリーで誤嚥、喉頭侵入は認めなかったが、喉頭挙上はやや悪く、空嚥下・追加嚥下ができなかった。口唇の閉鎖力が低下していたことから、咬合時の上下顎の石膏模型上から口腔前提を広く覆う牽引装置を作成し訓練を促した。訓練に際してはまっすぐに牽引するだけでなく、上下左右と様々な方向に牽引することを促した。また嚥下の惹起性が悪く、咽頭反射や喉頭挙上力も低下していることから、アイスマッサージ、Shaker法、舌圧低下に対しペコパンダ(M)での舌筋訓練も併せて指示し、以後1月ごとに訓練効果の確認を行った。
【結果と考察】
 3か月後には会話や流涎に改善傾向を認め、5か月後には会話は明瞭になり流涎も認めなくなった。舌圧は順調に回復し、1か月後には30kPaを越え、9か月後には40kPa近くまで達した。しかし、嚥下の惹起性は改善がなく日常生活には支障がないが、空嚥下は困難な状態であった。その後、特発性正常圧水頭症に罹患したが、シャント術により後遺症なく元の状態に回復した。その後、当科にも再受診され、2か月毎に定期的に経過観察を行っている。口腔機能低下症の精密検査も施行したが該当しなかった。嚥下の惹起性は各種の訓練を行っても改善が得られなかったことから、今後、食事の内容や食べ方について慎重に経過観察を行い、適宜、指導、改善を行っていく予定である。