The 32nd Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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摂食機能療法専門歯科医師審査/更新ポスター

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摂食機能療法専門歯科医師審査/更新ポスター

[摂食P-01] 多系統萎縮症の症状進行に応じた摂食嚥下リハビリテーションを実施した一症例

○山口 浩平1 (1. 東京医科歯科大学大学院 摂食嚥下リハビリテーション学分野)

【目的】

 多系統萎縮症や筋萎縮性側索硬化症など進行性の変性疾患では、症状の進行に応じて嚥下機能も著しく変化し、いずれは経口摂取が不能となる場合が多い。嚥下機能の変化やそれに伴う経口摂取の可否によって、摂食嚥下リハビリテーションの目的、対応できることも変わっていく。3年間にわたり、症状の進行に応じた摂食嚥下リハビリテーションを実施した症例を経験したので報告する。



【症例の概要と処置】

 72歳、男性。当科初診時より8年前に多系統萎縮症の診断を受けた。主訴は、食べ物が飲み辛いことであった。歩行障害による通院困難のため、在宅での対応となった。呼気力の不足、舌の巧緻性低下により十分な発声、構音も難しかった。当科初診時、米飯常菜、水分もとろみなしで摂取されていた。しかし、嚥下内視鏡検査で喉頭蓋谷、梨状窩の咽頭残留や喉頭侵入、水分の不顕性誤嚥が観察された。口腔期、咽頭期いずれの障害も認めたため、まずは、ばらけにくい形態や水分のとろみ付け、嚥下後の咳払いなどの代償法を指導した。しかしながら、病状は徐々に進行し、嚥下機能もそれに応じて低下していった。介入から一年後に胃瘻造設となったが、その際には誤嚥物の喀出も困難な状況であった。胃瘻造設後は栄養状態の改善に加え、食事による疲労もなくなったため、一時的に軽快した。口腔ケアや吸引を行いつつ、数口程度の経口摂取を続けた。患者は経口摂取に加えてコミュニケーションに対しても強い希望があったため、経口摂取に加えて、その他の生活面においても多職種と連携して残存機能を最大限生かせる方法を模索した。その後も症状の進行は続き、経口摂取の頻度や量は確実に減っていった。



【結果と考察】

 進行性の変性疾患では、摂食嚥下リハビリテーション介入中に嚥下機能も低下し続ける。在宅における摂食嚥下リハビリテーションでは、終末期に至るまでの介入も可能なため、症状の進行に応じた対応が求められる。そして、むしろ、経口摂取による栄養摂取確保が困難になった後の対応の方が難しい。しかしながら、その対応こそが、患者との長年にわたる関係構築に寄与し、患者やその家族にとっても大きな救いとなる可能性もある。