The 32nd Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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一般演題(ポスター)

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症例・施設

[P一般-068] 2種類の硬さの粘膜調整材を用いて舌接触補助床の口蓋形成を行った症例

○永尾 寛1、藤本 けい子1、後藤 崇晴1、市川 哲雄1 (1. 徳島大学大学院医歯薬学研究部 口腔顎顔面補綴学分野)

【目的】

 加齢や脳血管障害の後遺症などにより嚥下機能が低下した患者に対して、舌接触補助床を用いることは嚥下機能の向上に有益である。舌接触補助床の口蓋の形態は、患者の舌機能に合わせて術者が形成するものであるが、その形成方法は術者の経験に寄るところが大きく、舌の機能に調和した舌接触補助床の口蓋形成方法について詳細に規定したものはない。

 そこで、部位ごとに硬さの違う粘膜調整材を使用して口蓋形成を行い、嚥下機能が向上した1例を経験したので報告する。

【症例の概要と処置】

 86歳,男性。2015年に脳梗塞で緊急入院した。それ以来左側手足の軽度の運動障害および軽度の構音障害があった。また、水分嚥下時や急いで食事するとむせることがあった。その後、むせの頻度が多くなったため、近歯科医院を受診し、2020年12月に徳島大学病院歯科へ紹介された。

 当科初診時に口腔機能精密検査を行った結果、舌口唇機能低下、低舌圧、嚥下機能低下と診断した。誤嚥を恐れて水分摂取を控えているとのことだったので、水分にとろみをつけて摂取するよう指導した。併せて、舌口唇の運動訓練も指導した。その後、舌接触補助床を装着したが、違和感が大きく、使用頻度が少なかった。特に口蓋後方の違和感が大きいとの訴えがあったため、口蓋辺縁部は通常の硬さの粘膜調整材で、口蓋中央から後方にかけてはやや柔らかめの粘膜調整材を使用し(2回法)、口蓋形成を行った。

【結果と考察】

 嚥下障害のない健常者における嚥下時の舌接触圧は、口蓋辺縁部で約15 kPa、口蓋中央・後方部で約7 kPaと報告されている。予備実験を行った結果、粘膜調整材(ティッシュコンディショナー、ジーシー)を標準分液比で練和した場合、80秒後に6.7 kPa、105秒後に14.5 kPaになった。この結果をもとに、練和開始から指示する運動タスクまでの時間を調整し、適切な嚥下時舌接触圧が得られるよう、2回法によって口蓋形成を行った。この方法で形成したものは、はじめに通法で形成したものと比較して、違和感が少なかった。また、反復唾液嚥下テスト、改訂水飲みテスト、フードテスト、EAT-10で評価した結果、舌接触補助床未装着時と比較して、通法と同様の有効性が認められた。

 今後は症例数を増やし、今回行った2回法の有効性について検討する予定である。
COI 開示:なし