一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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症例・施設

[P一般-071] デンチャースペースを想定して補綴主導の骨隆起形成術を施行した高齢患者の1例

○木村 千鶴1、岡田 和隆1、馬場 陽久1、渡邊 裕1、山崎 裕1 (1. 北海道大学大学院歯学研究院口腔健康科学分野 高齢者歯科学教室)

【目的】
外骨症とは,局所において骨組織が過剰に発育し反応性に外方へ増殖する非腫瘍性疾患である.臨床において義歯を製作する際に骨隆起の存在が補綴処置の障害となることは少なくない.骨隆起形成術は高齢患者には侵襲が大きいため,骨隆起が局所的である場合は作業用模型上でリリーフし,骨隆起を回避した義歯の設計として対応するのが一般的である.しかし,骨隆起が広範囲に及び,かつ,デンチャースペースが極度に不足している場合には骨隆起形成術を施行せざるをえない.この場合,補綴装置が装着された状態を事前に想定した治療計画を立案する必要がある.今回,義歯が装着困難であった高齢患者に対し,全身麻酔下での広範囲にわたる骨隆起形成術後に補綴処置を行った症例を経験したので報告する.
【症例の概要と処置】
患者は65歳女性.X年に「左下の歯ぐきが腫れた」との主訴で当科を受診した.口腔扁平苔癬と診断され,X+2年まで加療および経過観察を行っていたが,その後受診が途絶えていた.X+5年,「下の入れ歯を入れられず見た目が悪い」との主訴で再受診した.口蓋正中部,上顎臼歯部頬側,下顎舌側に粘膜表面正常で周囲との境界明瞭な骨様硬の膨隆を認めた.上顎残存歯は全て咬合平面から挺出し,上下顎のデンチャースペースが極度に不足していた.広範囲にわたる顎骨外骨症,義歯装着困難による審美障害と診断した.
 広範囲にわたる骨隆起形成が必要なことから,外科的処置を行う担当医と連携し補綴主導型の治療計画を立案した.上顎残存歯は全て抜去とし,十分なデンチャースペースを確保できるよう研究用模型上でモデルサージャリーを行い術後の口腔内を想定した.過不足なく骨形成を行い,術後の顎堤形態が不整にならないためにモデルサージャリーの結果を再現するサージカルガイドを製作し,これを用いて全身麻酔下にて上顎抜歯術および骨隆起形成術を施行した.術後,創部の治癒が良好であることを確認し,上顎に全部床義歯,下顎に部分床義歯を装着した.
【結果と考察】
広範囲にわたる骨隆起により義歯の装着が困難となった患者に対しデンチャースペースを設定し,補綴装置が装着された状態を想定して補綴主導で治療計画を立案し,全身麻酔下で上下顎同時に骨隆起形成術を施行することで義歯装着が可能となった.また今後再び骨隆起の増大も考えられるため継続的な経過観察が必要である.
(COI開示:なし)