一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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症例・施設

[P一般-074] 認知症患者の全身麻酔下歯科治療経験

○旭 吉直1,2、畑中 有希1,2、宮本 順美1,2、大道 士郎1,2 (1. 社会医療法人大道会森之宮病院、2. 社会医療法人大道会ボバース記念病院)

【目的】

高齢化社会の到来に伴い,認知症を合併した様々な患者に対する歯科治療の必要性が増加している。今回,私達は認知症を合併した攻撃的な高齢者の歯科治療を経験したので報告する。

【症例の概要と処置】

患者:57歳,男性。認知症の症状が目立つようになり,49歳時に自宅近くのA総合病院の精神科を受診し,アルツハイマー型認知症と診断され治療を開始した。2013年10月からはB病院で治療を継続した。その後,不穏状態が出現するようになり,2015年8月から2017年10月の間に3回入院治療を受けた。この間,警察の介入を受けたこともあった。口腔衛生管理が困難であったため,う蝕や歯周病が進行し,C総合病院の歯科口腔外科を受診し,同院から紹介され,2018年10月に妻と介護職員に付き添われて当院を受診した。初診時,歩行困難で車椅子を使用していた。コミュニケーションが不可能で,オランザピン,ビペリデン,バルプロ酸ナトリウムなどを服用していたが,攻撃的で激しく拒否したため抑制下に短時間で口腔内診査を行った結果,数歯が保存困難と考えられた。通常の歯科治療は困難であったため,12月にプロポフォール(PROP)による鎮静下にパノラマエックス線写真撮影を行い,翌年の4月と5月にPROPとレミフェンタニル(RMFT)とフレキシブルタイプのラリンジアルマスクエアウェイ(LMAF)による全身麻酔下に4臼歯の抜歯とブリッジの形成,印象採得を行い,6月にPROPによる鎮静下にブリッジを合着した。血圧上昇(150/80mmHg)と徐脈(44bpm)以外に異常は認められなかった。全て日帰りで行われ,術後のせん妄や認知症症状の悪化は発生しなかった。

【結果と考察】

認知症患者の全身麻酔で問題となるのは,せん妄,認知症の進行,肺炎,呼吸不全などである。また,環境の変化による悪影響を減らすために短期間の入院が望ましいとの報告もある。今回,精神科主治医と連携してPROP,RMFT,LMAFによる低侵襲の全身麻酔により,これらの合併症を起こさず無事に管理を出来たと考えられる。