一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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症例・施設

[P一般-075] 下咽頭がん術後後遺症による摂食嚥下障害患者に対して耳鼻科医と連携した症例

○進藤 彩花1、草野 緑1、上田 智也1、岡澤 仁志1、大岡 貴史1 (1. 明海大学歯学部機能保存回復学講座摂食嚥下リハビリテーション学分野)

【目的】

下咽頭がん術後の摂食嚥下障害に対して,耳鼻咽喉科との連携のもとで摂食嚥下リハビリテーションを行った.

【症例概要】

69歳男性.X年に下咽頭がん,X+4年に右側顎骨壊死に対して腓骨再建を医科病院にて行った.術後は経過良好で義歯作製を希望し,本学病院を紹介受診した.顎補綴にて義歯作製後,飲み込みにくさを訴えたためX+5年4月に当科受診となった.食事は牛乳1ℓを3~4時間かけて摂取していた.義歯使用すると飲み込みにくく,さらに本人からは「うどんが食べたい」という訴えがあった.受診時体重は58㎏と減少傾向が続いており,体型はやせ型であった.13日後に嚥下内視鏡検査を行い,2㎝のうどんと牛乳を検査食品とした.90度座位にて検査し,義歯装着・非装着いずれでも実施したものの,いずれの場合も嚥下反射遅延,中咽頭全体への貯留を認めた.時間をかけ複数回嚥下を行うことでどちらも解消したが,うどんは複数嚥下後も残留はwash outされなかった.そのため,嚥下反射遅延,咽頭収縮不全,食塊移送不全など重度の咽頭期障害と診断し,液体中心の食事と複数回嚥下を指導した.同年7月,体重53㎏に減少して栄養障害が顕著となり,下咽頭がんの手術を行った医科病院にて咽頭憩室の疑いが指摘され,再手術の予定となった.憩室の確認や嚥下障害については歯科単独での対応は困難と考え,当院耳鼻咽喉科の医師と共同での嚥下内視鏡検査を行い,憩室の存在および残留食品の吸引などを実施した.咽頭期障害は重度であり経口摂取は限界があることを本人にも伝達し,歯科としての対応は上顎義歯の形態修正による食塊移送の改善を中心に行うこととした.当院補綴科に依頼し,上顎義歯の厚みを増やすことを依頼すると共に,栄養指導として牛乳以外にも代替栄養を併用し,体重の目指すこととした.

【結果と考察】

本症例では,咽頭がん術後の後遺症として重度の摂食嚥下障害を持つ患者に対して,歯科での対応では困難と思われた症状に対して耳鼻咽喉科と併診をおこない,摂食嚥下リハビリテーションのアプローチを行った.下咽頭の形態異常や機能低下が顕著であり,医科と連携することで詳細な咽頭期の問題および準備期の問題を把握できた.診療中には栄養状態の改善や体重の増加を達成することはできなかったが,今後も関連領域と連携し,より適切な対応を行うことが必要と考えられた.