一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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症例・施設

[P一般-077] 口腔底癌術後に対して下顎全被覆型LAPを作製した1例

○寺中 智1、尾﨑 研一郎1、河合 陽介1、堀越 悦代1 (1. 足利赤十字病院 リハビリテーション科)

【目的】
 口腔癌などの頭頚部領域の悪性腫瘍術後は著しく口腔機能低下が生じる。特に舌は口腔内で最大の筋であり、発音・咀嚼・食塊輸送と経口摂取に対して重要な役割を持っている。今回、口腔底癌術後の皮弁再建部をすべて覆う義歯(Lingual Augmentation Prosthesis;以後LAP)を作製した症例を報告する。
【症例の概要と処置】
 患者は年齢60代,男性。がん専門病院より下顎義歯の作製依頼があり、下顎で物を噛みたいとの主訴で当科を受診。4年前口腔底癌を発症し、依頼元の頭頚部科にて手術施行し(口腔底部悪性腫瘍摘出、舌亜全摘、両側頸部郭清)、喉頭挙上、腹直筋皮弁にて再建した。術後、化学療法・放射線療法を行った。現在食事形態はミキサー食で、その他うどんやそばを丸飲みする形で経口摂取していた。手術後の経過は良好であり、咀嚼して食事したいという訴えがあり、義歯作製となった。下顎は残存歯がなく、デンチャースペースが無く、皮弁は下口唇内側まで範囲が及び、口腔前提が消失していた。上顎は、残存歯12本あり正常アーチであった。このような状態で通法によって下顎をすべて覆う概形の総義歯を作製した。舌がないため、上顎口蓋部と接触させる補助床となる部分を軟質裏装材で作製した。フードテストを行い、口腔内残量を調整した。さらに嚥下造影検査(VF)を行い、口腔から咽頭までの食塊輸送を確認したところ、液体やトロミがついたものは、LAPがない時よりも残量が減少していた。咀嚼運動を必要とする食物(クッキー)は咀嚼様運動を行うが、舌がないため送り込みが不良であり、口腔内残留が生じた。本人の訴えであった咀嚼物摂取については交互嚥下の代償法を行い、摂取は可能であった。
【結果と考察】
 舌接触補助床(PAP)は舌の機能を補助する補綴物である。舌の機能障害に対して作製するもので、本症例のような口腔底部悪性腫瘍摘出および舌と合併切除する症例に対しても作製する意義はある。しかし、本症例では患者の“物を噛みたい”という訴えには合致しない。PAPと類似した総義歯様なLAPを作製することで物をつぶすことが可能となった。また、舌亜全摘したため、食物を人工歯でつぶすことはできるが、口腔内輸送する舌の機能を代償するのが困難な症例であった。LAP装着時について詳細な(口腔輸送や形態付与など)報告が少なく、今後の課題としたい。