一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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症例・施設

[P一般-078] 巨大な口蓋腫瘍摘出後の軟口蓋欠損に対し嚥下訓練のみで経口摂取可能になった1症例

○岩田 雅裕1 (1. サンズデンタルクリニック)

【目的】
腫瘍摘出後の軟口蓋欠損による摂食・嚥下障害には、ほとんどの場合補綴的アプローチで対応することが多く、嚥下訓練のみで対応することはまれである。今回、補綴的アプローチでの口腔内構造の再建することなく、摂食嚥下障害に取り組むこととなった1例を経験したので報告する。
【症例の概要と処置】
 82歳、女性。狭心症、冠動脈バイパス手術の既往あり。数年前に口蓋腫瘍のため某病院受診、生検にて多形性腺腫の診断を受けるも治療希望せず放置。初診4か月前より、口蓋の腫瘤は口腔内全体を充満する大きさまで増大、閉口、摂食困難となり、流動食のみで対応していた。口腔内からの多量出血のため、救急搬送即日入院となった。入院時、栄養状態不良。口蓋全体の腫瘤を認め、腫瘤により閉口困難、腫瘤は弾性硬、無痛性であった。CTにて軟口蓋から上咽頭部にかけて直径80mm大の腫瘤を認め、腫瘤は咽頭後壁を圧迫し、上気道を閉塞していた。入院5日後、全身麻酔下で腫瘍摘出術を施行、病理検査結果は多形低悪性度腺癌であった。術後の口腔内所見は、軟口蓋完全欠損、硬口蓋後方部欠損、上顎は前歯のみ残存であった。術後10日経過良好にて、摂食、構音障害改善のため顎義歯を装着した。経口摂取を流動食より試みるも、残存歯動揺により顎義歯の安定得られず、鼻腔への食物の逆流が多く、顎義歯の装着を拒否された。摂食嚥下障害のゴールを、自宅での安全な経口摂取とし、看護師、言語聴覚士、歯科衛生士による舌運動訓練、空嚥下訓練、息こらえ嚥下訓練、口唇閉鎖訓練など直接・間接嚥下訓練にて対応した。また、独居老人であることから管理栄養士によるゼリー食への食形態、調理法の指導を行った。術後30日、術創部経過良好、鼻腔への逆流は少量認めるも経口摂取可能となった。
【結果と考察】
 本症例では、補綴的アプローチを試みたものの患者の強い希望にて、口腔・咽頭の解剖学的形態が再現されない状態で、嚥下訓練のみで改善を目指した。歯科医師、看護師、言語聴覚士、歯科衛生士、管理栄養士の多職種連携により、独居で自宅にて普通食摂取可能な状態まで改善できた。摂食・嚥下の改善には、補綴処置は欠かすことができないことは明らかであるが、状況によって不可能な場合には、多職種の連携による、嚥下訓練、食形態改善などが有効であり、非常に重要であると考えられる。