一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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症例・施設

[P一般-079] ALS患者に軟口蓋挙上装置と舌接触補助床の混合装置を装着することでQOLの維持を図った1症例

○小林 琢也1、島田 崇史1、米澤 紗織2、米澤 悠2、近藤 尚知2 (1. 岩手医科大学 歯学部 補綴・インプラント学講座 摂食嚥下・口腔リハビリテーション学分野、2. 岩手医科大学 歯学部 補綴・インプラント学講座 補綴・インプラント学分野)

【目的】
 筋萎縮性側索硬化症(ALS)にはいくつかの症型があるが,摂食嚥下障害はどの病型でも必発する。進行性の疾患であり残存機能も経時的に変化するため,進行に合わせた代償的なアプローチが必要となる。今回,摂食嚥下障害が発症したALS患者に対して軟口蓋挙上装置(PLP)と舌接触補助床(PAP)機能を持つ混合型の装置を装着し進行に合わせた調整を行うことで構音機能と嚥下機能を維持した症例を経験したので報告する。
【症例の概要と処置】
 68歳,女性。20✖✖年2月に近医より岩手医科大学脳神経内科を紹介されALS初期の疑いで経過を観察していた。1年経過した2月に体重減少,構音障害の進行,筋萎縮と筋力低下,病的反射が出現し,Awaji基準のProbable ALSと診断され加療が開始となった。その後も,嚥下障害,構音障害が進行しため,今後の栄養摂取法の検討目的で同年12月に入院し嚥下機能評価依頼で摂食嚥下センターを受信した。検査の結果,Functional Oral Intake Scale分類のレベル5と判定した。嚥下内視鏡検査では兵藤スコアー3点,構音時の鼻咽腔閉鎖不全を認めた。また、口腔乾燥,舌口唇運動機能低下,舌圧低下による口腔機能低下症を認めた。本患者はALS病型の進行性球麻痺型で舌,鼻咽腔閉鎖機能の低下による構音障害が先行していることからPLPとPAPの機能を併せ持つ混合型の装置を製作し装着することとした。
【結果と考察】
 装置製作から装着までの2週間においても舌口唇運動,舌圧,咀嚼能力が急速に低下した。装置装着により口腔機能は初診時の状態まで改善し,機能低下の進行は緩やかとなった。構音機能においても開鼻性の改善と発生持続時間の延長を認めた。本人や家族も構音機能と嚥下機能が改善したことで生活しやすくなったと喜んでいる。自宅退院後も訪問診療を行い,多職種や家族と情報共有を行いQOLの維持が出来るように装置の調整や嚥下指導を行っている。
 ALSによる機能低下を抑制することは困難であり有効な対応は限られている。今回、PLPとPAPの機能を併せ持つ混合型の装置で、進行する病状に合わせて容易に調整が可能な装置に設計したことで、症状が進行しても患者が求めるQOLを維持することができている。ALS患者のQOLの維持に機能を代償する装置装着は有用性であることが示唆された。