The 32nd Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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一般演題(ポスター)

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症例・施設

[P一般-080] 訪問診療で遭遇した歯肉癌患者への対応の一例 〜 訪問診療における細胞診の活用 〜

○内田 翔1、鈴木 典子1、大房 航1、赤松 那保1、石川 達哉1、朝倉 俊1、小山 立子1、飯田 良平1,2、齊藤 理子2、菅 武雄1 (1. 鶴見大学歯学部高齢者歯科学講座、2. ヒューマンデンタルクリニック)

【目的】
 患者の高齢化により、歯科訪問診療の件数も増加傾向にあり、訪問先で口腔外科的な対応が必要な症例も増加している。今回、歯科訪問診療において、歯肉癌が疑われる症例に対し細胞診を実施して診断を行い、細胞診の有用性を経験したので報告する。

【症例の概要と処置】
 96歳、女性。X年10月、軽微な脳梗塞加療のため急性期病院入院中に下顎前歯部歯肉の疼痛を訴え、当科に歯科訪問診療が依頼された。初回時には、右下犬歯相当部から右下側切歯相当部にかけて排膿及び接触痛、接触時の出血が認められた。入院以前の経過として、X年7月にかかりつけ歯科訪問下にて下顎前歯部を抜歯し、その後、治癒不全の為に再掻把を実施していたことが確認できた。再掻把後も炎症所見が続いたため、消炎処置を継続していた。これまでの経過および視診、触診により歯肉癌を疑い、細胞診を行った。細胞診では扁平上皮癌ClassⅤであった。口腔管理として、義歯は装着させず、含嗽と残存歯のブラッシングによる口腔衛生管理を指示した。食形態をソフト食にし、経口摂取を継続させた。経口摂取時の疼痛に対しては非ステロイド性抗炎症薬によりコントロールした。下顎左側の残存歯による上顎歯肉の潰瘍が認められたため、マウスピースを製作し、疼痛の軽減を図った。入院中の急性期病院では口腔癌急変時の対応が困難であったため、確定診断および疼痛コントロール、今後の療養指導などを主目的として歯科口腔外科を併設する病院へX年12月に転院となった。転院後、疼痛コントロールを行ったが、X+1年1月に逝去された。

【結果と考察】
 本症例では、口腔外科専門医が不在な状況下において、診断精度を高めるために訪問診療で細胞診を導入した。口腔粘膜病変は、鑑別が困難な場合が多く、さらに歯科訪問診療では複雑な検査は制限されてしまい、診断が難しいことがある。細胞採取が簡便で外科的侵襲が少ないとされる細胞診を導入することで、精度の高い診断が可能であった。在宅医療の質の向上のために、口腔粘膜病変の診断方法の選択肢の一つに細胞診も有効であると考えられた。
(COI開示:なし)