一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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地域歯科医療部門

2021年6月12日(土) 10:10 〜 11:10 Line B (ライブ配信)

[優秀P地域-03] 訪問歯科診療における「液状化検体細胞診(LBC)」の使用経験

○板橋 志保1,2、岡橋 美奈子1、岸 さやか1、阿部 吏芳1、遠藤 千恵1,2、小牧 健一朗2、宮田 英樹2、菅野 和彦2、川俣 富貴子2、小川 匡仁2、長田 純一2、小菅 玲2 (1. (一社)仙台歯科医師会 在宅訪問・障害者・休日夜間歯科診療所、2. (一社)仙台歯科医師会)

【目的】
 訪問歯科診療において口腔がんをはじめとする粘膜病変に遭遇することが増えている。しかし従来,訪問歯科診療の限られた条件下では,術者の視・触診に頼って診断が下されることが多かった。患者を円滑に専門科へつなぐためには簡便に実施でき且つ,患者や介護者に根拠を持って呈示できる診断手法が必要である。LBCは煩雑な操作を必要とせず患者への侵襲も少ないため,全身状態の低下した訪問歯科診療患者にも使用しやすい検査方法であり当診療所では3年前より導入している。これまで訪問歯科診療においてLBCを使用し口腔がんと診断した症例は3例であるが,これらの症例への対応と経過からLBCを訪問診療で使用することの有用性について考察したい。
【症例の概要と処置】
 3例中2例は老健入所中の90代,1例は居宅の60代患者である。老健の2例は歯科関係者が気づき検査を実施、居宅の1例は口内炎が酷いとの主訴で訪問したところ口腔がんを疑い検査した。いずれも診断はLBCにてClassⅤであったが、老健の2例は高齢を理由に専門科の受診を渋った。繰り返し面談の機会を設け,本人・家族の意向を尊重しつつ,万が一に備えた体制をどのように整えるか相談した結果,1例は出来る限り長く老健で過ごした後に緩和ケア病院へ入院,1例は老健で看取りまで行った。居宅の1例は本人・家族へのインフォームドコンセントの結果,第三次医療機関へ紹介・加療となった。
【結果と考察】
 訪問歯科診療の対象者はいずれも通院困難な何らかの理由を抱えているため,口腔がんを疑う症例であっても第三次医療機関の受診を躊躇うことがある。今回経験した3症例は視・触診にて口腔がんを疑う状態であったが,客観的評価方法としてLBCを使用,結果を呈示したことで本人や介護者に口腔内状態の重篤さを理解してもらいやすくなり,またその後の対応を決める際には他職種への理解も求めやすくなった。患者の生活を支援する立場の訪問歯科診療において,口腔がんの早期発見・早期治療を行うこと,或いは積極的加療を希望しない場合でも緩和ケアを含めた予後方針の提案を円滑に行うことは,地域包括ケアの実践において重要である。LBCは簡便性・携行性の高さ,及び繰り返し検査が可能な点から,全身疾患を抱える要介護者へも使用しやすく訪問歯科診療で活用する意義は非常に大きいと考える。(COI開示:なし)